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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
男爵になってたので領地行ってみた編

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59 愚直に目指す幸せ

 食事中、セルリアとメアリにやたらと褒められた。


「ご主人様は本当に男の中の男ですわ。あそこでしっかり断れるんですから」

「わらわがお兄ちゃんに近いところを感じたのも、そういったところがあったかもしれないね」


 セルリアはにこにこしながら、メアリは表面上はクールに。うれしいけど、一方で歯がゆさみたいなのもある。


「そんな、たいそうなことしてないだろ。選択権が俺にあるから、断っただけのことだ」

「けど、普通の小市民ならお金に目がくらんだかもしれませんわ。ほら、わたくしと結婚して資産を狙おうとしたインキュバスの方もいらっしゃったじゃありませんか」


 ああ、あのロリコンか……。自分のストライクゾーンからはずれたセルリアと結婚しようとしたぐらいだもんな……。

 とはいえ、好みじゃなくても、セルリアは美少女なので、ちょっと反則ではという気がする。そこは金のためならドロドロの肉塊みたいなのと結婚するぐらいの気概見せてほしい。


 セルリアの作ってくれたシチューはおいしいけど、今日は素直においしいと思えない自分がいる。課題はまだ残っている。


「俺はお金に困ってるわけじゃないしさ……。給料もそれなりにあるんだし。もし、年収が銀貨十一枚とかの職業についてたら、もっと迷ったかもしれないし……」

 結局、生活が安定してる人間の決断なので、絶賛されるほどのことじゃない。生活が安定してるってことは、つまり選択肢が多いということだからだ。


「だとしても、沼トロールの方々を守ることを選んだのは立派なことですわ。お金持ちでも、あそこで沼トロールを見捨てた方はいくらでもいたはずですし!」


「それに、もっと心残りはあるんだ」


 俺は業者が残していった資料から、とある一枚を出した。

 住民アンケートの結果だ。


「アンケートに答えた人のうち、二十一人中十七人が賛成。つまり、ファントランドに住んでる人の要望は、商業施設を作ってくれってものなんだ。俺は住民の意向を蹴ることを選んだ」


 セルリアもどう返事をしたものか迷ったらしく、ちょっと間が空いた。


 そう、答えはそんなに単純ではない。まだ問題は続いているのだ。俺が領主である限り。


「領主が住民のことをすべて聞かないといけないなんて法はないよ」

 メアリは大人な態度でフォローしてくれる。


「うん。けど、領主は住民の幸せも考えないといけないとは思ってる。そこにいい落としどころを見つけられないか、もうちょっと探っていくつもりだ」


 男爵って想像以上に難しいな。こんなことなら、もらうべきじゃなかった。まあ、一方的に渡されたっていうほうが実情だけど……。


 それでも、まだ俺は逃げる気はないぞ。


 そこで、メアリが大きくため息をついた。

「フランツ、君は善人すぎるよ。もっと、どこかで割り切って悪人やったほうがずいぶん楽なんだけどね……。ほんとにバカだなあ。だから、好きなんだけどね」

 バカにされてるのか、ノロケなのかどっちなんだろう。後者のつもりで受け取っておく。


「すべてを丸く収めることはすごく難しいけど、あえてそれを実現しにいく。多分、そこが君の弱点と同時に、強さなんだと思う」

「どっちだかわからない発言ばっかりするな……」


 やっと、メアリの表情がゆるむ。(見た目の)年相応の笑顔だ。


「褒めてるよ。普通なら投げ出すところで投げ出さない、それをやれる者だけがすごい奴になれるんだから。君は将来、本当に本当に偉大な黒魔法使いになるかもね」


「持ち上げられるのはありがたいけど、別に毎日厳しい修行してるわけじゃないしな……」

 話半分に聞いておくぞ。


「なぜなら、ほどほどで諦める人間は、ほどほどの黒魔法使いにしかなれないからさ。道を極める人物は、ほぼ愚直な性格って相場が決まってるの」


 セルリアも深くあいづちを打ってから、俺とメアリの減っていたお茶を入れてくれた。ちなみに、先日お見合い騒動で魔界に戻った時に買ってきた魔界のお茶だ。


「メアリさんの言葉、すごくわかりますわ! そうなんですわ! ご主人様はぶれないんですわ!」


 ぶれないか。

 じゃあ、なんとか住民も幸せにする方法を見つけるのが俺の道だな。

 そのためには、住民の要望を聞くところからはじめるしかない。もし、代替できるものなら、その代替方法を考えていけばいいし。


「やれるだけやってみなよ。わらわも応援するよ。たとえ人間のあらゆる国家が敵にまわっても、わらわはフランツのために滅ぼし続けるから」

 それ、ガチで滅ぼし尽くされそうだから、怖いんだよなあ……。



 その日から俺はファントランドについて調べ始めた。

 資料は会社の地下にあった。


「終わったら教えてくださいね」

 社長に料理について調べたいと申し出たら、会社の地下書庫を教えてくれたのだ。もともと、お城の貯蔵施設だったらしい。籠城した時のことを想定してたんだろう。

 地下には無数の本がずらっと並んでいる。一見して、黒魔法の本以外もしっかり置いてある。


「こんなところがあったんですね! 助かります」


「あと、絶対に夜八時には締めます。それまでに私に書庫のカギを返してくださいね。そして、ちゃんとおうちに帰ってゆっくりくつろぐこと、家族とだんらんの時間を持つこと。これは必須事項ですよ。深夜まで本の虫なんてことはダメですよ!」

 人差し指をぴんと突き立てて、社長が注意する。これは絶対に守らないとな……。


「はい! ちなみに……もしや俺が帰らないと社長も家に帰れないとか……?」

 建物の施錠の問題がある。社長も帰れないのは罪悪感が……。


「それなら心配いりません。私、ここに住んでますから♪」

「え……?」


 書庫がある廊下の奥に別室の引き戸式の扉があるが、こんなプレートがかかっていた。


<ケルケル リビング>


 そっか、地下室は社長のプライベートな空間でもあったのか……。


 ほかにも<ケルケル お風呂>とか<ケルケル トイレ>といったプレートがついているところもある。


「じゃあ、フランツさんの調べ物の間にお風呂入ってます。でも、のぞかないでくださいね?」

「だ、大丈夫です……」


 なんか、フリっぽいけど、のぞいたらダメだろう。

なんか、フリっぽいですが、あまり気にしないでください。

次回に続きます!

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