276 猫と博士のいる新生活
今年も「若者の黒魔法離れ」をよろしくお願いいたします!
グダマル博士が俺たちの家に住むことになって、とある変化が起こった。
「おいおい、ナイトメア。わたしは寝転びながら本を読んでいるところなんだ。邪魔をしないでくれ」
今も博士の読書中にナイトメアが顔と本の間に入ってきた。
おそらく、ナイトメアは遊んでほしいんだろう。
ある意味、本が読めないようにするイヤガラセなのかもしれないが、ナイトメアが「にゃうー」と鳴き声をあげているのを見ると、イヤガラセとはとても思えなくなる。
かわいいって大事な要素だな。同じことでもかわいいから許されることって、とてつもなく多いんだろうな……。
「ったく、何が『寝転びながら読んでる』だよ。椅子に座って読んでたら、最初からナイトメアも邪魔しに来ないよ。つまり、博士のほうがかまってほしいってことでしょ」
メアリがあきれた顔をしていた。
ナイトメアをとられて、ちょっとご機嫌斜めなようだ。
「そんなことはないよ。このナイトメアはテーブルにも乗ってきて、同じようなことをしてきてたぞ」
「えっ! そうなの! むむむ……。まあ、いいよ。わらわはナイトメアじゃなくてフランツに相手してもらうから」
メアリはそんなことを言って、椅子に座ってお菓子を食べてる俺のほうに来た。
「フランツ、ちょっと、簡易抱き枕になってよ」
「俺、ナイトメアの代役かよ……。別にいいけど……」
「猫の代役ができるなんて光栄でしょ」
この発言、素だな。
まるで「そうだよ。光栄だと思うがよいにゃ」とでも言うように、ナイトメアがグダマル博士に撫でられながら、「にゃー」と鳴いた。
そう、今までメアリに一番なついていたナイトメアが、なんとグダマル博士のほうに向かうようになったのだ。
ナイトメアという名前は言うまでもなく、メアリにちなむものだ。
そのナイトメアがいわば新参者のグダマル博士のほうに行くようになって、メアリが面白いはずがない。
メアリはどっちかというと気難しいほうだし、機嫌が悪くなる時もあるけど、これはメアリじゃなくても腹が立つだろう。成果を取られたも同然なのだ。
しかも、その原因を作っている張本人のナイトメアは、もちろん猫だからかわいいままなのだ。このナイトメアを恨んだり憎んだりすることは誰にもできない。
かくして、メアリの不満だけがたまるということになっている。
「まっ、猫は気まぐれなものだしさ、そのうちメアリに戻ってくるさ」
俺は自分にひっついてきたメアリに言った。
一応、頭を撫でる。ただ、猫の代役ということだから、撫で方も少し雑にさせてもらう。
「そんな慰めを言われてもうれしくないよ。ナイトメアが来ないんだからさ。あっ、でも、やっぱり慰めて。フランツでもいないよりはいいし……」
ナイトメアよりわがままなこと言ってるな……。
「ほら……フランツ、もっとなでなでして」
ちょっとメアリは甘えた声を出した。
甘えたというより、堂々と言うのが恥ずかしくて、照れくさくて結果としてこんな声になったようだ。その声のほうが、かわいさとしてはアップしてるんだが。
「こうも密着されると、撫でづらいんだけどな」
今度はメアリの背中を撫でた。まんざらでもない様子だ。
「ったく、この家はふしだらだな。まだ、みんなが起きている時間から抱き合っているだなんて」
今度はグダマル博士がむっとしていた。
この人も完全に気難しいタイプの研究者なので、俺としては板ばさみだ。
しかし、これ、俺のほうは抱きついてないから、抱き合ってはないぞ。まさに抱き枕役だ。
「フランツはわらわの抱き枕だからいいんだよ。だって、わらわを呼び出した責任をとってもらわないといけないからね」
それを言われると、俺もつらいところがある。
まさか、メアリの召喚が成功するだなんて、あの時の俺は思ってなかったからな……。
そこに風呂上がりでほかほかのセルリアがやってきた。
ちゃんとバスローブを着ているから健全だ。むしろ、普段より肌面積が少ない。
「いいお湯でしたわ。次は誰がお入りになります?」
「あっ、セルリア、出てきたんだな。せっかくだし、お茶をいれるよ。お風呂上がりは水分とったほうがいいし」
それに俺もお菓子を食べてたから、ちょうどお茶がほしかったというのもある。
使い魔だからといって、あまりセルリアに何でもやらせないようにしたい。
とくに家族の人数も増えてきて、ちょっとしたことに見えることでも作業量が増えてきてるし。
しかし、そこですぐ近くから反論が来た。
「フランツ、まだ抱き枕中でしょ。抱き枕のほうから出ていくなんてマナー違反だよ」
メアリにはメアリの言い分があるか。
こう、はっきり反論されると拒否しづらい……。
「わたくしがやりますわ。あなたはそのままでいてください」
「ありがとう、セルリア」
結局、セルリアにやらせることになってしまった。この抱きつかれてる姿勢を維持するのもけっこう大変と言えば大変ではあるのだが、傍から見ればいちゃついてるようにしか感じれないだろう。
「お茶か。わたしの分もお願いするよ。お茶は頭をすっきりさせて、ひらめきを与える効果があるんだ」
これが学問的な根拠があるのかどうかわからないが、グダマル博士が言いたいことはわかる。リラックスはできるもんな。
「はい、もちろん。人数分ご用意いたしますわ」
「人数分と言ってもナイトメアの分はいらないからね。ナイトメアは猫舌なんだ」
これは博士流の冗談なのだろう。
ちなみにナイトメアが博士を離れて、メアリのほうにやってきたので、俺も抱き枕から解放されることになった。
やっぱり本命はナイトメアで、俺は遊びだったってことか。
「おっ、ナイトメア、やっぱりわらわのほうが好きなんだね。うん、ナイトメアはよくわかってる、わかってる」
「なんとも身勝手な解釈だな。学問上はとうてい認められない。ちゃんと実験をして、統計をとらないと」
グダマル博士、ガチでそういうことをしそうだから、ちょっと怖いんだよな……。
「二人とも、猫の奪い合いはしないでくださいよ。ナイトメアのストレスになるようなことはダメ」
そしたら、両方から「ナイトメアのストレスになることなんてするわけないでしょ」「猫に逆らうなど論理的にありえない」と苦情が来た。
この家では猫が一番偉い。




