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若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!  作者: 森田季節
アンデッドのタダ働き? 編

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110 一から出直し

 やがて、ヴァニタザールの顔にわずかに笑みが宿りだした。

 といっても話す内容的に自嘲的なものだったけれど。


「今頃、アンデッドがどんどん人間ということになっているんだろうね」

「そうですね。少なくとも、今までのような労働環境で働かせるのは明確に犯罪になりますよ」

「しばらくの間、給料を払って、工場を運営していける程度の蓄えはあるけど、アンデッドたちの判断次第ね」


 ヴァニタザールは天井をぼうっと見上げた。

 放心状態というより、緊張がほどけたといった感じだった。


「また、一から出直しね。無茶苦茶なことをやれば、今回みたいにつぶされる……」


「別にいくらでも出直せるじゃないですか」

 俺はとくにこだわりもなく、言った。


「君、若いからって気楽に言ってくれるわね」

 ちょっと、むっとした顔になってヴァニタザールが俺のほうを見た。逆に言うと、会話するべき個人として、俺を見てくれているということだ。

 長らくヴァニタザールは相手と顔を合わせないということをお面で徹底してきたからな。


「だって、あなたは黒魔法も紫魔法もものすごい才能がある。それって、使える材料がたくさんあるってことじゃないですか」

 俺としては、それは当たり前のことだから、すぐに言葉が出てきた。


「今度は人を幸せにする仕事をはじめたらいいんですよ。あなたは賢いし、それぐらいのことはできるはずです」

 俺はヴァニタザールの瞳を見ながら言った。


 ヴァニタザールはやりづらそうにちょっと顔をそらす。

「ったく、そんな仕事を見てきたように言うんだから……」

「見てきましたよ。ケルケル社長の下で」


 おそらくケルケル社長とヴァニタザールのスタートはほぼ同じだった。

 ならば、ヴァニタザールもケルケル社長みたいになれる可能性はある。


「ケルーのほうが正しかったんだね」

 うつむいてヴァニタザールは言った。

 それは彼女なりの敗北宣言だった。


「まっ、どうにかやっていくわよ。こんな自分を信じてくれる人はもういないんだけど、それも自業自得かな」

 仮面がないせいか、ヴァニタザールの素面の顔がよくわかる。

 やたらとネガティブだ。それだけ何度も裏切られてきたせいだろう。


 だけど、だからこそ、いいかげん上向きになるべき時じゃないかと思った。


 俺はソファから立ち上がって、ヴァニタザールの手を両手で包んだ。


「そんなに信じてくれる人がいないなら、俺があなたを信じる。それでいいですか?」

「なっ? 君はこっちに何をされたか忘れたわけ?」

「だからって、信じるかどうかは俺の勝手ですよ。俺は再出発するあなたの人生を信じてやる。ほかの誰もが疑っても、信じてやる。あなたが疑っても、信じてやる!」


 ヴァニタザールは呆然としていた。

 しかし、その瞳に涙がにじんできた。


「こんな言葉をかけてもらったのは、百五十年ぶりかな……」

 ヴァニタザールは立ち上がって俺のほうに体を預けてきた。

 俺ができるのは抱きかかえることだけだ。


 無責任だと言われれば、それまでだ。

 それでも、こう言うのが正解だと俺は思った。

 失敗したからといって、次の挑戦が認められない世界はクソゲーすぎる。


 俺だって就活で失敗して、大変なことになりそうだったのをケルケル社長に救われたのだ。

 だから、代わりに誰かに手を差し伸べる。


「いくらでも泣いてください。それを受け止める程度のことは新入社員でもできるんで」

「う、うん……。ああ、人間って、こんなにあったかいんだよね……」


 ヴァニタザールは俺にしがみついてきた。

 妙に積極的な人だな……。かわいい人だし、嫌ではないけど。


 でも、その積極性はそんなものじゃなかった。


 いきなりキスされた。


 しかも、かなり長く……。

 激しいと言っていいものだった。


 ああ、この人、元は依存体質というか、相手に寄りかかりすぎる性格なんじゃないか?

 だから、裏切られた時のダメージも大きかったんだと思う。

 寄りかかってて、逃げられたら、倒れるものな……。


「ご、ごめんなさい……。つい……」

「ついってレベルじゃないんですけど……」


 それからヴァニタザールは俺のほうを上目づかいで見てきた。

「もっと、いいかしら?」


 ねだるような瞳で、彼女はこう続けた。

「金儲け以外に生きていく意味がほしいの」


 ここまで言われたら断れない。うん、ここで拒否したら、また裏切ったみたいな空気になるし……。


「言っておきますけど、この会社に転職しろとか、彼氏になれとか言われても、そこはいろいろあるんで無理かもしれませんよ……?」

「わかってる。今、人肌が恋しいだけ……」

 直接的に言う人だな……。


「じゃ、じゃあ、どうぞ……。時間ならあると思いますし……」


 そのあと、社長室のカギを閉めて、ソファの上で、濃厚にサキュバス的なことをしました。


 というか、ヴァニタザールは冒涜的な知識がやけに豊富だった。もしかすると、サキュバスのセルリアよりも詳しいかもしれない。


「昔の黒魔法使いはね、それはいろいろとあったのよ。もっと、もっと楽しもうじゃない!」

「あの、俺のほうがいいかげん限界なんですけど……」

 体力的に消耗が激しい。この人、攻めの姿勢が強すぎる!


「なら、悪徳の時間が続くように、こちらの体力を分け与えてあげるわ」

 ヴァニタザールの魔法でたしかに少し回復した。


「それと、せっかくなんで紫魔法も使いましょうか。こんな幻影はどうかしら?」

 なぜか周囲の景色が学校の校舎らしき場所に変わる。

 しかも俺とヴァニタザールも制服らしきものを着ていた。


「シチュエーションは放課後の学校よ。誰かが教室に来るかもというドキドキした気分も味わえるでしょ」

「ヘンタイか!」

「リミッターが解除されたのよ。いいじゃない」


 そのあとのことは冒涜的すぎるので、誰にも口外できそうにない。


 でも、全部終わった後、ヴァニタザールが晴れ晴れとした表情をしていたので、これでいいのかな。


「吹っ切れたわ。また、ここからやっていくからね」

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