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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
ヴァンパイアに接客術を学ぼう編

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178 長く定着した理由

「その理由は――ネクログラント黒魔法社が売っているものが、本当に素晴らしいものだから、じゃないですか?」


 先輩は楽しげに小さくうなずく。方向性はずれてはいなかったようだ。


「抽象的すぎて、ずるい気もしますね。もっと詳しく聞かせてもらえますか?」


 俺はホワホワが帰ってくれと迷惑な客に言った時のことを思い出しながら話す。

「つまり、ネクログラント黒魔法社で取り扱ってる商品――ああ、この商品っていうのは薬とか壺とかいった形のある物だけじゃなくて、売り物になってるサービスすべてです――が、営業をする先輩にとっても心からすぐれていると思えるものだからということです」


 今度は先輩は深くうなずいた。せっかくだから俺はもう少し言葉を続ける。


「俺は営業をしたことはないから勘なんですけど、営業職でつらいのは、勧める自分がショボいとかつまらないとか思ってるものを売らないといけない時じゃないですかね? もちろん売るからには低レベルですよなんて言えないですけど、見方によっては人を騙してるような部分もあるような気がして」


「一年生の割にはよくわかってる! 合格!」

 ぎゅっと腕で先輩が俺を抱き寄せてきた。あれ、これ、やっぱり酔ってるのかな……。


「ちょっと! それはパワハラだよ。感心しないなあ」

「まあまあ、メアリさん。大目に見ましょう。ご主人様が先輩社員さんと険悪になるより、はるかにいいですわ」

 セルリアがメアリをなだめてくれて助かる。


 お酒臭いかと思ったけど、エンターヤ先輩からはむしろいい香りがした。なんというか、女の香りだ……。


「そうなんですよ。転職を繰り返してたどり着くような会社って、あまりいい商品を持ってないんです。品質に問題があったり、これからの時代に廃れそうなものだったり。だから、営業の人が無理だと思って、いなくなって、空きができて、私が入るわけですが……同じ問題を抱えますよね」

 営業の人だって人間だ。

 自分がよくないと思っているものを素晴らしいと言って売るのはストレスになる。


 それが一日ならいい。

 でも、明日も明後日も、一年も二年もそれが続けば、辞めたくなるに違いない。


「営業の技術は長くやってるうちに身につきました。言葉巧みに相手の気を引いて、たいして必要もないものを売りつける技術も手に入れました。ですが――そんなことが得意になっても、心は満たされませんよね」


 エンターヤ先輩は昔のことを反省するように、深いため息をついた。それは一種の懺悔のようにも感じられた。


「ゴミを宝と思わせて買わせてしまう社員は会社にとったらうれしいかもしれませんが、本人にとったら苦しいです。まともな倫理意識があればバカらしくなります」

「その点、ケルケル社長が考えたものは、どれも提案する価値があるものだったってことですね」

「フランツさんもこの会社に入って、気づいてるでしょう?」


 いいものをいいものだと言って売る。

 ただ、それだけのことで営業の人は救われるのだ。


 そこにホワホワとマコリベさんが並んでやってきた。

「エンターヤさん、領主様たち、先ほどはありがとうございました。それと、お店を褒めてくださってありがとうございました。励みになります」

「これからも、頑張るがうがう」


 このお店のクオリティが高いとエンターヤ先輩は太鼓判を押した。

 それがお店にとって一番大事なのだ。接客はもちろん重要だけど、それと比べれば小さな問題だ。


「これでも、居酒屋めぐりは繰り返してますからね。大船に乗ったつもりでいて……うっ……ちょっと多く飲みすぎたかも……」

 急にがくりと先輩の体が沈んだ。やっぱり飲みすぎだったか……。


「先輩、住所わかりますか? 帰りは運びますよ」

「この近くに借家があります……。十分もかかりません……」

 だったら、俺でも連れていけるな。店に残していけば、それこそ迷惑になってしまう。


「ご主人様、おひとりで大丈夫ですの?」

「ありがと、セルリア。今回は領主としてもお世話になったし、しっかり送り届けるよ」



 エンターヤ先輩の家はたしかにたいして遠くなかった。

 飲み屋街といっても、少し歩けば、雰囲気もかなり変わって、おしゃれな建物が並ぶ通りに出た。金がけっこうある層の借家やミニオフィスがある一帯だ。先輩の借家も一人暮らしにはかなり広くて、快適な物件だった。


「はい、着きましたよ。ベッドまで案内したほうがいいですか?」

「うん、そうしてくれますか……」


 ベッドのある部屋まで行くと、先輩はホップステップジャンプでベッドに飛び込んだ。

「ふ~、帰宅、帰宅~」


 あれ? あんまり酔ってない? 動きが軽やかすぎるような……。


「ごめんなさい。実は猫かぶってました」

 先輩は舌を出して、笑った。いや、猫かぶってたってどういう意図で――


 もしや、サキュバス的なことか……? 思いっきり、女性の部屋に一人で来てしまった。

「あの、フランツさん、お願いがあるんですけど」

 あっ、やっぱりそういうことか。先輩の顔も、やけに紅潮している。何やら恥ずかしいことを言い出すのは確実だ。


「その……俺はうれしいんですが……最低でも結婚はまだ考えてませんし、そのあたりをご理解いただいたうえで――」

「血を吸わせてほしいんですが、いいですかね……?」


 え? 血?


「ほら、長らく人間の血を吸ってなくて、フランツさんを見てたら、こう、ムラムラしてきちゃったんですよね……」

 ああ、この人、れっきとしたヴァンパイアだった……。

「人間の血っておいしいんですよ。そんなにたいした量じゃないですから。体調を崩したりなんてこともないですから。ね、ね?」


 先輩はベッドに腰かけて、頼み込んでくる。ううむ、断りづらい……。このあたりもわかってて、やってるのかな……。


「吸われたことによる症状とか何もないんですよね?」

「ないです、ないです。吸った相手を自由に操れるなんてチートな力はないですよ。そんなことができたら、世界は吸血鬼に支配されちゃいますよ」


 はぁ……。それぐらいなら、いいか。


「わかりました。吸ってください……」

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