82 見つかってしまった
その後、俺は(ちゃんと服を着た、といっても踊り子の服だったけど)みんなにあらためて自分が「心の眼」という魔法を手に入れた経緯を話した。
でも、ケルケル社長すら、頭を左右に動かして思案している様子だった。
「う~ん、可能性はなくもないですよ。なくもないですけど、多分フランツさんは否定すると思います」
「いったい、どういうことですか?」
「つまり、実はフランツさんは過去にその魔法を習っていたという説です」
「あー、たしかに筋は通りますけど、それはないですよ……。だって、俺の親は黒魔法使いじゃないですから。魔法使いですらないんです」
親父は会計士で、母さんは古書店の娘で店員をしていた。親父が古書店に寄った時に知り合ったらしい。
なんと、わざわざ付き合いたい旨を親父は紙に書いて相手に渡したという。礼儀にはかなっているけど、かなり古風なやりとりだ。堅物親父の面目躍如たるものがある。
「けれど、どこかでそういうものを習得しなきゃ、ただの人がいきなり使えるわけはないんですよ。私もおそらく使えないほど特殊な魔法です」
あれから先、謎の声も聞こえてこないしな。不具合はないから、いいとするか。
俺たちはまた亀のン・ンダーロ・ンルドに乗ってライトストーンの海岸に戻った。もう、日暮れも近くて、海水浴客も閑散としている。
社長とファーフィスターニャ先輩は、ここからライトストーンの宿に泊まる。なお、メアリとは同棲しているわけだし、社員寮が同じとでも言って親父にはなんとか納得してもらうことにした。
それと、サンソンスー先輩ともここでお別れだ。
「本日はありがとうございました、先輩! 無人島、はじめて上陸できました! いい記念になりました!」
丁寧に頭を下げた。やっぱり、この会社、立派な人ばかりだと思う。
「いい記念になったというのは……その……絶景を見たということかな……」
照れながら、サンソンスー先輩が言った。
「違います! まったくもってそういう意味じゃないです!」
「ふふふ、冗談だよ。ボクも骨のある後輩に出会えてよかった」
凛々しさより、かわいさが圧倒的に勝った笑み。
「君みたいな同僚が一人でもいたら、ボクも青魔法の会社を続けてたかもしれないのにな。でも、それだとここの会社のみんなと出会えないからダメか」
俺は先輩をものすごくかっこいいと思った。
きっと、こうやって先輩社員にあこがれて、スキルアップを目指すのがまっとうな会社のあり方なんだろうな。
先輩がことごとくやる気ないし、テキトーにやってればいいんだよってオーラを出してたら、それに従って同じように染まるか、反発して煙たがられるかしかないから、かなりつらい戦いになる。
爬虫類っぽい尻尾が後ろで違う生き物みたいに動いている。やっぱり獣人だと尻尾動かすんだな。これはプラスの感情を示す意味なんだろう。
「また、ご実家に戻る時があったら教えてくれ。一緒にごはんでも食べよう」
「ありがとうございます! あ~、でも、うちの親父が聞いたら美しい女性社員をナンパしてるって思われるかも……」
「はははっ、おだててもダメだよ。ボクぐらいの人間ならいくらでもいるさ」
あ~、それはないと思いますよ。実際、街コンで女子が群がったのが事実だとしたら、かなりのものだぞ……。
「フランツ、わらわたちは着替えに海の家だっけ? そっちに行くからね」
メアリに声をかけられた。たしかにメアリまで踊り子の服で俺の家に来られると弁解しようがない。
「うん、こんなところに親父に見られたら困るか――――」
「おっ、フランツ、フランツじゃないか!」
野太い声で俺の名前が呼ばれて、どきりとした。
俺の親父、コルタがそこに立っていた。どうも仕事帰りに海岸でもぶらついてたんだろうけど、まあ、それはこの際どうでもいい。
みんな、踊り子の子服を着てるところに来られた……。
親父の表情が変わったというか、表情が消えた。
「おい、フランツ、この女性たちはいったい何だ……?」
いくらなんでも社長も先輩もいるのに他人ですとは言えないし、セルリアもメアリも泊める予定なわけだし、うかつなウソは矛盾を生んでしまう。
「俺の会社の同僚たち……」
親父の顔が赤くなって、「ふがーっ!!!!!!!」と声を立てた。
一分、ここに来るのが遅かったら、みんな着替えに行ってたのに……。
ここで怒鳴られると変な空気になるぞ! せめて実家でキレてくれ!
「フランツ、お前、お前という奴は……な、なんと……」
「これにはまっとうな事情があるんだ! 俺の使い魔がサキュバスで、水着がないみんなに貸してただけだからな! 黒魔法業界じゃ使い魔がいるのは普通だし、俺はちゃんと働いてる!」
俺もやましいことは何もしてない(裸を見たりしたのは故意のものじゃないので無罪)。
社長が「お父様でいらっしゃいますか。フランツさんはよくやってくださっていますよ。黒魔法の素質もあるようです」とカバーに入ってくれた。ありがとうございます! みんなの力で親父の噴火を止めてください!
「そうだね。フランツはいい男だよ。むしろ、軟派な人間とは真逆かもね」
「後輩君は、基本的に真面目。人助けのためなら体を張る」
おっ、ここでメアリとファーフィスターニャ先輩も加勢に! 助かる!
しかし、かえって、親父の顔が赤くなっていく。本当に噴火直前か? 女子のフォローじゃ逆効果なのか?
「フランツ、お前は、お前はお前はお前は――――なんてうらやましい奴なんだーーーーーーーーーーーーっっっ!」
親父が絶叫した。
それは心の放出と言ってよかった。
うん、うらやましいとか爆発しろとか言われてもしょうがないこともあった。
「いや……おかしいだろ! 親父、どうしたんだよ! なんでうらやましいとか言ったんだよ!」
もっと親父は堅物だったはずだぞ! 俺は親父に詰め寄る。
「もしや、心でも魔法使いに操られたのか!? そうなのか!?」
「違うぞ、フランツ、父さんは父さんは父さんは――――ただのムッツリだったんだーーーーーーーーーーーーっっっ!」
親父、せめて息子には尊敬できるままの存在であってくれよ……。
親に見つかりました。次回に続きます!




