78 無人島に行こう
「それなら問題ないよ。ボクの使い魔に乗れば楽勝さ」
そういえば、サンソンスー先輩は海面も歩いて移動してたな。青魔法使いにとってみれば、海を歩くとか基本中の基本のはずなので問題などない。
黒魔法使いの俺も「泥炭地歩行」とかならできるけど、海は普通に沈む。基本的に暗くてじめじめしたところしか歩けないんだよな……。
「あら? 青魔法にも使い魔はいらっしゃいますの? あまりいないイメージもありますけれど」
セルリアの意識からするとサンソンスー先輩の言葉は例外的らしい。
「ボクも元々は使い魔は持っていなかったよ。でも、黒魔法使いでもあるからね。いい使い魔を手に入れたのさ。まっ、使い魔というか、対等なパートナーという感じだけどね」
まさか、無人島に行くというのを断る理由もないから、俺たちはもう一度海のほうに出た。
ぱんぱんとサンソンスー先輩は手を叩く。
すると、海上から何かがやってきた。まさか、また島ザメか!?
でも、動きが島ザメとは違う。もっと、牧歌的な空気が広がっているのだ。
それは大きな、二十人ぐらいは余裕で乗れそうな亀だった。
「これまで見た中で確実に一番デカい亀だ……」
「かなりのスケールですわね……」
俺とセルリアが主従らしく、同じように驚いていた。
亀は首をぐいっとこっちに伸ばしてくる。たしかに亀の首ってかなり伸びるんだけど、元のサイズがサイズなので、けっこう怖い。
「毎度ご乗車ありがとうございます。この亀は、無人島のイワンヤ島行きです。走行中は危ないので、甲羅にしがみつきください。運転は亀のン・ンダーロ・ンルドです」
なんか路線馬車みたいなことを亀が言い出したぞ……。
「はい、ボクの亀のン・ンダーロ・ンルドだよ」
無茶苦茶、発音、難しそうな名前だな!
「この亀はサンソンスーさんに自分の名前を正確に呼んでもらったことがきっかけで使い魔になることを決めたそうですわ」
社長が解説してくれた。たしかに相手の名前を呼ぶって、その相手を支配するという呪術的な意味があるけど……。
「じゃあ、みんな乗って。イワンヤ島はちょっとした浜もあるし、悪くないよ。プライベ-トビーチ代わりに使えるんじゃないかな」
ちなみに、乗りこむ前、セルリアが亀の頭を見て、下ネタ的なことを言ったけど、省略します。
セルリアいわく、サキュバスとしてそういうところは見過ごすわけにはいかないらしい。サキュバスのプライドに関わることらしい。この世界にはいろんな種類のプライドがあるのだ。
こうして、俺たちは亀のン・ンダーロ・ンルドに乗って、先輩お勧めの無人島とやらに行った。道中というか海中、いくつか先輩に他愛無い質問をした。
「先輩ってさわやかですよね。美しいと同時にイケメンぽさもあるっていうか」
「それ、多分、一人称が『ボク』だからそれで引っ張られているだけだと思うけどな。ボクの家は人形だらけだよ」
亀の使い魔が「あれ、呪術の練習用に増えたものですよね。無理して女子アピールしなくてもいいですよ」とツッコミを入れてきた。
「えっ……ひどいな……。でも、甘いものも好きだし……」
また亀が「だからって、食べるとしばらくなんでも甘く感じるカニをばりぼり食べるのは意味が変わってくるかと」とツッコミを入れる。
「あ~、なんかン・ンダーロ・ンルドがいるとやりづらいや……」
先輩はしょぼんとしてしまう。
「そろそろボクも婚期なんだけどな……。街コン行っても女子のほうが集まるんだよね……。それ、趣旨違うし、意味ないんだけど……」
なるほど、かっこいい女性にはそれはそれで悩みがあるのか。
「けど、美しくはあるんだから男だって見つかると思うんですけど」
先輩はワニ獣人というより、イルカっぽさがある。明るく健康的な乙女という感じだ。少なくとも黒魔法っぽさはない。あと、尻尾ちょっと撫でてみたい。
「そう思ってたんだけど、一人でやる仕事だからなかなか出会うきっかけがないんだよね。それで街コンに行ってみると、女子が集まってきて男の人は来づらい空気になったりとか……。まっ、いつものことだけどね」
また、亀が「新卒の方、よかったら結婚してみませんか」とさらっと変なことを言ってきた。
「いやいやいや、そんなこといきなり言われても……そりゃ、先輩は魅力的ですけど……」
と、そこにメアリが割って入ってきて、俺にひっついてきた。
「フランツはもうちょっと未婚でもいいんじゃない? まだ十代だし、もっといろんな人生経験積んでからでも」
「うん……俺もそう思ってる……」
ちょっとメアリの声にトゲがあるのが気になるけど。
「なんとか、フランツは自分に『千年前に国家滅亡を企てて処刑された伝説的な黒魔法使いの末裔』ぐらいの箔をつけてね。そしたら、わらわも結婚してもいいかな~と思わなくもないかもしれないし……。ねっ?」
「箔か……。わかった、善処する……」
さすがに『名状しがたき悪夢の祖』に釣り合うような男になるのは無理がある気がするけど……。
「いやあ、社長、なんかいい人いないんですかね? ボクも困っちゃってるんですが」
「そうですねえ、私としてはサンソンスーさんとフランツさんが結婚なさっても問題は感じないんですが、入社半年も経ってないのにそこまで思いきれないというお気持ちもわかりますしねえ」
社長もなんかサンソンスーさん側だ。これ、じわじわと堀を埋められて、結婚みたいな流れになるんじゃ……。
「ダメだよ。まだわらわがキープしておくから」
ぎゅっと、またメアリが俺の体を圧迫する。
ひとまず、メアリに防波堤になっておいてもらおうか。
そうこうしているうちに亀は無事に無人島に到着した。




