28 ドラゴンスケルトン爆走!
「あの、一時間八十キーロもドラゴンスケルトンは走るんですよね? そんなの操縦間違って、村にでも入ったら村を踏みつぶすじゃないですか……。動かすのなんて怖くてできませんよ……」
一歩間違えたら村が消滅してしまう。
「そんな失敗をしないようにワタシが横にいてあげるのよ。あなたは堂々とドラゴンスケルトンを運転したらいいの」
トトト先輩は俺が辞退するのを認める気はないようだ。この人は態度からしてもベテランの運転手? なんだろうな。
「そうですよ、トトトさんは我が社で一番ドラゴンスケルトンの運転が得意なんです。二十年以上やってもらってますがいまだに無事故ですからね」
「社長もああ言ってるでしょ。余裕よ、余裕♪ 寝ながらだって運転できるわ」
「居眠り運転は本気で危ないのでやめてくださいね!」
まあ、これも俺が成長するための仕事なんだろう。
法的にドラゴンスケルトンに乗ってはいけないなんて決まりもないし、仕事である以上はやるしかない。
「わかりました……。なんとか慣れます……」
「じゃあ、明日の朝九時の出発ね。最初ってこともあるし、最初は時速もそこまで出さなくていいから教習のつもりでいて。それと、できるだけ厚着で来てね。こっちも多少は用意してるけど」
トトト先輩の指示を受けて、俺とセルリアはともにうなずいた。でも、向かうのは別に寒い地域じゃないはずだけどな。
その日はセルリアと二人、お風呂で不安を打ち明けあった。
「上手く乗れるかな……」
「わたくしも未経験なのでなんとも……。もし、岩肌にぶつかりそうになったりしたら、ご主人様をつかんで、空に脱出しますから!」
「死者が出なくてもドラゴンスケルトンが壊れたら、すごい損害になりそうだし、慎重にやるね……」
●
翌日、俺は出発時間より三十分早く出社した。
ドラゴンスケルトンの前に行くと、トトト先輩が立っていた。下着姿で。
「えっ! なんで、そんな格好なんですか?」
セルリアで見慣れてるとはいえ、やっぱり異様だ……。
「ああ、これはドラゴンスケルトンを洗ってるの。愛車だからね。洗ってる途中にぬれちゃうから」
たしかに水をふくんだタオルをトトト先輩は持っていた。
それでドラゴンスケルトンの骨を丁寧に拭いていく。
「グググ、グググ、ググ……」
うなり声みたいなのが響く。
「あっ、喜んでるみたいね。ちなみにこの子の名前は天翔号って言うのよ。もう、五十年以上の付き合いね」
その言葉を聞いて、ふとひっかかった。
「じゃあ、入社前からこのドラゴンスケルトンと走ってたんですね」
「そうよ。この子はワタシの黒歴史であり、白歴史でもあるの」
トトト先輩はなぜか遠い目をした。
「トトト先輩、俺も拭き掃除、手伝います」
「ありがと。掃除じゃなくて、行水って呼んであげて。この子だって生きてるんだから」
ドラゴンスケルトンって生きてる……のか……? 骨だぞ……。
ぽんぽんと俺の肩を叩いて、セルリアが耳打ちした。
「スケルトン系のモンスターを利用してらっしゃる方は死んでると言うと怒る場合もありますわ。ツッコミを入れたい気持ちはわかりますけれど、ここは流してくださいませ」
「あ、そうなんだ……。助かった……」
生物学的な意味だけにこだわってはいけないということだろう。
行水が終わると、いよいよ運転をすることになった。
骨でしかないように見えるけど、よく観察すると、ドラゴンスケルトンの内部はいくつもの部屋に別れていたり、階段みたいなのが設置されていたりして、機能的な骨組みだった。
骨の階段をのぼっていくと、椅子もあるケージみたいな小部屋に上がれた。ドラゴンが生きていたら脳が入ってあるあたりになる。足下の骨はかなり細かく通っているので、落下するという危険もない。
そこに船の舵みたいなものがついている。その舵の下に魔法陣が描いている絨毯が置いてある。
