33 盗賊をつぶす
先輩の目つきが鋭くなる。
「なにか、来るわ。一般人とは違う空気を感じる!」
「野生動物でも来るってことなんじゃないですか?」
「もっとヤバい奴よ。ワタシ、ヤンチャしてたからそういうのはよくわかるの。だてに喧嘩上等って刺繍してなかったわよ」
「もしかして不良の方が来るんですの? わあ、不良の方と話すの初めてなんで、ときめきますわ!」
セルリアがよくわからないところで感激していた。
けど、先輩の動物的本能というか、動物的勘は正確だった。この場合、むしろはずれてくれたほうがよかったんだけど。
森から現れたのは、見るからに人相の悪い男の集団だった。
なかには、さっきの先輩の小さな肖像画みたいに髪を逆立てた奴もいる。
数は四人ぐらいかと思ったけど、いつのまにか後ろからも仲間がやってきた。これ、十人以上いるな……。
「ヒャッハー! いい現場に出くわせたぜー! 俺たちはここをシマにしてる盗賊だぜ!」
ということは不良よりヤバいな。
「ドラゴンスケルトン停めて、あっちでいいことしてたんだろ? 女のその格好見ればわかるぜ!」
なんか、誤解されている!?
「違うぞ! 二人とも全般的に露出度高いけど、とくにそういうことはしてないぞ!」
名誉のために一応抗議した。
「ふざけんな! そっちの女、サキュバスじゃねえか!」
「それは、そうだけど……とにかくとくに何もしてない!」
「まあ、そんなことはどうでもいいや」
集団の中でも一番ガタイのいい禿げ上がった男が一歩前に出てきた。
「せっかく上玉の女が二人もいるんだ。売り飛ばせばいい金になる。……そっちの男は月給がたったの銀貨八枚しかないブラック企業に売ってやる」
「月給が銀貨八枚って法律違反じゃない! 正社員待遇なら倍はもらってないとおかしいわよ!」
先輩、キレるところ、そこなんですか? その前に先輩も売り飛ばすとか言われてますよ……。
セルリアが俺の後ろに隠れた。
「あの人たち、いかにも粗野で怖いですわ……。あそこまで露骨に獣の目を向けられるとつらいですわ……」
「セルリア、俺が守るからな」
「ふざけんな! なんでサキュバスがエロいこと考えられてビビってんだよ!」
男の一人がが吠える。
「サキュバスを人格として尊重しない人間はお断りですわ! どう見てもものすごく乱暴に扱いそうですもの!」
俺としては乱暴じゃないからいいとかそんなこと言ってられないので、絶対にこいつらを排除するしかない。
「ご主人様、杖ですわ!」
また、セルリアが杖を出して、こっちに投げてくる。普段は魔界とおぼしき場所に置いてもらっているのだ。
けど、その投げられた杖を盗賊の一人がジャンプして奪い取る。
「俺たちは盗むことにかけてはプロ級なんだぜ!」
たしかに盗賊だもんな……。
「ご主人様、ここはわたくしの召喚魔法で蹴散らしますわ!」
セルリアの手に新しい杖が現れる。そうか、ゴーレムを倒した時にタコの触手みたいなのを召喚したよな。あれなら、ゴーレムも倒せたからこいつらなら簡単にやっつけられるけど――
「セルリア、ここは俺にやらせてくれ。今後もこの程度の危機ならあるかもしれないし」
俺も黒魔法でメシを食ってるんだ。盗賊ぐらい退治できないようじゃ話にならない。
「それとセルリアの召喚魔法は威力が強すぎる。きっと、この森が荒れる……」
ここはトトト先輩にとって大切な土地だ。そこが無茶苦茶になるのは避けたい。
ちなみに、トトト先輩はじっと突っ立ったままなので、何を考えているか不明。戦闘を前提にしてないからそういう連携プレーはない。ひとまず、俺とセルリアで敵を排除することを考える。
「ご主人様、でも杖がないんじゃ、黒魔法も限界が――」
「手ならある!」
俺はがりがりと足で地面に魔法陣を描いていく。
これが石畳の王都だったらできない戦法だった。舗装されてなくて助かった。
ここで使うとしたら、「肉体弱体化(軽度)」か「生命吸収(軽度)」あたりだな。弱体化のほうが魔法陣は楽か。
けど、途中で思わぬ障害物があった。
「線が根っこにぶつかって描けない!」
そう、魔法陣作成にはある程度の平坦な地面がいる。森のせいで、それだけの空間が作りづらいのだ。
「ヒャッハー! いつもいいことしてるせいで運が向いてきたぜ!」
リーダーとおぼしき男が叫ぶ。ウソつくなよ。どう考えても、人の役に立つようなことしてないだろ!
刃物を持った男たちが近づいてくる。
これは時間との勝負になるな……。なんとか、魔法陣が描けそうなところまで移動して描くしか……。
しかし、敵はザコっぽい発言を繰り返す割には、堅実だった。
「いいか! みんな、魔法陣は消せ! まず、あの男をつぶすぞ!」
地面に描いた魔法陣はその都度、がしがし消されていく。これはまずい。人海戦術をとられると、圧倒的に不利だ。
トトト先輩はいまだに逃げ回っているだけで攻撃に入らない。あれはドラゴンスケルトンを動かすことしかできない可能性もあるな……。
セルリアに手を貸してもらうのはギリギリまで待ちたかった。
俺の手でトラブルも解決していかないと、いつまで立っても成長できない。
成長することが目的なんじゃないけど、優秀な社員になって社長に恩返しがしたかった。
俺の人生が今、楽しいとしたら、それは社長のおかげだから。セルリアと出会えたのも、すべては社長に出会えたからだ。
まだ、俺は魔法陣を描こうと森を走る。
社長だったら、こういう時、どうするかな。あの人だったら、「この森で使えるものが何か考えてみましょう」なんて言うんだろうな。
この森で使えるもの。
いいひらめきが浮かんだ。
なんだ、すでに種はまけていたんだ。
俺はその場にじっと立ち尽くす。
「ヒャッハー! 諦めたな! まずはお前を捕まえて人質にしてから女も投降させるぜ!」
俺を拘束するため、ぞろぞろと盗賊が集まってくる。
思うつぼだ。
俺はにやりと笑った。
盗賊たちも異変に気づいたらしい。
そう、俺の背後には無数の蜂が群がっている。
さっき、森を通る時に蜂にかけた「精神支配(軽度)」はまだ効いている。
「蜂たち、やれ。とことん目の前の敵を刺せ」
命令を受けた蜂たちが一斉に盗賊に突っ込んでいった。
一気に形勢が逆転した。
「うあああああああ!」「助けてくれえええええ!」「逃げろっ!」
蜂の攻撃にさらされた盗賊は統制もとれずに、大混乱に陥った。




