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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
男爵になってたので領地行ってみた編

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56 先住民がいた

 足下を見ると、本当に何者かの手が俺の足をつかんでいた!


「うわあああああっ! 誰だ、誰だ!」

 それはかなりの衝撃で、俺は声を張り上げた。

 まさか、このまま沼に引きずりこまれるってやつだろうか。落ちない自信はあったけど、向こうから引っ張られるとなると、それは全然話が違ってくる!


 しかし、幸いにもというか、その手はぱっと離れた。それから、ざぱんと沼に戻っていった。


「いったい、今のは何だったんだ……?」

 怖くなって、その場にへたりこんだ。かなりホラーな経験をした。


「フランツ、大丈夫? 変なことされなかった?」

 メアリがすぐに俺の前にやってきた。


「足をつかまれただけだ……」

「何かいるのかな。沼を滅ぼせば、その問題も解決するよね」

 その解決方法は少しばかり、アグレッシブすぎる。


「待て、相手が何かわからないし、もうちょっと平和的な解決方法はないのか……?」

「平和的も何も、こんなところに棲んでるんだから、まともな人間じゃないよ。フランツの足がつかまれたのがその証拠じゃない。ちょっとばかし地獄の業火で焼き尽くして蒸発させるだけだよ」

「それ、集落ごと滅亡するだろ!」


 俺とメアリが言い合っていると――


 ざぱあっと白いワンピースを着た黒髪の女の子が出てきた。

 沼から出てきたのだから当たり前かもしれないけど、その髪はびしょびしょに濡れていた。


 それと、服も濡れているので透けていて、下着が見えそうだ。そこは夜なせいで、そんなにはっきりわからないけど。


「あの……ごめん。まさか、人がこんなところにいる、思ってなかった……。いつも、このへんに生えてる草引っ張ってた。間違って、足引っ張ってた……」

 カタコトでしゃべりながら、ぺこりと頭を下げる女の子。


「いえいえ、びっくりしたけど、誤解だったら別にいいです」

 害はなさそうなので、俺も無難な応対をする。


「あの、あなたは何者ですの?」

 セルリアがもっともなことを聞いた。


「……沼の近くに棲むトロール。沼トロールと呼ばれてる。がうがう」

 その子は少し、うつむき気味にそう答えた。


「あれ、トロールってもっと大きくなかったっけ……?」

 腰みのひとつで棍棒振り回してるイメージがあったんだけど。


「ああ、水辺で暮らすようになった種族は小型化していったんでしょ。ちなみに、トロールはもともと魔族で、古くに魔界からこっちの世界に移住した種族だね」

 メアリが解説をしてくれた。でも、やっぱり本人から聞いたほうがいいな。


 沼のほとりで彼女から受けた説明によると――

「私たち、この沼、古くから暮らしてる。環境変わらなくて、住みやすい、いいとこ。今は木と草でできた建物で、五十人暮らしてる。がうがう」


 ということらしい。

 たしかに沼の隅に人工物らしい掘っ立て小屋があるように見える。

 それと、どうでもいいけど、末尾につく「がうがう」がかわいいな……。


「そっか。君たちも暮らしてるんだね。あれ、でも……ここの人口二十一人って資料にあったような……」


 五十人となると、倍以上オーバーしてるじゃないか。


「多分、トロール、数に含まれてない。その分、税金払ってない。自給自足。魚と草取って焼いて食う。がうがう」

「登録されてない先住民ってことか……」

 よく見ると白いと思った服もけっこう薄汚れている。多分、古い服をどこかで調達したのだろう。


「私、三百五十年前に生まれた若い世代。だから、人の言葉しゃべれるが、母、父は無理。がうがう」

 そんなに長く生きてるのか、トロールって……。


 それで、どうしても気になったことがあった。

 あまり聞きたくなかったけど、領主である立場上、聞かないわけにもいかない。


「あのさ、君たちは人間の住民とはケンカしてないの?」

 まず、沼トロールは大きく右手を横に振った。否定の意味らしい。


「昔はあったかも。でも、沼地湿ってる。人間住めない。病気なる。だから、この二百年問題ない。ケンカない」

「人間は魚をとったりとかはしないの?」

「沼の肴、泥臭い。人間嫌がる。草も嫌がるの多い。トロールおなか丈夫。しっかり消化できる」


 俺はほっとする。自分の領地で深刻な対立とかあったらシャレにならないからな。


「それで……あなたが領主様がう?」

 その子が顔を近づけて僕のほうをまじまじと見る。種族のせいか、くりくりと大きな瞳だと思った。けっこうかわいいけど、そういう発想は一度脇にどけよう。


「う、うん、そうだけど……」

 俺は少したじろぎながら答えた。


「こ、これからもよろしくお願い……」

 その沼トロールが、いきなり背中を大きく曲げた。


 お願いされている意味がいまいちよくわからない。

「この沼を埋められたりしたら、みんな暮らせなくなるから……。領主、その権利がある……がうがう……」


 それで得心がいった。


 たしかに法的には沼トロールは無許可で沼を使用していることになる。立ち退きを要求することはおそらくできる。

 だから、多分、沼トロールたちは領主が来た時はこうやってお願いしていたんだろう。


「顔あげて」

 ゆっくりと不安そうに彼女が頭を起こす。


「これまでどおりでいいよ。これまでの領主も認めてきたからみんな暮らしてたんだろ?」

「そもそもここをチェックに来る領主、少数。わからない。がうがう」


 マイナーすぎて無視されてきてたのか……。


「とにかく、俺はここを何かに使うつもりもないし、一切問題ないよ。君たちの何も脅かさない」


 悩むところもないし、あっさりと俺は言った。


「ありがと。領主の言葉信じる。みんなにも言う。がうがう!」

 何度もその子が頭を下げたので、濡れてた頭の水がちょっとかかってきた。


 去り際、俺は一つ質問をした。

「そうだ、君の名前は? 俺はフランツ」


「ホワホワ」

 変な名前だなと思ったけど、キャラにはよく合ってたかもしれない。

「じゃあ、またね、ホワホワ」


「領主そんなに来ないんじゃ? あんまり会わない気がする。がうがう」

 それもそうだろうか。


 沼の横のぬかるんだところをホワホワは走っていった。

 よく見ると、沼の近くで生えている木の上に小屋みたいなものが見えて、灯かりがついていた。

 家族らしき沼トロールがホワホワに手を振っているのが見えた。


「沼トロールにも家族愛はあるんだね」とメアリがしんみりした顔で言った。



 これで男爵としての仕事は終わったと思った俺たちは翌日、天翔号で王都のほうに帰宅した。トトト先輩ともそこで別れた。


 こうして、またいつもどおりの日々が訪れるはずだったのだけど――そうはいかなかった。


 俺が沼の管理の仕事を終えて、メアリと一緒にセルリアが作ってくれる夕飯を待っている時間だった。


 コンコン、とドアがノックされた。

 ドアを開けると、上等な絹の服を着ている商人風の男がいた。鯨ヒゲがピンと立っている。


「夜分に失礼します、王都パラディン商会の都市開発部の者です」


新キャラ、登場しました。また、数回後に出てくる予定です! 次回からちょっとだけ話が動きます。

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