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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
悪夢の祖が出てきちゃった編

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42 滅ぼすものが見つかりました

 いろいろ買い物をしたので、大きな宿の一階にある喫茶店でお茶を飲むことにした。

 そんな店なので、けっこう値段も張るけど、デートと言えなくもないし、別にいいだろう。


 お金のことは出費が大きすぎてまずくなってきたら、ケルケル社長に相談しよう……。


こんな人を召喚しちゃうなんてケースはレア中のレアだから、多分ある程度許されるはず……。できれば「召喚魔族養育手当」みたいなのがほしいな……。


 立派な宿なので、ボーイさんみたいな人が訪れる人に接客もしている。こういうタイプの宿は基本的に大都市にしかない。


 だけど、なぜかメアリがけげんな表情を浮かべていた。


「う~ん、なんかおかしいんだよね~」

「おかしいってどういうこと?」

 魔界にはこういう接客はないとかそういう話だろうか。


「従業員がみんな、疲れた顔をしてるんだよ、ここ。わらわの悪夢見せた人の顔に近いものがある」

 嫌な道のプロだな……。けど、その言葉には違和感があった。


「みんな笑顔で接客してるよ。あっちのフロントでも女性従業員が丁寧に対応してるし」


「フランツ、もしかしてここの従業員の多くは奴隷なのかな」

 なんか、極論が来た!

「そんなわけないって。奴隷制度なんて百年以上前に終わってるし」


「なるほどね~。それにしては、どうも奴隷と似た顔の人間をけっこう見るんだよね。なんでかな~?」

 けっこう従業員に失礼なこと言ってるなと思ったけど、どうも気になる。


「あの、奴隷っぽく感じるお店があったら教えてもらえないですか?」


 結論からいくと、メアリがその日言っていた職業はまちまちだった

 新しい橋の付け替えで働いてる人もいれば、大きな小売店で接客してる人もいる。もちろん、奴隷を示す鎖などついていない。そもそも、鎖とかでつなぐみたいなことは奴隷制の廃止前からやってないけど。


「まあ、わらわの勘違いってこともあるかもしれないしね。そんなに気にしなくていいよ」

「いや、メアリがそう思ったってことはなにかしら理由があるかもしれない。今度、社長に聞いてみるよ」



「これ、何かわかることありませんかね?」

 俺はメアリと一緒に会社に来て、リストをケルケル社長に渡す。

 こういうことは社長に聞いてみるのが早いと思った。


「ふむふむ。ちょっと経営関係の資料で当たってみますね。我が社も王都の企業ではあるので、ほかの企業の動向も多少は探っているんですよ」

 しばらくすると、ケルケル社長は書類を持って戻ってきた。


「ずばり、その人たちは派遣社員か期間雇用の方、あるいはアルバイトですね」

 あっ、なんとなくわかってきたぞ。


「たとえば、その宿の従業員の大半はこの『自分なりの生き方人材派遣会社』に登録している方が送られてきています。こっちの小売店は三か月ごとの更新制で接客の人を雇っています。こっちもバイトで無理にまわしてますね~」


「もしかして、雇用の条件が悪くなっていて、それが表情に自然と現れてるってことですか?」

 たとえば、三か月ごとの更新制だったら半年後、自分は失職しているかもしれないのだ。のんびり構えてられないだろう。


「ですです。企業が給料を安く済ませるためにこういうことをしだしたんですよねえ。これ、働く人は長く働いてもキャリア形成につながりにくいし、よくないんですけど。だって、全然違う会社にまた派遣されたりするんですから」


 謎は解けてきた。法的に奴隷はいないけど、不利な条件で働かされてる人が思った以上に王都にあふれてるってことだ。

 違う世界からやってきたメアリにはそれがはっきり認識できたのだろう。


 そこで、にやっと社長は笑った。

 その目はメアリを見つめている。


「メアリさん、滅ぼしていただきたい対象が見つかりました」

 俺もだいたい答えがわかってきた。

「社長、もしかして、ブラック企業を滅ぼしてくださいって言うつもりですか?」

「ピンポーン!」


 これまでいくつもの都市や国家を荒廃させた『名状しがたき悪夢の祖』にブラック企業を滅ぼさせる!


 なるほど、名案だ。…………名案なのか?


「あの、社長、いくらなんでも会社をぶっ壊せば法律違反ですよ。捕まっちゃいます……」

 しかし、またケルケル社長は微笑む。


「フランツさん、ブラック企業は法律に違反してお金を稼いでるからブラック企業と呼ばれてるんですよ。ならば、それを理由に処罰されても道理ですよね?」


 うん、意味はわかる。わかるけど、それってメアリにできるの?


「ていうか、ブラック企業って何? 黒魔法の企業?」

 それだと我が社もブラック企業になってしまう。


 俺はブラック企業がどういうものか説明した。

 聞いてる途中でメアリはだんだん憤りの表情を見せてきた。


「ぷんぷん! アルバイトを辞めたいのに辞めさせてもらえないってあまりにも無茶苦茶だよ! あと、その残業代が出ない会社もおかしい! 働いたからにはお金出さないと! 魔界でもそんなおぞましいことはしないって!」

 魔界よりおぞましいのか、王都。


「わかった! わらわがブラック企業を滅ぼすよ! わらわの配下の六万六千六百人のミニデーモンを使えばきっとできる!」

 なんか、大掛かりなことになってきたぞ!?


「ちなみにミニデーモンは全員この国のルールで言うところの正社員だよ」

 超大企業かよ。ていうか、メアリって本当にすごい存在なんだな。


「ふっふっふ、フランツ見ててね、三日後、忌まわしき赤い月がのぼる日があるけど、その日、王都のブラック企業は災厄と惨劇に見舞われるよ」



 決行の日、本当に赤い月がのぼっていた。


 俺は夜遅くまで、灯かりをつけて仕事をしている建物の下で様子を見ていた。

 隣には、メアリとセルリアがいる。


「あのさ、メアリ、足はつかないようにしてくれよ。逮捕されるとか困るからな……」

「それは大丈夫。一言で言えば規模が巨大すぎて犯人を証明しようがない。王都のあらゆるところにミニデーモンは現れるから」


 その言葉どおりになった。

 俺たちの目の前からも、その後ろからも、あるいは空の上にも、ファンシーなミニデーモンが出現した。見た目はちょっと猫っぽい。羽が生えてるけど。本当に無から湧いたように見える。


「うわ、なんだ、この生き物」「かわいい!」「ママ、あれ飼いた~い!」「けっこう、飛ぶの速いな」


 見た目のせいか、そこまで町はパニックにはなってないようだ。


「ミニデーモンたちは企業にも出現して、法律違反の業務内容を見つけると、労働に関係する役所に届けたり、同業者組合に報告したり、とにかくいろんなところにおかしいことを伝えるの。役目が終わったらその場で魔界に戻るから、まあ、わらわが大物の魔族であり、かつフランツが呼んだとしってる人しかわからないよ」


 これは勝ったな。


「じゃあ、問題なく終わりそうだし、帰ろうか、フランツ」

 突然、効果が出るものでもないので、その日、俺たちは家に帰って普通に寝た。


 ああ、以前と比べると普通ではなかった。


「フランツ、頭なでなでして。今日はお仕事頑張ったからね」

 俺はメアリの抱き枕役をつとめて眠った。

次回、ブラック企業をぶっ壊します。

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