27 ダークエルフの先輩
俺はめまいがしそうになった。
ドラゴンなんて、そんなの当然ながら人生で一度たりとも乗ったことないぞ!
「ていうか、ドラゴンって黒魔法と関係ないイメージがあるんですけど……。ドラゴンに関する魔法って赤魔法が担当する分野だったような……」
赤魔法は攻撃関係の魔法に特化しているが、暴力的な破壊力を誇るドラゴンの使役や管理に関する魔法も扱っている。
もちろん、赤魔法の中でも一部の魔法使いしか使用できないだろうけど。
「さすがフランツさんは優等生だっただけあって、よくご存じですね。ドラゴンに関する魔法は『原則』は赤魔法です」
「つまり、例外があるということですか……」
精神支配に関する魔法も黒魔法の中になくもないから、そういうのを使うんだろうか。
だけど、ドラゴンを勝手に操ったら多分犯罪だし(悪用すると危険すぎる)、ドラゴンはデカいのですぐにバレそうだ。
「ドラゴンに乗るのは怖いですわね……」
セルリアもびくついてるぐらいだから、魔界でも恐ろしい存在なんだな。
「もちろん、怖くないドラゴンですよ。そこはご安心ください。風通しも抜群です」
なんだ、風遠しって。
「いえ、いくら社長が請け合ってもそこは納得できませんよ。怖くないドラゴンなんていないはずです。炎でも噴かれたら、それだけでこっちは昇天ですよ……」
もちろん、俺にドラゴンを飼いならす技術なんてない。
そんなの魔法学校の卒業生の誰一人として持ってない。
モンスターテイマーはまったく別の職業だ。王都の郊外にモンスターテイマーの学校もあったはずだけど、それでもドラゴンとなると困った顔をするんじゃないか。
「わかりました。まあ、本物を見ていただいたほうが話が早いでしょう。担当者であるこの会社の社員がもうすぐここに来ますので、そっちに任せましょうか」
ドラゴン担当者の社員!? そんなとんでもない人までいるのか……。少人数なのに、人材が豊富すぎるぞ……。
「時間的にはそろそろだと思います。あっ、来ましたね」
ケルケル社長の机に置いてあった水晶玉が青く発光した。これで連絡を取っているらしい。
俺は窓からドラゴンが飛んでるか見てみたが、空を覆い隠すようなものは何も飛んでいなかった。ドラゴン自体はここには来ていないんだろうか。
セルリアも「ドラゴンいませんわねえ」とつぶやいている。やっぱり、いないよね。
そんな感じで数分ぼうっとしながら待っていると、とたとたと足音が聞こえてきた。そして、ドアが勢いよく開いた。
「社長、お久しぶり! 荷物運んできたわ!」
入ってきたのは女子にしてはけっこう背の高い子だった。見た目年齢は俺ぐらいだけど、絶対に本当の歳はもっといってるな。
というのも、その子がダークエルフだったからだ。エルフ族は長命だからな。
よく日に焼けた子供みたいな褐色の肌をしている一方で、髪はきれいな白銀だった。髪はいわゆるツインテールだ。
「お疲れ様です、トトトさん。やっぱり速いですね」
社長が笑顔でねぎらう。エルフだからか、名前も独特だな。人間だとまずいない名前だ。
「今回は遠方でしかとれない野菜を運んできたからね。鮮度が命なんでとくに飛ばしてたの! ワタシにかかればこれぐらい楽勝だけどね!」
腰に手を当てて、トトト先輩はドヤ顔している。ファーフィスターニャ先輩と比べると圧倒的に感情表現がわかりやすいな。
そのトトト先輩の顔がすぐに俺とセルリアのほうに向いた。
「あっ、そっか、新入社員の子ね」
そうだ、あいさつをしないと。
「新入社員はサキュバスなのね。お疲れ様、ワタシ、ダークエルフのトトト」
セルリアにトトト先輩があいさつしたので、俺はずっこけそうになった。
「いえ、わたくしは使い魔のセルリアですわ……」
「俺が新入社員のフランツです……」
トトト先輩はかなりびっくりしてるようだった。
「へー、若手を採用するって聞いてたけど、本当だったのね。トトト、先月、九十三歳になったわ」
やっぱり無茶苦茶、年上だった。
「じゃあ、よろしくね。ばしばし鍛えていくからよろしく」
さっと手を出して、俺の手を握ってきた。もしや、体育会系の人だろうか? だったら話合わなそうだなあ。
というか、ドラゴンの担当者なんだから絶対体育会か。あんな生物、おどおどしながら従わせることなんてできんだろうし。
いやいや、最初から苦手意識を持ったらどんな人とも仲良くできないぞ。もっとオープンマインドで接しないと!
まずは会話することで苦手意識を克服するか。
「そうだ、トトト先輩、ドラゴンはどこにいるんですか?」
「ドラゴン? ああ、本社の前に停めてるわよ」
停めてる?
「空にはドラゴンいませんよね」
あらためて窓から空を見る。
「なんで、空にいるのよ。地上を見てみなさいよ」
そう言われて窓に近づいて本社の前を見た。
そこには骨だけでできたドラゴンが座っていた。これが博物館とかなら標本だと勘違いしそうなものだけど、ここにいるということは――
「ドラゴンスケルトンかっ!!!」
それなら黒魔法でも使用できるかもしれない。スケルトンを使役するような魔法もあったはずだし。
しかも、ドラゴンスケルトンをよく見ると、骨の中には格子状の部屋がいくつもあって、そこに荷物らしき箱がいくつも入ってるのがわかった。
「もしや、ドラゴンスケルトンの中に荷物を満載して動いてたんですか? というか、空飛べなそうだから走ってた……?」
「そうよ、あの子は空は飛べないこともないけど、たくさんの荷物を入れると、重量的に飛べないから、荒野では時速八十キーロ出して爆走してるわ」
「とんでもない使い方してた! そして、風通しがいい意味わかった!」
肉がないからな! 風が吹けば吹き抜けるよな!
「これが我が社のお仕事の一つ、ドラゴンスケルトン運輸ですよ」
にこにこ顔の社長が教えてくれた。
「大量の荷物をドラゴンスケルトンに入れて、それを走らせるんです。人の手だととても運べないような大荷物も簡単に移動させることができるので多くの企業と提携していますよ」
「たしかに、ドラゴンの骸骨だから、相当な荷物が入りそうですね……」
でも、他人事のように言っている場合じゃなかった。
「今回の出張では、ドラゴンスケルトンを運転して、スーマンという海辺の都市まで荷物を運んでいただきます」
「え、運転……?」
「はい、フランツさんはすでに『死者との対話』という黒魔法を覚えてらっしゃるはずです。それを使って、ドラゴンスケルトンを操縦してください」
無茶ぶりの仕事来た!
新キャラのダークエルフが出てきました。今後ともよろしくお願いします!




