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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
サキュバスのお見合い編

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53 高地トレーニング理論

 しばらく、お風呂から出た俺は魂が抜けたようにぼ~っとしていた。むしろ、本当に抜けかけてないかと不安になったぐらいだ。


 隣では、リディアさんがぱたぱたと鳥の羽で作ったうちわであおいでくれている。もう、服も着てくれているので安心だ。あくまでもサキュバスの服装なので、露出は多いが。


「いろんな意味でのぼせました。こういうこと言うの、おかしいかもしれませんけど、セルリアより濃厚でした……」

「だよね~。でもね、これが本来のサキュバスの仕事なんだよ。セルリアは違うんだと思う」


「どういう意味です?」

 どうしたって、ひっかかる言葉づかいだ。セルリアは半人前? ってことだろうか。


「多分だけど、セルリアのは本当に愛し合っているっていうか、夫婦みたいな感じのだと思う。じゃあ、違いも出てくるよね」


「あっ……」

 リディアさんの言葉の意味がわかった。


「サキュバスやインキュバスの本来のあり方からはずれてるかもしれないけど、セルリアがそうなったのには意味があると思うし、私は少なくとも応援してるよ。だから、セルリアのこと、よろしくね」

 リディアさんがウィンクして笑いかけてくる。

 俺は「はい」とうなずいた。


「サキュバスやインキュバスと真実の恋愛をするなんて無理だってしたり顔で言う奴は魔界にも人間の世界にもたくさんいるけど、私はそんなことないって信じてるから。あの子だって、性格悪い奴の対処法ぐらい教わってきてるから、フランツ君がダメな奴ならとっくに避けられてるよ」


「もっと、セルリアを幸せにしてやりたいです」

 なにせ、まだ俺とセルリアは出会って数か月しか経ってないんだから。もっと幸せになってもなんらおかしくない。


「その調子で生きてけばいいと思うよ。じゃあ、メインが来たから私は去るわ」

 リディアさんの視線の先には、セルリアが立っていた。

 なぜか、セルリアがとても初々しく見える。


「よかったら、お庭を少し散歩しませんこと?」

「うん。ちょっと夜風に当たりたかったし。こっちの世界はずっと夜みたいなもんだけど……」


 その日はセルリアと手をつなぎながら、ぐっすりと眠った。メアリも今日は一人で眠るからと、セルリアに譲ってくれた。


「ご主人様がそばにいてくれると、とてもほっとしますわ」

「俺もまったく同じこと考えてた」


 隣に誰かがいてくれることってこんなに大事なものだったんだ。セルリアを失うかもしれない危機が来て、その意味に気づけた。


 かなり疲れていたけれど、セルリアと一緒にいたら、すごく回復した気がした。



 有給休暇が終わったので出社したら、すぐに俺はお礼を言いに行った。


「社長! ファーフィスターニャ先輩! ありがとうございました!」

 二人からアイテムをもらってなかったら大変なことになっていた。


「お役に立ててよかったです」

 なんでもないことのように微笑むケルケル社長。

 一方で、ファーフィスターニャ先輩は無言でピースサインを右手でしていた。


「初めての魔界、なかなか刺激的な体験ができたかと思いますが、ご無事でよかったですね」

「はい……。命の危機もありました……」

 インキュバスを敵に回すのはできるだけ避けよう……。


「ですが、その体験がプラスに働いてるところもあるんですよ」

「脳内の魔法一覧をチェックしてみるといい」

 二人に言われたので、実行してみる。


・インプ召喚

・悪霊召喚

・毒サソリ召喚(毒を弱・中・強から選択可)

・悪霊との会話

・精神支配耐性

・精神支配(中度)

・肉体弱体化(中度)

・生命吸収(中度)

・恐怖心増幅

・泥炭地歩行(同行三人まで可)

⇒次ページに続く


「あっ! なんかパワーアップしている!」

 二ページ目以降も魔法がちょこちょこバージョンアップしていた。これはどういうことだ……?


「フランツさん、魔界に行って疲れたと思いましたよね?」

「はい、そりゃ、もうくたくたでしたよ……。慣れない場所なうえに、とんでもないことにも巻き込まれましたから……。いえ、自分から巻き込まれにいったのかもしれませんけどね」


「その疲労の一部は人間が魔界に行ったから」

 ファーフィスターニャが今度はもう片方の手もピースサインにした。


「人間が魔界に行くと、高地トレーニング的な効果がある」


「そのたとえは割とわかりやすい!」

 俺は魔界という土地でトレーニングをして、無意識のうちに強くなっていたらしい。


「とはいえ、ここまで劇的に変化があるというのはまずないですから、やっぱり才能があるんでしょうね」

「その才能妬ましい」


 天才肌のファーフィスターニャ先輩に言われるの、納得がいかない。


「これからもネクログラント黒魔法社でばりばり働いてくださいね」

「はい、もちろん!」


 もっと活躍して、会社にも黒魔法業界にも貢献するぞ!



 その日、一人で帰宅して扉を開ける。ちなみに、メアリはほかの場所で働いているので、帰宅は別々になることが多い。


 すごくおいしそうな匂いがすぐに鼻をくすぐった。


 エプロン姿のセルリアとメアリが俺の前に出てくる。


「おかえり、今日はセルリアがフランツにとことんいいものを食べさせたいらしいよ」

「ご主人様にご迷惑かけた分、少しでもお返しをいたしますわ!」


 元気な一点の曇りもないセルリアの笑顔。

 その顔を見れただけで、もう十分なんだけど。


「あれ、ご主人様、なんで泣きそうになっているんですの?」

 セルリアとしては、こっちの反応が早すぎて、よくわからないだろう。


「もしかして、玉ねぎが目にしみたのかな」

 俺はそんなことを言ってから、そっとエプロン姿のセルリアを抱き締めた。


 メアリも横でその様子を祝福するように見てくれていた。


「もう、このまま離れたくありませんわ」

「もちろん、俺も」

 まだ新婚みたいなものだし、これぐらい甘い言葉を囁いても許されるよな。


 それでたっぷり五分ほど抱き合っていたあと、もういいだろうとメアリが何やらロウで封がされた書類を持ってきた。


「これ、フランツ宛てだから。確認しておいてね」


 ファントランド男爵様――とそこには書いてある。


「これ、配達ミスじゃないか。ファントランド男爵になってるし。でも、住所はここだな」


 そこで、ふとあることを思い出した。

 俺、魔法学校の決闘で勝って、男爵になってたんだ!

セルリアのお見合い編はこれにて終了です。次回から新展開に入ります!

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