80 ライバル会社の攻撃
「心の眼」って、つまり、俺の「欲望の眼」ってことなのか! たしかに欲望も心の一部分だから、間違ってはない。
しかし、それは「心の眼」という黒魔法の解釈にすぎない。
どうして魔法を突然習得できたのか、その理由はまったく説明できてない。
向こう側の世界(ぼかした表現にしたら、なんか壮大な感じになった)を見たいという強い意志だけで魔法を得た? まさか。そこまで単純に魔法を覚えることはできないだろう。
けど、俺が魔法を手に入れたこと自体は事実だ。何か理由がある。
これは黒魔法に限らず、魔法全般の基本法則だけど――魔法には必ず因果がある。
無から発生する魔法なんてものは絶対にない。
いったい、どういう因果があるんだ?
あの語りかけてくる声にヒントがあるのは間違いないと思うけど、もうその声もない。
しかし、この魔法ってどうやったら解除できるんだろう。そのうち、効果が切れるんだろうか。それまでずっとみんなの裸を見ているのか。
あまりいいことじゃないけど、止められないんだからしょうがないな。
ふと、俺の視界の中におかしなものが現れた気がした。
みんなが裸で戯れてるずっと先の海、岩礁がごつごつしてボートすら怖くて近づかないエリアより先、何かが動いている。
本来、それは遠すぎて人間の視界では認識できないはずなんだろうけど、魔法のせいでなぜか知覚できるようになっていた。そこにズームするようなこともできる。
島ザメか? たしかにそうだけど、それだけじゃない。そのすぐ後ろにもう一尾(魚だし、一尾と呼んでおこう)、さらにもう一尾。
島ザメって群れになって攻撃してくるものだっけ? そんなことはないはずだ。あいつらは大食いだから、交尾の時期以外は成魚は個人プレーで生きている。
だとしたら、これはなにがしかの人為的なものを感じる。
よく見ると、その島ザメの近くで何かが浮かんでいる。
あれは人だ。そんなところに陸地などないから、あれは海の上に立っている。だとしたら青魔法使いか。青魔法使いの男だ。
なぜか、その男がつぶやいた声まで聞こえてくる。
「くそっ、黒魔法の会社め。青魔法の縄張りを荒らしやがって! 無人島なら証拠も残らずにぶっ殺せるだろ」
この調子だと、ライトストーンに島ザメ来襲の危機があったのも、あいつの仕業だな。サンソンスー先輩の管轄で大事件が起これば、当然先輩の責任になる。
もっとも、そんな考察は後回しだ。
本来なら、岩礁の多いこの無人島に島ザメがやってくることもない。サンソンスー先輩もここに島ザメが来るなんて考えていないだろう。
だが、あの青魔法使いが島ザメを操っているなら、話は違う。
島ザメの周囲には水を使った防御魔法みたいなものが張られている。あれがクッションになって岩礁の中も無傷で突っ込んでいけるというわけだ。
のんびりしていれば、命取りになってしまいかねない!
俺は砂浜を蹴った。みんなのほうに走っていく。
その岩場のほうに向かう。
走っているうちに視界は元に戻っていた。やはり、一定時間が経つと切れる魔法らしい。
「みんなっ! 大変ですっ!」
言うまでもなく、裸のみんながそこにいた。
すぐにファーフィスターニャ先輩が胸を隠したり、サンソンスー先輩が赤くなってたりしたけど、ほかはそんなにひどい反応はされなかった。
「フランツ、欲望に忠実に生きすぎだよ」「フランツさん、少し素行に問題がありますねー」「けだものなご主人様もいいですわ」
「違います! 島ザメ三匹が青魔法使いに率いられてやってきてます! すぐに対応を!」
俺は海の先を指差して言った。とはいえ、魔法を使ってない状態ではまだはっきり知覚できるところじゃない。
「何もない。後輩君はウソつき。裸を見る言い訳じゃない?」
ファーフィスターニャ先輩がお尻を向けてしゃがみながら、疑惑の声を出した。
「本当ですって! 間違いなく来てますから!」
俺の言葉に何かがあると思ったサンソンスー先輩は海の中に入って、その水面で魔法陣をなぞりながら短い詠唱を行った。
「フランツさんの言うとおりですね。島ザメ三体がやってきています。率いているのは、ネクログラント黒魔法社に管理権を奪われた『ブルーシー青魔法海岸警備』ですね。社員の質が悪いということで、我が社に仕事先を取られたんです」
「なるほど、じゃあ、逆恨みということですねえ。逆恨みというか、これは殺しにかかってますねえ」
のほほんとケルケル社長が言った。そんな場合じゃないんだけど。
「みんな、今ならまだ島の奥に逃げれば島ザメも来るのはきついはずだ!」
俺としてはまずみんなの安全を確保したい。
「その必要はありませんよう」
やっぱり、のほほんと社長が言う。いや、必要はありますってと言おうとして、俺は口をつぐんだ。
社長の表情がとても怖いものになっていた。
誰がどう見ても憤っているとわかる。こんな顔、入社してから、一度も見たことがなかった。
「私がぶっつぶします。会社にケンカを売ってきたというなら、その代価は支払ってもらわないといけませんから」
もう、社長は砂浜に足で魔法陣を描き出している。相当、複雑なものだ。
「サンソンスーさんは私のサポートをお願いします。ほかの方は後ろに下がっていてください」
ちょっと立ち尽くしかけた俺の腕を引っ張ったのはファーフィスターニャ先輩だった。
「大丈夫。何も怖くない。社長が負けるわけがない。絶対に大丈夫」
「わ、わかりました……」
長く勤めている先輩を信じるべきなんだろう。その様子を見ていたメアリも首の後ろで手を組みながら、こっちにやってきた。
「別にわらわがぶっつぶしてもいいけど、ここは社長にお任せするのがいいよね。わらわも社員なわけだし」
「ですわね、さあ、ご主人様、後ろに行きましょう」
セルリアもそう言ってきた。ぶっちゃけ、俺もとくに不安はなくなっていた。ただ、あっけにとられていただけだ。
あと、非常事態でみんな忘れかけてるけど、俺以外、全員全裸なんだよな……。
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