83 お宅を見学
前回のフランツの親父の反響(?)、ありがとうございましたw ものすごい数の感想が来て、完璧に返しきれてないのもあるかもしれませんが、ご容赦ください……。
その後、軽く問いただしたところ――
ムッツリだった親父は引くに引けなくなって、硬派キャラということで通すことにしたという。
「ほら、通っていた学校の生徒たちがコルタは硬派な奴だとかよく言っていてな。いつのまにか、自分でもそういう性格として振る舞うのが楽になっていった。それにコルタってなんか硬そうな名前だろ?」
ああ、他人に規定された人格に自分もなっていくということか。そんな人生の悲哀的なことが親に起きてたのか……。
「本当は女にひょいひょい声をかける男をうらやましく思っていたがヘタレのため、そんなことはできず、しょうがないので、硬派だからそんなことはしないという設定にした」
「もうやめてくれ! 子供の俺の体力が尽きる! これ以上、幻滅させないでくれ!」
「フランツ、ワシも男だ。仕方ないんだ。これが男の限界というものだ。お前のあまりのうらやましさに本音が出てしまったのだ。魂の叫びを誰にも止めることはできん! たとえ、自分であってもだ!」
かっこ悪すぎて、かえって新境地に到達している気すらする。
それから、親父が女子を全員、我が家に強引に泊めようとしたが、俺が割って入った。
「宿も当日だとキャンセル料がどうせかかるし、ここは素直に宿に泊まってもらおうな! ていうか、母さんに殺されるぞ!」
「フランツよ、この皆さんなら、母さんに殺されるだけの価値はある!」
「そんなところで男らしさを発揮してどうするんだよ!」
なんで、この人生に一片の悔いもないような顔して語るんだ!
「あのな、ワシは会計士だが、男の情熱だけは割り切れんのだ!」
「もう、一言も発言しないでくれ! 頼むから!」
結局、当初の予定どおり、セルリアとメアリを家に呼ぶことにした。
親父の態度がひどいので、逆に二人もお金出して宿に泊まってもらおうかと思ったけど、二人に実家を見せることも悪いことじゃないので、そこは妥協する。
帰路、親父が「ワシも黒魔法使いを目指すべきだったか」とかしょうもないことを言っていた。本当にしょうもない。
そして実家に着いたら着いたで、出迎えに出てきていた母さんのミルキに泣いて喜ばれた。それはそれで謎の反応だった。
「フランツにこんな女の子が……。地元だと女の子の友達すらいなかったのに……。一人息子だから、結婚できるのかなとか不安だったのに……。これなら、なんとかなりそうだわ……。子孫を残せるわ……」
「それ、セクハラに近い発言だからやめろ! あんたら、息子に恥をかかせるのそれぐらいにしてくれ!」
険悪な空気にならなかったのはよかったとはいえ、こういうのも困るぞ。
その日は母さんがそれなりに気合いの入った料理を二人にも振る舞ってくれた。
「へえ、大きなエビですわね」
「この貝も名前はわからないけど、なかなかの美味だね」
ライトストーンは海がすぐそばなので、海産物のレベルは高い。そりゃ、新鮮なものをすぐ入手できるからな。
「よし、食後はみんなで王様ゲームをしたりなどするというのはどうだろうか?」
親父が下心丸出しの発言をした。
「フランツ、父親を生贄に捧げる黒魔法とかってないのかしら?」
母さん、気持ちはわかるけど、それ、明確な犯罪です。
その日は海に行った疲れもあり(直射日光をずっと浴びてると、けっこう疲労が出る)、与えられた部屋でそれぞれ眠りについた。無論、俺は二人とは別室だ。
そして、翌朝。せっかくだし、セルリアとメアリに家を案内することにした。
「こっちが家の納屋。実質、この家で一番古いな。もしかしたら文化財クラスかもしれない。まあ、扱いは物置だな」
俺は別棟になっている巨大な建物を紹介した。王都の学生用アパートよりも大きいかも。その時代の石の建築はかなり緻密に作られているので、きれいに残っている。
「へえ、ご主人様もかなりいい出自だったんですわね」
お嬢様のセルリアと大金持ちのメアリからしたら、ギャグみたいなサイズだけど。
「由緒があることだけは確かだったんだと思う。でも、貴族階級とかそういうのじゃ全然なくて、代々市民としてやってたぐらいだからな」
「でも、市民階級っていっても、上のほうだと市長になったり市参事会の議員になれたりするんだろ?」
メアリ、そのへん詳しいな。見た目の年齢で騙されてはいけない。
「三百年前は昔の、身分制がもっときつかった時代の話な。あと、議員になれたりするのって権利というより義務なんだよ。議員って無給だったから。立場のある奴が都市のために尽くせって意味でもあったから。もちろん名誉でもあるけど、そういう義務がきつくなって没落した市民もいる」
俺の家も少なくとも町の中心に大きな屋敷を構えるようなことは、かなり昔からできなくなって、細々と生活を続けたらしい。家が郊外にあることからもそれがわかる。
「それにしても、そこそこ裕福でよかったね」
メアリは扉を開けようとしていた。カギはかかってたけど、メアリの力だとカギごとぶっ壊しかねないので、あわててカギをまとめてるのを渡した。
「そんなところ開けても何もないぞ」
「でも、ここって今は物置なんでしょ? 何か面白いものがあるかもしれないじゃん」
そんないいものなんてないと思ったけど、家の建物を説明するだけじゃつまらないし、別にいいか。言われたとおりにカギを開けた。
中は想像どおり、ホコリくさい。
「これは、放置されているといった感じですわね」
口を押えながらセルリアが言った。
「うん、とくに奥は下手すると百年以上ほったらかしかな」
「それって、すごいお宝もあるかもね!」
メアリはテンションがかえって上がっていた。そうか、冒険ごっことか好きなタイプか。
そして、どんどんメアリは奥へと突き進んでいく。空中を浮けるので、一気に距離を稼げるのだ。
「これ、すごく厳重に封印されてるね」
「待ってくれ。そこまですぐには行けないから……」
セルリアに抱えられて、蔵の中でもいかにも薄暗いところにいくと、十以上の錠をされた扉付き書庫があった。
「これは何かあるよ。ねえ、開けていい?」
「好きにやってくれ。どうせ、親父も開けたことないんだろうし」
すぐにメアリは錠をはずした。はずしたというか物理的な力で壊した。
書庫の扉はぎいぃぃーと不愉快な音を立てて、開いた。




