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7 魔法学校でうらやましがられる

 翌日、俺は昼から魔法学校の授業に出た。


 最終学年の後半ともなれば、カリキュラムもほとんど残ってない。なかば参加自体が記念みたいなものだ。出席日数がちゃんとたまってれば、サボっても問題もない。


 とくに就職が決まってる奴は学校生活ももうすぐ終わりか……とアンニュイな気持ちにひたったりする。


 別にたそがれてるからといってフォローする必要はない。

 たいていの奴は「そうやってたそがれてる自分ってかっこいい!」と思っているのだ。


 実際、就職が決まってる奴ほどなぜか真面目に授業に出たりするからな。


 一方で俺みたいに就職先が決まってなかった側の人間は気が重いからあまり行きたくなかった……。自分が社会の落伍者みたいな気持ちになるからだ。


 俺はせめてみじめと気づかれないように、クラスでもひっそりと生活していた。


 ――以前の授業までは。


 教室に入ると生徒の視線がいっせいにこちらに向いた。

 理由はわかっているので、まだ動揺は小さい。


 俺の真後ろにサキュバスのセルリアがいるのだ。


 そりゃ、目立つよな……。これで目立たないほうがウソだよな。


「えっ!? フランツ、その使い魔はどうしたんだ!」「お前の身に何があったんだ!?」「それって黒魔法なのか……!?」


 無数の質問を浴びせられた。

 これも予想してたけど、ちょっと面倒くさいな……。


 本来は、社員寮にセルリアを残していくつもりだった。学校に連れていったらルール上は問題なくても目立つに決まっているからだ。俺も今日の朝、そう言った。けど――


「ご主人様のそばでお仕えするのが使い魔のお仕事なのですわ! どうか、おそばに置いてください!」

 そんなふうに熱烈に懇願されたら、ダメとは言えないだろう。

 このまま拒否し続けたら、セルリアが泣きそうだとなんとなくわかった。


 俺には女子を泣かして平気なんて鬼畜的メンタリティはない。こうなったら、折れるしかなかった。


「うん、セルリアも来てくれていいよ」

「ご主人様、一生ついていきます!」

 OKをしたら熱い抱擁を受けた。大きな胸が思いきり俺の顔を包んだ。このおっぱい悪魔めと思った。すがすがしい朝のはじまりにはいろいろとけしからん体だ……。


 ――というわけで、学校にセルリアが来ているというわけだ。


「ご学友の皆様、はじめまして。わたくし、フランツ様の使い魔をつとめておりますセルリアと申しますわ。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 セルリアから答えてくれたので質問の圧力がちょっと下がった。

 その分、クラスメイトの視線が、セルリアの体にいっていた。


 うん、くびれた腰に、きれいなへそ、お尻のラインの絶妙なカーブ、一度ひっついたら離れないかと思うほどに絶妙の弾力性を秘めた胸。男を誘惑するために生まれたような――というかサキュバスだから、まさに男を誘惑するために生まれた可能性あるのか……。


 そのくせ、表情は娼婦めいた化粧が濃いようなものではなく、深窓の令嬢といった表現がよく似合う清楚なものなのだ。


 つまり、何が言いたいかというと、どんなジャンルの男も、まず夢中になるポテンシャルということだ。

 これでセルリアを好きになれない奴がいるとしたら、貧乳しか認めない原理主義者ぐらいのものだろう。


「くそ……こんなことなら黒魔法を習っておくべきだった……」「白魔法だとせいぜいガーディアンかホワイトゴーレムだよな……」「くそう! こんなところで差をつけられるなんて!」


 男子たちが泣いて悲しがっている。

 女子からは白い目で見られるかなと思ったが、その前にみんなセルリアの胸を見ていたようだ。


「あれ、魔法で修正してるんじゃないの……?」「武器代わりなのかも……」「無条件降伏ね……」


 俺は詳しく知らないけど、女子たちは胸の大きさでマウンティングをとる「習性」があるようで、そこで敗北感を受けているらしい。


 空気が変になったクラスでできるだけ平常心を保とうとしていると、セルリアが小声で言ってきた。

「ご主人様、クラスでも実権を握っていらっしゃったんですね。さすがです」


「そんなバカな。俺はむしろクラスでも日陰者だぞ」

 魔法学校でも、成績がそこそこいいだけでリア充でもない奴は居場所がない。そういうのを無視できるほど極端に成績が上ならまた違ったんだろうが。


 けど、たしかにみんな、うらやましそうにこっちを見ていた。

 セルリアが来ただけで、クラス内ヒエラルキーが激変してしまったようだ。


「いや、まだだ……あいつは就職が決まってなかったはず……」「そうだ……卒業後、無職になる側だ……」


 俺より下になりたくない奴が抵抗を見せはじめていた。

 俺としてはこのまま黙っておこうかと思ったけど、むしろセルリアがちょっとむっとしていた。俺がバカにされるのは許せないらしい。


「ご主人様なら昨日、内定をいただきましたわ。初任給も高額ですのよ」


「なっ……」「じゃあ、もう神じゃん……」「終わった」


 内定決まったら神なのかよ。神の価値が安すぎるだろ。


「いや、あれだ……。あんなかわいい使い魔だけど、エロいことすると死ぬとか、ほら、物語でよくあるやつだ!」「そうだ! で、生殺しになるんだ!」


 うん、俺も最初はそうかなと思ったんだけど――


「わたくし、昨夜、ご主人様の……夜伽を……初めてつとめましたわ……。もちろん、ご主人様の魂を奪うようなことはいたしておりません……」


 セルリアが顔を赤くしながら、恥じらうように、ぼそぼそと囁いた。


「サ、サキュバスとしては、み、未熟なので……ご主人様に楽しんでいただけたかわかりませんが……わ、わたくしとしては一生懸命、ご奉仕いたしましたわ……」


 最後のほうは顔を隠しながらしゃべっていた。


「セルリア、恥ずかしいなら無理して言わなくていいからな? 内容が内容だし……」

 俺も昨夜のことを思い出して落ち着かないけど、それよりまずはセルリアのフォローをしないといけない。


「いえ、サキュバスなのでそこは恥ずかしくないのですが、技術のほうがまだまだ不慣れなのが……。納得いかないところもたくさんありますわ……」

 ああ、そういう意味なのね。


「どっちにしても、無理して言わなくていいぞ?」

「だって、ご主人様が侮られるのを放ってはおけませんから……。わたくしはご主人様の使い魔ですから……」


 俺はぽんぽんとセルリアの頭を撫でた。


「うん、ありがとうな、セルリア」

「はい、ご主人様……」


 それを見ていた男子たちが白くなっていた。

「もう、俺たちフランツに完全敗北してるよな……」「もう就職決まってない奴をバカにするのは絶対やめよう……」


 よくわからないうちにクラス最大のリア充になったらしい。

今日は夜にもう一度更新できればと思います!

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