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5 サキュバスの人助け

 社員寮の中は人が住んでなかったせいで、多少ほこりっぽいが、それでも、椅子もタンスもいいものが揃っている。


「悪くない部屋だな」

「そうですわね。できれば、ドクロがどこかに置いてあるともっとよいんですが、それ以外は満点ですわ」

「か、変わった趣味だね……」

 サキュバスの価値観は人間とかなり違うらしい。


「じゃあ、まずはこの部屋を掃除しようか。手伝ってくれる?」

「むしろ、ご主人様にやらせてもよいものなのでしょうか?」


 そうか、使い魔って、掃除も含めて全部やるんだな……。仕事の補助だけじゃないんだな……。


「そこは俺もやる。借りているとはいえ、俺の家なわけだし」

「ご主人様はおやさしいんですわね。ではよろしくお願いいたしますわね」


 ぱっと、煙みたいなものがセルリアの体にかかる。

 その煙が途切れると、エプロン姿でほうきを持ったセルリアがいた。


「そういうこともできるんだ……」

「これぐらいの魔法は簡単ですわ」


「物質転送……? だとしたら、かなり高度な魔法だと思うんだけど……」

 多分、自分の持ち物だけとか限定があるんだろうな。

 でないと、物品の輸送業をやってボロ儲けできることになる。


 さて、本格的に掃除するぞと意気込んでみたのだが――


 セルリアのほうに目がいってしまって、あまり進まない……。


 後ろからセルリアを見ると、なんか裸エプロンみたいに見える。

 ちゃんと服は着てるので、別に卑猥ではない。卑猥に見えるほうがおかしいのだ。じゃあ、俺はおかしいのか!? こればっかりは男だから、しょうがない……。


 こんな子と一つ屋根の下で暮らすって、十八歳の男としてかなりの拷問だぞ……。

 サキュバスだから、えっちなこともやらせてくれるのかな……待て、待て、そうするといろいろ吸い取られて衰弱するとか噂では言うぞ……。


 俺は行ったことはないが、王都の歓楽街でもサキュバスによる違法な店があるとかいう話だった。あんまり通うと命にかかわるとか。あくまで噂で行ったことはないけどね……。


 ああ、ダメだ、ダメだ。ルームメイトにいきなり下心持ちすぎだ。

 ここは落ち着いて紳士的に対応するぞ!


「あっ、ご主人様、お掃除終わりましたわっ♪」

 いつのまにか、部屋がリフォームしたのかというほどにきれいになっていた。


「お掃除技術は魔界の学校で習いましたから。あと、空を飛べるサキュバスは掃除の効率もいいらしいですわ♪」


 いいところを見せられて、ちょっと誇らしげなセルリア。

 セルリア、マジ天使! むしろ悪魔だけど!


 ああ、こんないい子に卑猥なことを考えていた俺はダメだな……。心が濁ってる……。いや、それって黒魔法使いとしては正しいのか? よくわからなくなってきた。


「ありがとう、助かったよ。これで、住環境は完璧だね」

「じゃあ、次は『食』ですわね」


 たしかに食べ物が無人だった寮にあるわけがなかった。

「よし、王都に買い物に行く!」



 なお、買い物には俺一人で行っている。

 理由は明白だ。王都にセルリアを連れていったら、猛烈に目立つ。


 使い魔を連れてはいけないなんて法律はないはずだけど、それでも公序良俗的な何かにも反すると思うし、あまりよくないだろう。


「よう、フランツじゃないか」

 声をかけられたほうを振り向くと、クラスメイトのレイモンドが偉そうな顔で立っていた。


 俺より成績悪いのに、先に内定とった奴だ。

 まあ、俺が卒業一か月前まで内定とってなかったのだから、ほぼすべての生徒が先に内定とってるわけだけど。


 こいつは人を見下してくるタイプなのであまり好きじゃない。

「フランツは内定決まったのか?」

 ほら、俺が就活に失敗してると思って、わざとこういうこと聞いてきた。


「それがさ、卒業までに滑り込みセーフで、内定とれたんだ」

 うん、まさに今日な。


「あっ、そうかよ……」

 露骨に嫌そうな顔になったな。

 そこは表面上は「よかったな」とか言って喜べよ!


