18 社長の決意
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俺たちは小屋のある沼の反対側に戻った。その途中、巨大フクロウに乗ったファーフィスターニャ先輩に仕事の説明を受けた。
「私たちの仕事は『沼の管理』。その中には自殺の名所であるここで自殺者が出ないように止めるという役割もある」
「なるほど……。なかなか重い仕事ですね……」
「最終的には沼のイメージをよくして、たくさんの人が訪れる観光地化を目指してる。社長はそう言ってた」
「ケルケル社長、いろいろ考えてるんですね」
「かつて社長はこう語ってた。黒魔法というと生贄という血なまぐさいイメージがある。なら、いっそ黒魔法の会社で自殺者を止めることをすれば、偏見も減るんじゃないかって」
社長が人格者すぎる。
やっぱり社長がいい人だと、会社もホワイトになるんだな。
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濡れネズミになった俺は小屋で着替えの黒魔法使いのローブに着替えた。
その小屋の一室で、女の子の事情を聴くことになった。
女の子の名前はクルーニャ。男に金を持ち逃げされて、ショックで何も手につかなくなったようだ。
俺もその相談の場に立ち会うことになった。こんな経験ないから、ぶっつけ本番だ。
「あのさ、その男のこと、今はもう愛してないんだよね?」
「もちろんです。わたしが黒魔法使いなら呪い殺してます!」
「じゃあ、今死んだらそんな男のために死んだことになるよ。そいつを見返すためにも生きてやろうよ。君が幸せに生きれば生きるほど、仕返しになるって」
クルーニャの表情が少しやわらいだ。生きるっていう気力が湧いてきた証拠だ。
「そうですね。新しい仕事を見つけて、頑張るわ」
「もしかして、仕事も辞めちゃったの?」
「彼に裏切られたことがわかって、しばらく動けなくて、無断欠勤が続いてクビになっちゃった。家賃を払うのも、きついかな」
生活基盤がなくなってるとなると大変だ。だからこそ、経済的なタメもなくなって、自殺未遂ってことになったのかもしれない。
できれば、職が見つかるまではこの子を経過観察したほうがいいんだけどな。また、突発的に死にたくなるかもしれないし。
ファーフィスターニャ先輩は、うんうんとうなずきながら聞いている。じっくり聞きに徹するタイプだな。そういう役回りも重要だけど、ここは提案もしたいところだ。
どうせ、絶対の答えなんてこんなものにないんだ。ダメ元でやってみるか。
「あの、もし時間あったら、ちょっと俺と一緒に来てもらえませんか?」
「はい、時間はたっぷりあるけど、どこに行くの?」
「会社に行きます」
俺はクルーニャを連れて、本社に戻った。
ひとまず、セルリアにクルーニャを任せて、俺はケルケル社長の部屋に入った。
「社長、今日の出来事を報告いたします」
クルーニャを助けたことを話すと、手をぽんと合わせて、「フランツさん、偉いです!」と早速お褒めの言葉をたまわった。
尻尾がぶんぶん左右に動いているから、お世辞じゃなくてガチの称賛と考えていいな。
「それで……本当に身勝手なことを言うんですが……いいですか? 実現可能性は一回棚に上げてます」
「どうぞ、どうぞ。新入社員のフランツさんが自分の頭で考えたことなんですから、喜んで聞きますよ!」
ここは高圧的な社長じゃなくて、よかった。
「あの、この会社って部屋が多いですよね。住み込みのアルバイトで働いてもらうってできないでしょうか?」
これ、新入社員にしては出しゃばりすぎという自覚もあるので、社長の顔を見るの、ちょっと怖いな。
「魔法使いでもない人間に仕事がないってことであれば格安で部屋を貸すとかでもいいです。その……自殺を止めても、落ち着いて生きていける環境がないと、結局生きていきづらいと思うんです」
住む場所やお金は余裕を作ってくれる。
余裕というのはいろんな意味での余裕だ。経済的な余裕でもあるし、心理的な余裕でもある。そういう余裕がないと、まともに頭も働かない。頭が働かないと、再出発することもできない。
「出すぎた真似ということはわかってます。すべての自殺未遂の人にそこまでのケアが会社としてできないのもわかってます。でも、自分が助けた子を、今、放り出すのは無責任に思えてしまって……」
俺がしゃべっている間、社長はずっと俺の瞳を見ながら聞いていた。
「なかなか言いますね」
「ごめんなさい、鬱陶しい新入社員ですよね」
ケルケル社長は俺に近づくと、ぽんぽんと俺の肩を叩いた。
「あなたを採用して正解でした」
正直、ほっとした。そんなことは偉くなってから言えと言われたり、そうじゃなくても余計なこと持ち込むなよと鬱陶しそうな顔されるかもって危惧はあった。
「フランツさんは人の苦しみや痛みをわかろう、わかろうとしていますね。決して切り捨てたりしない」
「エゴかもしれないですけどね。すべての困ってる人を助けるのは無理ですし」
「痛みをわかろうとすること、その姿勢が私たち、黒魔術業界には必須なんですよ。それがない会社はいずれつぶれます。もう、絶対につぶれます」
自信たっぷりに社長は言った。
「なぜかというと、黒魔法には生贄という概念があります。これは痛みを伴いつつ魔法を使うということです。だからこそ、痛みに無頓着な黒魔法は暴走して破滅するんですよ」
社長の瞳はとてもまっすぐで、何かに憤っているようにも見えた。
「実は、私が最初に就職した時、人間の同僚がいたんです。ものすごく仕事ができましたが、やがて死にました」
「過労死ですか?」
「少し違います。彼は社内トップの実績を出すために、自分の命を生贄に捧げて、顧客の心を支配する黒魔法を唱えていたんです。だから、そのうち寿命が尽きたんですよ」
「自分で自分を生贄っ!?」
俺はちょっと寒気がした。まさしく、仕事の鬼だ……。
「それはあまりに本末転倒です。だから、自分でこの会社を立ち上げた時、最低でも社員の方とその家族が幸せと思えるようなものを作ると決めたんです。社員を不幸にする会社は、お客さんも幸せにしません。一時的に幸せにできても会社自体が長く続きません」
「そりゃ、不幸になる会社にずっといるなんて無理ですもんね」
社長はゆっくりとうなずいた。
「昔話が長くなりましたね。クルーニャさんのことは上手く取り計らいましょう」
「え……。ということは……」
「彼女にお仕事を提供できるかは調べてみないとわかりませんが、部屋が余っているのは確かですから、住んでもらうぐらいはできるかなと」
「社長、ありがとうございます!」
やっぱり、この社長は人格者だ!




