29 サキュバス的なプライド
背後からトトト先輩に密着されながら、運転方法を教わること、三十分ほどでやっとドラゴンスケルトンも安定して動かせるようになってきた。
今の速度は時速八十キーロぐらいかな。これぐらいならそんなに怖くない。
もちろん集落の中なんか突き進んだら悲惨なことになるけど、原野を走る分にはとくに問題はない。
王国はぽつぽつ都市が点在している周囲は、ほとんど何もない荒れ地が続いてる所が多い。もちろん、街道に関しては整備されたりもしてるけど、あくまでも街道は線だからその外側は大半が原野だ。
でなきゃ、ドラゴンスケルトンによる輸送業なんて成立しないからね。
けっこう誰でも思いつきそうな職業だけど、多分ドラゴンスケルトンを走らせられる黒魔法の使い手が限られているんだろう。
俺のほうは運転は慣れてきたけど、慣れたら慣れたでほかの問題が出てきた。
「あの、先輩……あんまり胸押しつけないでもらえますか……。運転に余裕ができてきたせいで、かえって気になりだしたというか……」
「でも、密着したほうが指示は出しやすいんだけど。まっ、いっか。あなた、習得が確実に早いし」
やっとトトト先輩は密着を解いてくれた。
この先輩、俺が男ってことに無頓着すぎるんじゃないだろうか。間違いが起きたらどうするつもりだ。
いや、自分から間違いを起こすような気持ちはないけど、勢いで変なことになるケースだってないとは限らないし……。
あと、これはダークエルフの特徴なのかもしれないけど、エルフよりは露出度高めの格好の人が多い気がする。下着プラスアルファぐらいでいいやってことなんだと思う。
今の先輩も九十代とは思えないプロポーションだ。二の腕すら肉がついてないし、足もエルフらしく、締まっている。普通の人間の九十代だと、そもそも死んでるけど。
でも、次の問題はすぐに来た。
「これ、ものすごく冷えますね……」
そう、ドラゴンスケルトンはもちろん骨だ。つまり、隙間風は入り放題なのだ。むしろ、自分で高速で移動することで風を作っているとすら言える。
「そうよ。だから厚着してきてって言ったじゃない」
ああ、たしかに言われたはずだ。寒冷な土地に行くわけでもないと思ってたけど、こういうことか……。
「そう言う先輩はかなり薄着ですね。それ、下着の上から何か羽織ってるだけですよね……」
「ワタシは慣れてるけど、あなたはまだきついと思うわ。キャリアが違いすぎる。ふふん」
キャリアはあまり関係ないと思うけど、俺の横でトトト先輩が得意げな顔してるので、まあ、黙っておくか。ドヤ顔の先輩、かわいいし。
それにしても、社長が女性だからというのもあるかもしれないけど、この会社、女子率高いな。しかも、みんな容姿がハイスペックだ。いい会社に就職できた。
社員一同集まって就職説明会を開いたら、きっと魔法学校の男子は応募しただろうに。でも、それだと女子と飲み会開くことばかり考えてる層が来ちゃうから駄目か。
さて、俺は運転に意識も傾けないといけなかったので、ある意味寒さもそこまで気にせずにやれてたんだけど、その影響をモロに受ける人間もいた。
「うぅ……寒いですわ……」
露出の多い格好のセルリアがかなりつらそうにしている!
「セルリア、何か着たほうがいい! それは冷えるのも当然だ!」
「そうよ。そんな裸みたいな姿してたら、凍えるわよ」
いえ、トトト先輩もまあまあ露出度高いですけどね。
「後ろに毛布みたいなのも置いてるわ。移動中、仮眠とることもあるから、そういうのは入れてるの。それでもかぶって、もこもこになってなさいよ」
たしかにそれは有効だと思う。
「お、お気持ちだけいただいておきますわ……うぅ、寒い……」
なぜかセルリアは断った。
「遠慮しなくていいわよ。別にきれいにしてるし。それとも、あなた、潔癖症だったりする?」
「そうそう、セルリア、使わせてもらえって。まだまだ先は長いし」
「いいえ! こればっかりは譲れませんわ!」
今日のセルリアはやけに強情だな……。
「ちなみに理由とかってあるのか?」
「露出度の低いサキュバスだなんて、あってはなりませんからっ! まだまだ未熟とはいえ、わたくしも一人のサキュバスなんですわ!」
セルリアの熱い主張が響き渡った。
「な、なるほどね……。サキュバスらしいわね……」
トトト先輩も理解したという顔をしていた。ちなみに、俺もちらちら後ろを振り返って見てるけど、あまりわき見運転はよくないので、大半前を向いている。
「サキュバスたるもの、いつでも男性を誘うような姿であるべきなのですわ。毛布などかぶってしまいましたら、体のラインもまったく外からわからなくなりますわ」
「意味はわかるけど、ここにはあなたの主人しか男いないし、妥協できないの?」
「これはポリシーの問題ですわ」
ううむ、いくらポリシーとはいえ、セルリアが風邪をひくのは困る。
速度をゆるめるか? だけど、使い魔の都合で輸送が大幅に遅れるのもダメだよな。
ここは俺の出番だな。
「先輩、運転を一時的に変わってもらえませんか?」
「いいけど。何かするつもりね」
俺はすぐに、体を自分の腕で包むようにして寒さに耐えてるセルリアのほうを向いた。
「セルリア」
「わたくしのことはお気になさらないでください。これだけつらいのは最初のうちだけで、繰り返していくうちにどうにかなるはずですから……くしゅん!」
セルリアはくしゃみもかわいい。でも、風邪はひいてほしくない。
俺はセルリアの肩に手を置いた。
「毛布でもこもこになってるセルリアも絶対にかわいいよ。だから、その姿、俺に見せてくれないかな」
「え……? ほ、本当ですの?」
「だって、セルリア自身がかわいいんだから、どんな格好でもかわいいよ。それと厚着してる子はそれはそれでよさがあるんだ。冬に厚着してる子に男は惹かれるし、その……厚着の子が服を脱いでいくのも、ぐっとくるものがあるから……」
後半は経験がないので、なかば妄想だけど、そんなにずれてないと思いたい。
セルリア目にハートマークが浮かんだように見えた。
「承知いたしましたわ。ご主人様のためになら、わたくし、裸も諦めて、何枚でも服を着ますわ! 毛布をかぶる覚悟だってありますわ!」
明らかに着ることに羞恥心を感じている!
こうして、セルリアは毛布を体にぐるぐ巻きつけて転がることになった。
「これはこれで面白いですわ、ご主人様」
「うん。よかったよ。でも、酔わないようには気をつけてね。セルリアはセルリアだけの体じゃなくて、俺の体でもあるんだから」
「は、はい……」
セルリアが顔を赤らめる。ちょっと、気障だったかもしれないけど、聞いてるのは先輩だけだからいいかな……。
「ほんとにあなたたちラブラブね~。まるでワタシと天翔号みたいだわ」
使い魔の危機も乗り越えて、ドラゴンスケルトンは順調に海辺の都市、スーマンを目指す。




