34 港町でお食事
蜂の攻撃にさらされた盗賊は統制もとれずに、大混乱に陥った。
あとはこの間にじっくり魔法陣を作ればいい。あるいは今のうちに逃げてもいいかな。
だけど、そんなことをする必要はなかった。
ゆっくりとトトト先輩がやってくる。
心なしか、ツインテールが吊り上がってるように見える。端的に言って、ものものしいオーラみたいなものを感じた。
「オメーら、ふざけてんじゃねえぞっ!」
そして、だいぶ悪そうな言葉づかいとドスの利いた声を出しながら、盗賊を思いきり蹴り飛ばした。
その一撃で盗賊が木に叩きつけられる。
「えっ、なんか、ものすごい威力だったような……」
「ワタシに盾突いて勝てると思ってんのか? これでもエルフ界隈のレディースの走り屋ん中じゃ最強勢力だったんだよ! テメーらみたいな半端な男に負けるわけねえだろ!」
そのあとも先輩はガシガシ盗賊を蹴って、相手を撃破していた。
ていうか、黒魔法は使わないんだな……。物理的攻撃で全部倒した。
「ごめんね、フランツ君。君がどれぐらいできるのか、せっかくだから見ようと思って、じっとしてた。てへっ」
わざとらしく、先輩はかわいく言った。明らかに、敵を蹴ってた時と口調も声も違いますよね。
「先輩、なかなか恐ろしいですね……」
「そりゃ、走り屋なんて二日に一回ぐらいほかのチームとケンカしたりするから、大変だったわ。最盛期だとワタシと友達の下に五百人ぐらいいたんじゃないかしら」
それ、国から討伐受けるレベルだぞ……。
「横で見ていましたけれど、鬼気迫るものがありましたわ」
セルリアもすごいものを見たという顔をしていた。だけど、すぐに俺のほうに顔を向けて、
「ですが、わたくしのことを案じてくださったご主人様も素晴らしかったですわ! わたくし、ますます好きになってしまいましたっ!」
俺の頬に軽くキスをした。
こういう短い時間のキスも、これはこれですごくいいな……。青春って感じがするっていうか。
これで一段落ついたな。一時はどうなることかと思ったけど――って、トトト先輩が何もない森のほうに顔を向けていた。
まさか、また盗賊が来るのかと考えたけど、そうじゃなかった。
「なんだよ、わざわざ出てこなくていいんだぜ」
トトト先輩は走り屋時代の口調でしゃべっていた。
何もないはずの森に向けて。
「また来るぜ。お前がいなかったら、今のワタシもねーんだからな。お前がワタシを育ててくれたんだ。無駄なもんなんて何もねーよ。ワタシもお前の命を背負って、これからも荷物運んでいくぜ。そこで見守っててくれ」
みんな、それぞれの人生を生きてるんだな。ある意味、当たり前のことなんだけど、そんなことを今更のように実感した。心のないモブなんてこの世界にはいないのだ。
「もし、お友達の事故がなければ、トトト先輩の人生はまったく違ったものになっていたと思いますわ」
セルリアが俺のそばで、そうつぶやいた。
「ですが、お友達が生きている人生を生きることはできませんわ。わたくしたちはこの一回きりの人生を生きるしかできないんです」
「だな」
「だからこそ、わたくしもご主人様との出会いを大切にいたしたいですわ」
セルリアが俺の肩に頭をあずけた。俺もそっとセルリアに腕を伸ばしながら、先輩の後ろ姿を見ていた。
●
盗賊はトトト先輩の「肉体弱体化」の魔法で動けなくしたうえで、警察に連行した。
荷物を届けるのがちょっと遅くなるけど、今回の輸送は俺のドラゴンスケルトン運転の練習を兼ねていたので、少し時間に余裕があるスケジュールだったらしい。なら、俺がハイペースで飛ばしていたので、挽回することもできるだろう。
天翔号は無事に時間以内にスーマンの手前にある集積場に到着した。
そこで荷物を降ろす作業を終えるとちょうど夕方になった。その日は、トトト先輩が「ワタシのおごりよ! どんどん食べてね」と言ってくれたので、港町の居酒屋でとことん飲み食いした。
港町だけあって、たくさん魚料理があったのが新鮮だった。
「こんなにおいしい焼き魚って食べたことないですよ! 魚の名前は知りませんけど」
「これはタイって名前の魚ね。ワタシもあまり詳しくは知らないんだけど。あまり王都では食べられてないんだけど、お米っていう穀類と焼いたタイの肉を炊いたタイ飯というのが、もっとおいしいわ」
言われたとおりそのタイ飯というのを注文してみると、本気で美味かった。
「これ、いいですね! どっちかというと、締めに食べる料理かもしれませんけど」
「お酒の飲み方にルールなんてないわよ。どんどん飲んで食べなさい」
セルリアはそんなに大食いじゃないけど、どの料理も少しずつ口をつけて「とってもおいしいですわ」と笑顔で口を動かしていた。
「あと、細長いソードフィッシュって魚も焼くとおいしいわ。まだまだ食べられると思うし、そっちも注文しましょうか」
こちらは塩の効いた銀色に光った身の魚だ。タイと比べると、ふっくらしている。これもお酒に合いそうだ。
大きな貝の殻をそのままお皿代わりにした豪快な料理もおいしい。貝のエキスがそのまま殻のお皿に残っている。
ほかにもイカを高温で揚げた料理もかなり酒が進む。
「それにしても、このお店、お酒の種類多いですね」
「このあたりはいい湧き水が出てるらしくて、お酒作りも盛んなの。そのお酒を王都に向けて運ぶのもドラゴンスケルトンの大事な役目よ。ほら、お酒って液体だから大量輸送が大変なのよ」
なるほど。ドラゴンスケルトンのおかげで物流も変わっていくんだな。
「きっと、天翔号もかつてはドラゴンとして大空を我がもの顔で飛んでいたと思うわ。その死体をどこかのネクロマンサーが最初に使役した。それが巡り巡って、今、こうやって国の物流を支えているわけ」
ドラゴンにも歴史アリだな。
会社員の楽しみの一つ、出張先でのご当地料理をしっかり堪能できた。
けど、そこでふっと酔いが醒めた。
「そういえば、今日ってどこに泊まるんですかね?」
まだ、宿を決めていなかった。町だし、宿がまったくないってことはないはずだけど、先に宿をとってなかったのは危なっかしいかもしれない。もしどこも満室だったら厄介だぞ。
「それだったら、何も問題ないわ」
トトト先輩が酔った赤い顔で言った。
「この町にはワタシの住んでる社員寮があるから、そこに泊めるわ」
女性社員の寮に泊まるってどうなのかと思ったけど、セルリアもいるし、別にいいのかな。
次回、先輩の家にお泊りです!