「これを握って運転するの。黒魔法についての素養がなければ反応もしないわ。あなたがこの仕事を任されたということはちゃんと扱えると社長は判断したということだわ」
トトト先輩は掃除中の下着の上からコートみたいなのをかぶってるけど、逆に言うと、それしか着てない。もうちょっと着てほしい。
なるほど……。ケルケル社長を裏切るわけにはいかないな。
「動かす時の詠唱は今から教えるわ。一回しか言わないから、よ~く聞きなさいよ」
「げっ、一回ですか……」
「それぐらい気合い入れて覚えろってことよ」
その詠唱はなかなか長かったので、気を抜くと忘れてしまいそうだった。
「――ハナヴェ・オーコォフォンダ……これで合ってますかね?」
「グウウウウウウ」
またうなり声が聞こえる。
「お見事ね! ちゃんと天翔号が反応したわ! さあ、走るわよ! 舵を持って!」
俺は舵に力を込める。
ちゃんと動いてくれよ……。
すると舵が発光して、ドラゴンスケルトンが動き出した。
「よーし、今のところ順調よ。最初は時速三十キーロぐらいしか出せないけど、慣れてくれば今日中に七十キーロぐらいまで出せるようになるわ。そこから先は天翔号との相性と黒魔法の実力によるけど――あれ?」
走り出した天翔号はどんどん加速して、生きた心地がしない速度になった。
郊外でろくに建物もないけど、農地を一瞬のうちにビュンビュン通過していく。
「ねえ、どうなってるの! これ、時速百八十キーロは出てるわよ!」
「俺もはじめてやるのでわかりません!」
「グググググググ、グウウウウウウウウウウウ!!!!!!!」
ものすごく大きなうなり声が響く。
「天翔号が喜んでる! もしかして、あなた、相性がよすぎるうえに黒魔法の才能がありすぎるんだわ!」
「それは光栄ですけど、この速度、ヤバくないですか?」
「そうね、岩壁にでも当たったら即死ね……」
血の気が引いた。
「トトト先輩、どうにかして速度ゆるめてください!」
「そんなこと言われても、ワタシも最初から速度出すぎるケースってはじめてで指導方法がわからないわ! 普通は力を抜けば勝手に速度は落ちるから……」
そんな! 無責任な!
「速度落ちろ、落ちてくれ……」
けど、天翔号は矢のように平野を駆け抜ける。
「もう! なんでこんなに才能あるのよ! これじゃ、ドラゴンスケルトンの走り屋じゃない! もっと才能落としてよ!」
「そんな要求されても無理ですって……。そうだ、先輩が代わってくださいよ!」
それならなんの問題もなく、速度を落とせるはずだ。
けど、先輩は首を横に振った。
「いいえ、せっかくの機会だし、あなたが操縦方法を理解して」
指導が厳しすぎるとツッコミ入れる前にトトト先輩が俺の後ろにぴたっとくっついた。
そして、手は俺の腕をつかむ。
「いい? 気持ちを落ち着けて。運転手はパニックになるのが一番ダメだから。深呼吸して、ワタシのやり方に合わせて」
「は、はい……」
とはいえ、落ち着けと言われても、この姿勢、先輩の胸が強烈に背中に当たってるんだけどな……。しかも、これ、下着からの感触だし……。
「あっ、胸が当たってますわね。サキュバス誘惑四十九計の一つですわ」
後ろでセルリアが変な解説をした。今はそういう話はやめてくれ!
「雑念はどっかにやって。おっぱいぐらい、あとでいくらでも触らせてあげるから、まずは運転に集中して」
今、さらっとトトト先輩が爆弾発言をした気がするけど、たしかに運転を無視していい状態じゃなかった。
「わかりました」
少しずつ、速度が安定して落ちてきた。
「よし、いい感じ」
先輩の声がやわらかくなった。
「あなた、才能のかたまりね。でも、今後も気をつけないと才能のせいで事故を起こすからね。注意するのよ。誰も対処できない『名状しがたき悪夢の祖』とか召喚したりしないでね」
「わかりました……」
黒魔法で才能ありすぎるのも考えものだな……。