「内定先はどこなんだよ」

「黒魔法関係の会社だけど」

 すると、またレイモンドが勝ち誇った顔になった。わかりやすい奴……。


「おいおい、今時、黒魔法の業界なんて流行らないって! 若者の黒魔法離れとかオッサンが言ってるけど、キモイ・キタナイ・キケンの3Kなだけだっての!」

 うん、俺も正直、そう思ってたんだよな。


「どうせ、給料とかも薄給でブラックなんだろ? 心病む前に白魔法の仕事に転職したほうがいいぞ」

「ああ、給料って白魔法業界の相場の倍ぐらいらしいわ」


 また、レイモンドが嫌そうな顔になった。

 お前の就職先、そんな有名企業じゃないから確実にお前より多いよ。


 しょうもないことでマウンティングとってくるな。自分の立場が不安定なところで偉そうな顔しようとすると、かえって痛い目見るぞ。


「そっか……。ちなみに、お前、彼女はいるのか?」

 その言葉と同時に、レイモンドがちらっと横に目をやった。


 少し化粧が濃い目の女の子がいる。おおかた、魔法学校の後輩だろう。そういえば、さっきから立ってた。レイモンドのことを待っているようだ。

「ちなみに、俺の彼女。レイラって言うんだ。先月から付き合いはじめた」


「あっ、こんにちは~☆ レイラで~す☆」

 見た目から判断すると、けっこう遊んでる系の子だな。


 多分、この子もレイモンドもお互い本気じゃないんだと思う。根拠は付き合いはじめた時期だ。レイモンドが内定決まった後なんだよな。


 彼氏が社会人になったらいろいろ買ってもらえるだろうし、社会人の彼氏だと、学生の彼氏を持ってる女子に対して、自分が大人なように見せられてマウンティングもとれるだろうし、このレイラって子もそのあたり計算に入れてるように思う。


 いや、もちろん純愛の関係かもしれないけど、その子のバッグ、かなり高いもののはずだ。学生が持つには実家が金持ちとかでないときつそうだから、レイモンドが買ってやったんだろう。


 でも、彼女に関しては俺の負けだな。いないものはいない。


「よかったな。俺、彼女いない歴更新中だから」

「まあ、黒魔法の会社で見つかるんじゃないか? しおしおの老人ばっかりかもしれねえけど」


 それがそうでもないんだよな……。社長がまず美少女だし。

 やっぱ、黒魔法の業界って偏見と戦ってるんだな……。


 さてと、敗北感も味わったことだし、とっとと買い物に――


「あっ、いたいた! ご主人様、探しましたわ!」

 そこにやってきたのはセルリアだった。

 俺の背中に両手を乗せて、着きましたアピールをしてくる。


「あれ、家にいてくれって言ったよな……?」

「ごめんなさい……。でも、一人で残ってるの、寂しくてついてきちゃいましたわ……」


 しゅんと悲しげな顔になるセルリア。あわてて俺は「ごめん、気づかなかった!」とフォローを入れる。別に叱ったつもりじゃない。


 一方で、なぜかレイモンドが固まっていた。

「えっ……それってサキュバスなんじゃねえのか……?」


「ご主人様の使い魔をしておりますセルリアですわ」

 ぺこりとレイモンドたちにあいさつするセルリア。


 あっ、レイモンドの顔に「負けた」と書いてある。こいつ、彼女の顔で勝負しようとするなよ……と思ったけど、もし顔面偏差値が数値化されたら、セルリアが圧勝すると思う。


 レイラって子がダメなのではなく、さすがサキュバスというか、セルリアがかわいすぎるのだ。しかも顔自体は清楚系なので、女子慣れしてない男でも好きになるタイプの顔だと思う。


 化粧のことは詳しく知らないけど、ほとんどノーメイク(のはずだ)でこれだけの美貌を保つのって、人間の女性だととんでもなく難易度高いぞ。


「ちょ! レイモンド! なんで負けたみたいな顔してるわけ!」

 彼女さんも怒った。そりゃ、そうだろう。


「わ、悪かった!」

「何か買ってくれないと納得しないからね!」


 レイモンドは彼女に引っ張られて退場していった。


「何かご主人様によくないことが起こってる気がして、文字通り飛んできましたわ」

 ふふふとセルリアはいたずらっぽく笑った。


「そうか、寂しくて来たっていうのは方便で、俺を助けるために……」

 俺は本当にうれしかった。


「やっぱり、セルリア、いい子すぎる! マジ天使!」

「わたくし、天使じゃなくて悪魔ですわよ」


 俺とセルリアはくすくすと笑いあった。

本日、深夜にもう一度更新できればと思います!

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