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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アリエノール、王都に出店編

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302 補助金の説明

「それじゃ、フランツさんの特別区の説明は終わったみたいなので、ガンバレ補助金の話をしますね」

 社長が俺の出した紙に何か書き加えていく。

 銀貨二百枚という文字が追加された。


「端的に言うと、対象の店に選ばれると銀貨二百枚がもらえます」

「おおっ! 銀貨二百枚だと!」

 ネクログラント黒魔法社の給料がよいので、俺にはあまりインパクトがなかったが、個人商店からしたらその額がもらえるというのは大きい。


「社長、そういうのは趣旨の説明から入るものなんじゃない?」

 メアリが社員としては失礼なツッコミを入れた。でも、魔族として見れば問題ないのか。


「まあまあ、一番大事なのはコレですよ、コレ」

 社長は親指と人差し指で円を作った。お金のマークだ。社長にしてはけっこう即物的な反応だ。


「趣旨はそのまんまです。ベッドタウン特別区は商店の数が人口に対して少ないんで、生活が不便だという意見が前から上がっているんです。なので、出店してからベッドタウンで高い評価を得ているお店には補助金を出して応援しようということです」


「こんなものがあったのか! でも、私は申請書類を出す時にも担当者は何も言ってくれなかったぞ! 卑怯なことをしおって! 敵対する黒魔法使いか?」

 アリエノールは喜ぶというより、担当者に対して怒っていた。

 そこまでではないが、俺も少し得心がいかなかった。そういうのは役所が教えてほしいところだ。


「実は、これ、行政だとよくある話なんですよね」

 社長が苦笑して、まだ残っていたお酒をちょっと飲んだ。別に酔っぱらったりはしていない。


「お役所って商売をする場所じゃないでしょう。だからなのか、いい制度を作っても、ほとんど宣伝してくれないんです。そして、そういう制度は行使しないと効き目が出ない。つまり――」

 社長はそこでタメを作った。


「知っていなければ、利益も受けられないようになっているんです」


 得したかったら、制度を詳しく知っておけということか。

 でも、難易度、無茶苦茶高いな……。


「まっ、わざわざお金を払わなきゃいけない制度をバシバシ勧めてくる人はいないということです。どっちかというと、そういう場合、詐欺を疑いますし」

「ですね……。銀貨二百枚がタダで手に入るとかヤバい臭いしかしない……」


「王都のどこかには高品質の食料品を激安で売っているお店もあるかもしれません。でも、その情報をすべての人が知ってるわけではないですよね。こういうのは知ろうとしなきゃわからないんです。資料は手元にはないから、特別区の役所で聞いてくださいね」


「なるほど! 有益な情報、大変参考になった!」

 アリエノールは丁寧に社長に向かって頭を下げた。

 そのあたりの礼儀は飲食店をやってから成長した気がする。お客さん相手に横柄な態度はとれないだろうからな。


「いえいえ~。五世紀も生きていると、どうすれば生活の難易度が下がるかということもわかってくるんですよ」

「礼として、今日の飲み物代はサービスということに――」


「アリエノール、俺たちはちゃんと払うぞ! まけようとするな!」

 この店の経営がタイトな理由って、こいつがやたらと気前がいいせいなんじゃないか……。


「それじゃ、明日、役所で資料をもらってくるのだ。朝九時すぐに行けば、戻ってきて仕込みにも間に合うしな」

「そっか……。役所の開庁時間って一人で店をやってると、シビアだな……」

 俺も役所に行こうと思ったら、有休でも使わないと業務時間中には行けない。社長が社長だから有休を使うことに何の問題もないけど。


「また、補助金が降りたら、教えてくれよ。もう遅くなってきたし、お勘定を頼む」

 そう言って俺は自分の家族分の金を払った。人数も多いから一括で払わないと迷惑になる。


 家に戻ったらグダマル博士がナイトメアと一緒にソファで寝ていた。

「ナイトメアはいいけど、博士はお風呂に入ってから寝てね」

 メアリが博士を叩き起こした。なかば、ナイトメアと仲良くなってることへの嫉妬だな……。


「別にこれぐらいはいいだろう! 君たちはおいしいごはんを食べてきたんだし!」

「博士、放っておいたら面倒がって何日もお風呂に入らない時がありそうだからね。そこは甘やかさないよ。一緒に住むなら、清潔にしてね」


 そこは俺もメアリに加勢した。

 多人数で住むからこそ、そのへんのマナーは守ってほしい。


「ふん! いつか、新進気鋭研究者研究費を申請して獲得して独立してやるからなっ!」

 博士はそんなことを言っていたけど、

「その場合、ナイトメアと住めなくなりますよ」

 と言ったら、おとなしくなってしまった。


 それにしても、いろんな分野に補助金ってあるものなんだな。

 補助金について少し詳しくなった一夜だった。

 でも、俺にはあまり関係ないことだな。会社に勤めてる身だし。


 そんなことはなかった。



 約一週間経った日曜の夜。


「フランツ、助けてくれ……。まさかこんな八方ふさがりになるとはっ!」

 アリエノールが半泣きになりながら俺たちの家にやってきた。


 カラスのリムリクも「ムズカシー、ムズカシー」とばたばた飛び回っている。

「なんだ、なんだ? 本当に黒魔法使いに襲撃でもされたか?」

 いくらなんでもそんなことはないと思うけど、それなりに大きなことが起きはしたようだ。


「違う、もっと恐ろしいものだ。黒魔法をどれだけ極めても、これに勝てる気がせん……」

「っていうことは、悪質クレーマーでも店に来たとか?」

 接客業をやってる以上、その手のトラブルは十分に起こりうる。逆に言えば、あと、思いつくのはそれぐらいだ。


「いいや、そういうのとも違う。変な客が来たことはあるが、私と言い合いになっているうちに、話が通じないなどと言って出ていってしまう。黒魔法の恐ろしさにひれ伏したのだろうな」

「ダマッタラマケー、イイカエス、イイカエスー」とリムリクが言った。

 あっ……。アリエノールはクレームで黙る奴じゃないもんな……。


「黒魔法使いを舐めると、地獄を見ることになるぞ、臓物がねじれる想いでも想像しながら眠りにつくがよいなどと言っていたら、だいたいうせていったわ」

 クレーマーも容赦なくケンカを買う奴は想定外だったということか。たしかに気が弱い奴よりはクレーマーに強いのかもしれない。


明日11日はコミカライズ3巻発売日です! 特典情報が発表されたので、活動報告のほうで触れております!

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