67 売られたケンカに自動的に勝つ
4万点を突破していました! 自身初のことなんで、無茶苦茶うれしいです! ありがとうございます!
そのあとも、何度かアリエノールは俺にケンカを売ってきた。
二日目は、五歳児ぐらいに見える極端に背の低い老婆の講師が、講義の最後に「ミニテストをするぞよ。ふえっへっへっへ」と言ってきた。いかにも魔法の実験とかしそうな声音だったけど、普通に座学と筆記試験です。
「よーし! フランツよ! このアリエノールとどちらが広範で深遠な知識を有しているか勝負だっ!」
「ああ、うん、お互い頑張ろうな……」
もう、さすがにタメ口でこっちも接する。
その勝負も俺が普通に勝った。
俺 95点。
アリエノール 75点。
「お前、なんでそんなに詳しいのだっ!?」
「いや、割と初歩的な知識を聞いてる問題が多かったから、無難に解いていっただけなんだけど……?」
研修生ではないセルリアがアリエノールの間違った箇所に目を通した。
「この問題はよい問題ですわね。本当に基礎をしっかり理解していないと解けないところが多いですわ。中途半端に知識だけで把握していると、応用ができなくて間違うというようにできていますわ。アリエノールさん、あせらず確実に覚えましょうね」
「う、うるさい! フランツの使い魔が偉そうなことを言うな!」
その時、アリエノールの使い魔である青いカラスのリムリクが、「アホー、アホー」と言った。
「おい! お前もそのタイミングで鳴くんじゃない!」
リムリクはお尻を向けて、知らん顔をした。
これ、使い魔にも舐められてるんじゃ……。
二日目の午後は、なぜかスポーツだった。
レクリエーションの一環らしい。まあ、ある意味、研修っぽいと言えば研修っぽいかも。
地面に線を引いて、手のひら大のぺこぺこのボールを打ち合うゲームをすることになった。
自分の陣地に必ずワンバウンドさせて、相手の陣地に入れる。自分の陣地にノーバウンドだったり、相手の陣地の枠からはみ出したらアウトというものすごくシンプルなルールだ。ラケットレス・テニスというらしい。
言うまでもなく、アリエノールが勝負を仕掛けてきた。
「フランツよ、今度こそ私が勝つからな! なにせ私は親から『将来はテニスプレイヤーになれるかも』と言われたことがあるぐらいの腕前なのだ!」
「これ、テニスの腕前とあまり関係ない気もするんだけどな……」
とはいえ、勉強ができない奴がスポーツは得意というのはよくある構図だし、意外と強いのかもしれない。最初から舐めるのはやめよう。
「くらえ! 低いバウンドのスマッシュ!」
しっかりと構えて、勢いよく、アリエノールは右手を振りぬく。
そして、その手が空を切る。
きっちり空振りした!
そしてきっちりこけた。
「うあああっ! いたたっ!」
俺はそっと目をそらした。こけてパンツが見えていたからだ。
「古典的なことをきっちり押さえてくるとは、あの方、なかなかの素質がありますわね。それになかなか色っぽい下着ですわね。生地もよいものを使っていますわ。あの黒の発色はなかなか出ませんわよ」
セルリアの着目点、そこなんだ……。
「お、おのれ、また私に辱めを与えてくるだなんて……」
「その解釈はさすがに無理があるだろ! 自滅だろ!」
そのあとも、俺はとくに攻めたわけでもないのだが、アリエノールがミスを繰り返して、自滅した。
レベルの低い戦いだと、ミスの多いほうが負けるってあるあるだよな……。とりあえず敵の陣地に返してれば、そのうち相手がミスをしてくれるという……。
講師のリザードマンの魔法使いが、「負けたほうがボール回収して帰ってください」と終わりを告げた。
なで肩でアリエノールは飛んでいったボールを拾いに行こうとする。
「あの……手伝おうか……?」
振り向いたアリエノールの顔は半泣きだった。
「断る! 私は誇り高きモルコの森のカーライル家だ! そんな情けは受けない!」
また、木に止まっていたリムリクというカラスが「アホー、アホー」と鳴いた。
●
「別に俺、悪いことしてないはずなんだけど、なんか申し訳なさを感じる」
夜の自由時間、俺は部屋のベッドに寝転がっていた。
部屋にはセルリアだけでなく、メアリもやってきている。知り合いの部屋に集まるというのは、修学旅行チックかもしれない。
「アリエノールだっけ。フランツも面倒なのに絡まれたね。軽く観察してたけど、いまいちぱっとしないよ」
ベッドに腰かけてるメアリが容赦なく、そう言った。とはいえ、けなしてるというよりは、客観的評価と言ったほうが正しいか。
とはいえ、からまれてる俺としては気になる。
「なあ、あの子、なんで俺に対抗意識を燃やしてくるんだ? 俺の親は魔法使いでもなんでもないから、親の世代で確執あったなんてこともありえないし」
なぜかセルリアが居心地悪そうな苦笑をした。
「あ~、フランツはナチュラルに気づいてないんだろうけど、新人研修の場でセルリアっていうサキュバスを使い魔にしているって、とてつもないことなんだよね。俺は五十年に一人の期待の新人だぜって言ってるようなものっていうか」
「えっ!? そこまでなのか!?」
黒魔法業界の常識を俺はよくわかってなかった。なにせ、会社の先輩がすごすぎる。ファーフィスターニャ先輩と比べれば、まだまだだとしか思えない。
「そうですわね……。普通はサキュバスと使い魔の契約を結ぼうとしたら、二十五年は勤めないと難しいかもしれませんわね……。当然個人差はありますから、けっこうずれはしますけど……」
サキュバスであるセルリアの説明だから、妥当性は高いだろう。
「じゃあ、俺、彼女を知らないうちに挑発しまくってたのか……。悪いことしたかな……」
「悪いことなわけありませんわ。だって、使い魔とともにあるのは、黒魔法使いとしては、ごく自然なことですもの。そこで気にして変に隠すほうがおかしな話ということになりますわよ」
すぐにセルリアにそう言われた。もっともな話だ。だいたい、ここにセルリアを連れてこないなんて選択肢は最初からなかった。
「ま~、結論から言うと、これはあのアリエノールって子の問題ってわけだよ。彼女はプライドが人一倍高かった。田舎でほかに比較対象になる黒魔法使いがいなかったから、自分をすごい奴って信じちゃってここまで来たんだよ。で、そのプライドの高さゆえに痛い目にあってる。それだけの話さ」
「わかる。わかるけど……どうせなら嫌われるより、仲良くなりたいな」
アリエノール本人の前でそんなこと言われたら多分一生仲良くなれないだろうけど、それが俺の本心だ。
「だって、新人研修って同期の仲間で横のつながり作れって意味合いもあるんだろ? このまま敵扱いが続くのってよくないからさ。ちょこちょこ情報共有できる程度の仲になりたい」
なぜかセルリアとメアリが顔を見合わせていた。
「ご主人様はどこまでもポジティブですわね。まるで聖人ですわ」
ぎゅっとセルリアが俺にひっついてくる。
「まったくだよ。会社にとったら、理想的な新人だね」
メアリもぽんぽんと俺の頭を撫でてきた。
よくわからないけど感心されているらしい……。
次回、アリエノールとの関係にちょっと変化が出ます。




