6 サキュバスの仕事
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「セルリアってすごくいい教育受けてきただろ。でないと、あんなふうに助けるなんてできないって」
「いやですね、ご主人様、わたくしは当然のことをしただけですわ」
そう言いつつ、ちょっとドヤ顔なところがまたかわいい!
ただ、そこにサキュバスがいるということに変わりはないわけで――
「ママー、サキュバスの女のひとがいるよー」「見ちゃいけません!」「パパがママよりかわいいって前に言ってた」「あの人ったら!」
しまった! 目立つ! これは目立つ!
「と、とりあえず、市場に行って、大急ぎで食材買って帰ろう!」
「わ、わかりましたわ!」
俺たちは野菜と肉、それからパンを適当に買った。
夕食はとりあず野菜中心のシチューにするつもりだった。
美味いかどうかは微妙だけど、栄養バランスを考えると、これが一番無難だ。
でも、またもやセルリアが「わたくしが料理をいたしますわ」と言い出した。
「何から何までやらせて悪いな……」
「いえ、むしろ、使い魔は働かないとダメなんですわ。別に能力的に無理なことでもなんでもないですし」
まあ、家にメイドさんがいたとして、メイドさんに作らせないのもちょっとおかしいのか。
「じゃあ、お願いしようかな……」
調理の様子を見ていたら、無難に野菜を切って、火の魔法で点火してシチューを作っていた。
紫色のスープが出てきて悲惨なことになるというような展開はなさそうだ。
でも、後ろから見ると、やっぱり裸エプロンみたいに見えるからよくない。
ある意味、そういうことを考えてしまう俺の煩悩が一番よくない気もするけど、不可抗力だろう。
「セルリア、服買うか……? どうしても意識しちゃうというか……」
「露出度の低いサキュバスなんてありえませんわ。それはサキュバスに対する侮辱ですわよ」
「なるほど、そういう価値観なのか……。わかった。じゃあ、それでお願いします……」
そして無事においしそうなシチューができた。
こういうかいがいしい子の料理って、異常に不味いということがフィクションだとよくあるのだけど――
「う、美味い! なんで、こんなにコクがあるんだ……」
材料は同じはずなのに、俺が作る予定だったものより格段にレベルが高いのだ。
「調理時間を上手にコントロールすれば、一番おいしい状態でお出しできますわ。魔界で習いました♪」
魔界ってなんでも進みすぎだろ。
これから、セルリアと一緒に生活するのか。
こんなふうにあったかいシチューを作ってもらうのか。
悪くない、悪くないぞ!
「ていうか、こんなに最高なのに、どうして黒魔法って衰退したんだろ……?」
こんなの、俺以外も挑戦すると思うぞ。
「それは白魔法に対して、黒魔法は師匠が弟子を取ってやり方を伝える的なスタイルが強かったからですわ」
セルリアはそのあたりのことも把握してるのか、話をはじめた。
「そういう師匠がいて、弟子がいてっていうのは、なかなか体系化できませんし、弟子になるのもハードルが高いですわよね。そこで、早い段階で学校で教えるのを基本にした白魔法に圧倒されていったんですわ」
「たしかに、画家になりたいからって、画家にいきなり弟子入りしにいくのは尻込みするもんな。でも、画家養成学校があれば、入りやすい」
「そうなのですわ。それに黒魔法の中に生贄を必要とするようなものもあったのは事実ですし。そうなると、余計に敬遠されますわよね。おかげで、キモイ・キタナイ・キケンの3Kと言われてしまうようになったんですわ」
そりゃ、黒魔法も消えていくだろうな。セルリアのいたという魔界ではずっと残ってるんだろうけど。
「ですが、人間の世界の黒魔法業界もこのままではいけないと、キレイ・カイテキ・カイホウテキの新たな3K職場を目指して動き出したそうですわ」
「業界も努力してたんだ!」
「キレイとカイテキはわかりやすいですけど、カイホウテキというのも大事ですわね。どうしても黒魔法というと閉鎖的イメージがありましたから、何も怖くないですよ、就職しても安全ですよと宣伝していこうということですわ」
いつか、黒魔法業界が白魔法業界を圧倒し返す日もあるかもしれないな。
ちょうど食事も終わった。
「水が引けるなら、お風呂も火の魔法で沸かして入れるな。用意してくる」
「あっ、それもわたくしがやりますわ!」
「じゃあ、お湯は作ってくれ。その代わり、皿洗いぐらいはするから!」
あまりにすべてやらせるのは悪いと思ったので、それで折れてもらった。
俺が入らないとセルリアも遠慮して入らないと思ったので、一番風呂をいただく。
美少女が入った後のお湯を楽しむ気だろと思われるのも心外だしな……。さすがに、そこまでヘンタイじゃないけど。
ちょうどいいお湯かげんだった。
「いや~、社員寮の暮らし、いいな~。黒魔法の生活、天国だわ」
思わず、つぶやいてしまった。風呂場だとつい独り言が出てしまう。
「――では、もっと天国にいたしませんか?」
セルリアがお風呂に入ってきた。
言うまでもなく、ほぼ裸に近い美少女がお風呂に入ってきたら、混乱する。
「え、え、え……!? お背中流します的なアレだよね……?」
しかし、セルリアは首をゆっくりと横に振った。
「サキュバスらしいお仕事もやらせていただきますわ、ご主人様……」
そう言うセルリアの顔はほてったように赤い。お風呂場の温度のせいだけじゃないだろう。
これはセルリアも求めている。
けど、このまま流されていいのかと理性が警鐘を鳴らす。
俺は真面目な顔で尋ねた。
「あのさ……これは無視できないから聞くんだけど、サキュバスとそういうことをしても無事でいられるのかな……?」
もし、それが命にかかわるような危険なことなら、どんな誘惑であろうと乗り越えないといけない。
それに――俺が危険になるようなことをしてくるのなら、セルリアを信じられなくなる。
それはあまりに悲しいことだ。絶対に避けたい。
「わたくし、ご主人様に危害を加えるようなことは決していたしませんわ!」
セルリアは胸に手を当てて、宣言した。
「あくまでも今のわたくしは使い魔! ご主人様が死ぬようなことになれば、それこそ汚点ですわ。誰が望んでそんなこと、するもんですか!」
そうタンカを切ってから、セルリアはすぐに、しゅんとした顔になる。
「こんなふうに口でしか誓いは立てられないので、信じられないなら何もいたしませんわ……」
俺は浴槽から立つと、セルリアに近づいてその手を包んだ。
「信じるに決まってるだろ」
これで疑うような奴はバカだ。
「俺は使い魔の気持ちもわからないような腑抜けじゃないからな」
「あ、ありがとうございますわ……」
受け入れられてうれしかったのか、セルリアはわずかに涙をにじませた。
その後、俺はお風呂場でセルリアといろんなことをした。そう、いろんなことだ。
「ちなみに、無害なままこういうことするのって、サキュバス的にはいいことなのか?」
「使い魔の賃金は黒魔法の会社からいただく契約なのですわ。わたくしの場合はおそらく月に銀貨十二枚から十五枚ぐらいでしょうか?」
そういうことか!
明日は2回更新を目指します!