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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
社会人最初の夏休み

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81 社長の本気

 海岸からちょっと後ろに下がれば、ごつごつした岩が点在しているので、俺たちは差し当たって、そこに隠れた。


「あのさ、ところで素朴な疑問なんだけど」

 メアリが聞いてくる。そっちを向くと、全裸だから、できるだけ前を見るようにする。そっちでも社長とサンソンスー先輩のお尻は見えるけど、それぐらいなら誤差だ。

「フランツはどうやって島ザメが来ることを知ったの? 海辺に住む地元民の知恵みたいなのがあるの?」

 なるほど。それが気になるのは当然か。


「あのさ、これ、信じてもらえないかもしれないけど、間違いなく事実なんだ」

「わらわがフランツの言うこと、疑うわけないでしょ」

 のろけたくなるようなことを言われた。俺も誠実にできるだけ伝えた。


「――というわけで、先のことが見えるようになったんだ」

「……後輩君、つまり、みんなの裸見てた」

 またファーフィスターニャ先輩にジト目で見られてしまった……。

「すいません……けど、その力を獲得した原因はわからないままなんです。俺もなんでこんなものを手にしたのか、さっぱりで……」


 セルリアもメアリもすぐに理由を説明できないようだったから、やはり相当なレアケースだったらしい。

「原因はともかく、それで島ザメに気づけたことはよかったですわ。ほら、社長もサンソンスーさんもしっかり戦う姿勢になっていらっしゃいますし」

「フォローありがとう、セルリア。そうだな、まずは迫ってきてる危機をどうにかしないとな」


 やがて、だんだんと肉眼でも島ザメが接近しているのがわかるようになってくる。

 それに対峙するように二人が立っていた。


「さてと、『謎の事故死』をしてもらってもいいんですが、命ぐらいは助けてあげましょうか。となると、裸は見れないようにしておいたほうがいいでしょうかね。それと、フランツさんのことは大目に見ておきましょう」


 社長が詠唱を行うと、握りこぶし大の二つの黒いものがサメのほうに飛んでいった。

 それは青魔法使いの男の顔に直撃したようだ。


「な、なんだ! 見えねえ! 何も見えんぞ!」

 海から男が叫ぶ。


「はい、闇で目を覆っておきました。あとは好きなだけやれますね」

「社長、島ザメのほうはどうします? 食べれなくはないんですけど、あまりおいしいものでもないんです。すぐに食べればそれなりにいけますが、足が早いので」

 サンソンスー先輩が漁港の人みたいな発言をする。

「そうですね。生き物には罪はないということにしておきましょうか」

「承知いたしました!」


 サンソンスー先輩は水面に魔法陣を描きながら、詠唱を行う。

 するとサメの周囲の海に変化が起きた。

 いきなり強いうねりが起こって、サメが直進することができなくなる。まるで急カーブが連続の道を馬車で強引に進んでいるようだった。


 そのせいでサメ同士がぶつかったり、つかえたりしてスピードが落ちていく。こうなると、そこまでの恐怖感もない。


「それと、ボクは黒魔法のほうでもそれなりに立派なんでね」

 今度のサンソンスー先輩の魔法は俺でもよく知っているものだった。「生命吸収」だ。


 先頭のサメから体力の光が抜けて、サンソンスー先輩の体に入っていく。

 弱ったサメにはさらに後ろからサメが追突する。海岸近くにやってきたというのに、もたもたしっぱなしだ。

 あっ、サンソンスー先輩一人でも問題なさそうだな……。


「くっ! なんで見えないのだ! サメもどうも遅くなっているようだし……」

 青魔法使いの男は恐怖を感じながらもそのまま前にやってきていた。選択肢としては最悪だ。命知らずとしか言えない。でも、今更逃げようとしても遅い気もするし、結果は同じだろうか。


「では、下準備はこれぐらいにして、最後は社長が決めてしまってください」

「わかりました。たまには暴れないと面白くないですもんね」


 社長の体がぼやけていって、ついには黒い霧のようなものになった。

 えっ? なんだ、この魔法……?


「フランツ、よく見ていたほうがいいよ。すごーく強力な魔法だから」

「社長、とてつもない。今日はいいものが見れてよかった」

 メアリとファーフィスターニャ先輩がそう言うなら、じっくり見るしかない。


 といっても、社長の肉体はもはや霧になってるわけだけど。


 その霧はサメと青魔法使いの男の周辺に広がって、一帯をまるで夕立の雷雲でもやってきたみたいに黒くした。

 そして、まさしく雷雲がゴロゴロ鳴るように、空全体の規模でこう語りだした。


「我々をあだなす不実なる者よ。その報いのやじりを魂にまで刻みつけん。お前たちは永劫の時を苦しみ抜き、幾重にもねじれた体を元に戻そうとあがくであろう。ただ、ひとたびあがくごとにその苦しみは万倍になる。無力なることは哀れなれど、その非があることなれば、いささかもれんびんの意を捧げることもなし」


 重い、いかにも悪魔めいた声だけど、これは社長のものなんだろうな……。


 俺の見間違いでなければサメたちの顔にまで恐怖が宿り出した。

 さらに、なんとサメたちが溺れはじめる。


「純粋なる恐怖の前では生き物の習性すらまともに機能しなくなるんだよ」

 メアリが解説してくれる。

「ほら、敵の男はもっと悲惨だよ。見てみなよ」


 その青魔法使いの男は絶叫していた。

 何か意味のあることを叫んでいるようだけど、ほとんど聞き取れなかった。どうもひたすら助けを求めているらしいことがだんだんとわかってきた。


「あれは『地獄のまんりき』という魔法ですわね。あの方は体感時間としてはすでに十年ぐらいは苦しんでると思いますわ」

「そ、それは地獄だな……」


「この責め苦から逃れたければ、お前の悪行をあらゆる場所にて告白することだ。一片でも残っていれば、また、この不快なる現象にさいなまれるだろう。よいか?」


「はいっ! もう会社のやってた悪事、全部ゲロします! 町の参事会にも、業界団体にも、言えるところに全部言います!」


 ああ、こういうことか。社長は個人的につぶすのではなく、もう会社に対して報復をしてるんだ……。


「うむ、わかった。それでは、すぐさま帰って、誓ったとおりにするがよい」

 それで、ようやくその雷雲みたいな霧は晴れた。


 敵の男は魂を抜かれたみたいに呆然としていたけど、やがて、ふらふらと海を歩いて、陸地のほうに帰っていった。


 そして、それに対応するように社長が元の犬耳少女の姿で島に戻っていた。


「会社が会社にケンカ売ったと解釈して、買わせていただきましたよ。まっ、問題のない経営をずっとしていれば告白する悪事もないから問題ないはずですけどねー」


 なるほど。理屈の上ではそうだよな。そもそも、悪い隠し事をしてるほうが悪いんだもんな……。


「はい、皆さん、ケガはないですか? と言っても、あるわけないですよね」

 ケルケル社長は、もういつもの、どこかほわほわしたやわらかい笑みになっている。

「皆さんは私の家族みたいなものですから。全力で守ります。それが社長の義務です」


 ほんと、社長の言葉は俺の心にも、ほかのみんなの心にも刺さった。

 だから、俺はこの会社でやっていくんだ。


 ただ、一言だけ注文をさせてもらうとすれば――


 何か服着てから言ってほしかった。

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