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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
王都のみかじめ料編

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131 深夜の訪問者

 俺たちは次々に出てきた料理に舌鼓を打った。

「うん、宴会の時は、場所が場所だけに緊張していたりもしたけど、お店で食べると、そういうのもなくて、落ち着いて味わえる」


「おいしいですわ~。味付けが濃くても、決して粗野ではありませんもの。味に歴史を感じますわ~」

「そして、ドブロンとよく合うね! うん、これから寒くなってくるから、こういうお酒は最高だよ!」

 メアリはがぶがぶお酒を飲んでいる。ドブロン自体は甘めなので、けっこう進む奴にとっては進む。


 料理はホワホワがまだ頼りなげな足取りで運んでくる。でも、その初々しい様子も愛らしい。いずれ、慣れてくるだろう。


 やがて時間が経つにつれて、お店のほうにお客さんも増えてきた。

「ここは新しくできた店だな」「どれどれ。どんな料理と酒を出すんだろう」

 いかにも強者ののんべえってオーラを出してる年季の入ったおっちゃんたちがやってきた。

 ここはそういう土地なのだ。酒のエキスパートが集まってくる。


 客が入るたびに、マコリベさんの背筋がぴしっと伸びるように見える。

 飲食店って、長く続く店は一部だと言われている。軌道に乗るまでがとても難しい商売なのだ。まして、オープン直後なら、気合いだって入るだろう。

 そして、この土地で成功を収めたなら、のんべえからのお墨付きをもらったも同然だ。


「上手くお店が軌道に乗ればよいですわね」

 ホワホワが料理をほかの客に運ぶのを見ながら、セルリアが言った。妹を見守る姉みたいな表情だ。

「大丈夫、大丈夫。ここのお店、ちゃんとおいしいもん。わらわが保証するよ」

 そう言いながら、またドブロンを口に運ぶメアリ。なかなか飲む奴だな。


 新たにできたお店なので常連客もいないし、六割の席が埋まってるぐらいだったが、料理の評判自体は悪くはなさそうだった。これなら、いずれドブロンを布教する拠点になってくれるだろう。


 少し手が空いた時に、マコリベさんとホワホワがこちらのテーブルのほうに来た。

「領主様たちに楽しんでもらえているようで、よかったです」

「王都での暮らしは慣れるまで大変かと思いますが、負けないでくださいね。あ、そうだ」


 俺は会社と自宅の住所を紙に書いて、マコリベさんとホワホワにそれぞれ渡した。


「もしも、トラブルが起きたりしたら、ここに来てください。ファントランドとは勝手が違うこともきっと多いでしょうし」

 ぎゅっとホワホワはその紙を握り締めている。あんまり、しわくちゃにするなよ。


「今のところは大丈夫です。家賃もそんなに高くはないですし、やっていけると思います」

「それならよかったです。多分、ファントランドと比べたらびっくりするほど、王都は高いと思うんで……」

 飲食店用の広さのところなんて借りたことはないから詳しいことは知らないが、一般人が住むのに払える値段ではないだろう。

 一等地の飲食店の値段が高額なのは、店の家賃のせいだと言われてるし。人がよく通る場所は土地の値段だって高いのは当たり前のことだ。


「それはこっちも身構えてたんですけどね、泥棒橋通りは考えていたよりずっと安かったです」

 きれいな新しい店が並んでる場所でもないし、そういうものなのかな。


「ドブロンを広めるためにも、この店をしっかり切り盛りしていきますよ。料理の腕には自信がありますから!」

 マコリベさんは力こぶを作ってみせた。 


「自分も頑張る、がうがうー」

 ホワホワもそれを真似して力こぶを作ろうとしたが、全然できなかった。

「ホワホワのやる気は伝わった」

 みんなの笑いが漏れた。


 自分の地元ではないけど、自分の領地がこうやって努力しているのを見れるのは気持ちがいいものだ。どうか成功しますように。


 その日はへべれけになって、俺たちは家路についた。

 翌日、二日酔いなのか、ちょっと頭が痛くて、大変だった。

 お酒はほどほどにしないと体に毒だな……。



「うん、お店で飲むのもいいけど、家飲みもいいよね~」

 メアリが夕飯を食べながら、ちびちび葡萄酒を飲んでいた。


「お前、最近リミッターがはずれたみたいに酒に手を出してるな……」

「わらわのお給料で買ってるんだから、文句言われる筋合いはないもんね~」


 たしかに『名状しがたき悪夢の祖』がアルコール中毒で倒れることは、考えづらいし、好きなように飲ませてもいいのかもしれない。

 でも、それに釣られて、俺までがぶがぶ飲むと体を壊すから、それだけは注意しよう……。こっちは人間の体だからな……。


「今日もマコリベさんとホワホワちゃんのお店はやってるんでしょうね。居酒屋は夜も遅いから大変そうですわ」

「そうだよな。居酒屋ってなかなかしんどい業態だよな。労働時間がどうしたって夜になるし」

 ホワホワはまだ小さいので、あんまり夜遅くまで働かずに寝てればいいけど。でも、あいつが夜ふかししてるイメージもないので大丈夫だろうか。仕事終わったら、すぐに寝てそうだ。


 そして、食事を終えた俺たちは入浴を済ませ、ベッドに入った。

 俺はセルリアと一緒に。

 これは日々の営みみたいなものだから、別にやましいものじゃない。


「ご主人様、以前より、その……上手になっていますわね……」

 セルリアが赤い顔をしながら言った。絶賛するようなことじゃないから、褒め方も慎ましい。

「そっか……。経験が増えてきてるからかな……」


 サキュバス的なことをすませて、そのまま眠りに落ちた。

 だが、その眠りは二時間もしないうちに覚まされることになった。


 ――ドンドン、ドンドン!


 やたらと強く家のドアが叩かれている! これは尋常なことじゃない。

「なんだ、なんだ!?」

 俺は飛び起きてすぐに服を着た。火事が迫っているなんてこともありうる。

 あるいは不審人物だろうか? 黒魔法業界のライバル企業が俺をつぶしに来た?


「どうしたことでしょうか……」

 セルリアも不安なのか、俺にすり寄ってきた。


 ドアを叩く音はなかなかなりやまない。

 ダイニングに出ると、そこでメアリとも合流した。


「誰だろうね。のぞき窓はあるから、誰か見てみよう」

 メアリと一緒にドアのほうに移動する。能力的に一番強いメアリがのぞき窓をチェックする。


「ホワホワじゃないか!」

 メアリが大きな声を上げて、すぐにドアを開いた。


 そこには泣き顔のホワホワが立っていた。


「フランツ! 大変なことになった!」

9月22日発売のダッシュエックス文庫2巻の表紙が来ました! まだファイルサイズの大きいきれいな画像を僕が持ってないので、活動報告のほうで、公式のURLを出しておきますね。ほかの口絵なども素晴らしいので、もう少しお待ちください!

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