11 卒業と初出社
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王都国際魔法学校の卒業式は厳粛な空気の中、行われた。
感極まって泣いている声も、ちらほら聞こえる。
はっきり言って、うちの魔法学校は超一流ではない。よく間違えられるが、魔法学校の最高学府は「王都国立魔法学校」である。国立と国際が違う。
生徒の中には女子をナンパする時に、「王都の魔法学校の生徒なんだけど」と言うらしい。たしかにウソは言ってない。
でも、王都国立魔法学校の生徒の多くが国の各分野で働くのと比べれば、うちは就活をして職場を探さないといけない立場だ。そこが全然違う。
もちろん、魔法学校を卒業した実績があれば、なにかしらの職にはつけるし、成績がすごく優秀なら、教育する側や研究する側に回れるが。
校長がベタな話をしているなか、俺はほかの生徒たちと同様、今後の新しい世界への船出のことを考えていた。
学生から社会人になるのだ。就職するのだ。
ネクログラント黒魔法社――ここで俺は働く。
今のところ、社長からは才能があると言われてるけど、才能があれば必ずしも社会で上手くやっていけるものでもないし、不安はある。
社長はいい人そうだけど、ほかの社員とウマが合うかは不明だし。
こっちをいじめてくるような嫌な先輩がいませんように……。みんな、いい人ばかりでありますように……。
なお、俺の使い魔であるセルリアは生徒親族席で号泣しながら、ずっと見守っていた。
「ご主人様、ご立派ですわ……」
その日もサキュバスらしい露出度の高い服(服と言っていいのかかなり怪しいが)を着ていたので、ほかの出席者はけっこうぎょっとしていたようだ。
ただし、セルリアいわく、今日のはサキュバスの礼服であるらしい、そういえば、全体的にシックな気もしないでもない。サキュバスの世界でも、そういうマナーはあるようだ。
式が終わった後、ドルクに声をかけられた。
「これを渡しておく」
それは男爵の位の譲渡に関する証文だった。
「お前、本当に、これ譲ってもいいのか……?」
「別にいい。決闘を仕掛けて、負けたからな。それに男爵程度なら、国への貢献度次第で手に入るレベルのものだ。働いて、立派な人間になる……」
貴族の息子といっても五男とかになると、それなりに苦労もあるんだな。
「そっちはそっちで立派になってくれ。同窓会でどっちが偉くなってるか勝負な」
すべては終わったことだし、俺は笑顔をドルクに向けて言った。
「そうだな。こっちもサキュバスみたいな使い魔を手に入れて見せる!」
いや、白魔法を極めてもサキュバスみたいな使い魔は召喚できないと思うけど……。
●
卒業式の翌日、俺はセルリアとネクログラント黒魔法社に寄った。
厳密には今月いっぱいまで学生のはずだけど、今月中に働くのは違法じゃないし、社員寮も使いたいので顔を出した。
その日もケルケル社長しか会社に社員はいなかった。
「無事に卒業しました。これから、よろしくお願いいたします」
「うん、こちらこそよろしく! 不安なことも多いと思うけど、そういうことは何でも相談してくださいね! つらいことがあったら、早めに報告してください! 私、カウンセリングの資格も持ってますからね!」
犬の尻尾を左右に振りながら、ケルケル社長が言う。見た目は完全に犬耳美少女だ。
「なんか、黒魔法って相談とか無縁そうですけど、そういうんじゃないんですね」
「大昔は、もっと秘密主義だったし、守秘義務も多かったんですよ。でもね、そういうことをやってると、やっぱり重圧でつぶれちゃう人が増えちゃったんです。それで黒魔法業界で働く人も減っちゃった部分があって……」
そりゃ、後ろ暗いこととか気味悪いことを仕事にしてたら、じょじょに精神を蝕まれるよな。
「そんな黒魔法のよくないところは消していこうと私は思ってるんです! 誰からも愛される親しみやすい黒魔法を目指します! 目標は自分の仕事は黒魔法ですと胸を張って言える職場と社会を作ることです!」
社会にまで変革起こす気か! この社長、意識高いな!
「さて、せっかく来てもらったので、以前にできてなかった給料のお話をいたしましょう」
そういえば、自分がいくらもらえるかはっきりとは聞いてなかった。
なお、この世界の魔法学校卒の新卒が銀貨二十枚ほどだ。
「ひとまず、フランツさんの月給は銀貨四十枚でいかがでしょう」
「高いっ! そんなにいいんですか!?」
明らかに不自然なほどに高い。うれしいを通り越してどんなことやらせるんだと怖くなるほどに高い。
「うちの会社って社員数が少ないですから、少し多めに出しても問題ないんです。それに、安い額で人を使って、すぐに辞められるほうが損害がデカいですからね。黒魔法業界ってだけで色眼鏡で見られますし」
たしかに、人を選んでる余裕がない業界なら、つなぎとめておきたいと思うのも自然か。
「もちろん、サキュバスのセルリアちゃんにも給料は出しますね。使い魔なので、銀貨十五枚でいいですか?」
「はい、何の問題もございませんわ。よろしくお願いいたします」
これはあくまで噂でケースバイケースもあると思うが、金払いが悪い業界は人もろくなのがいないから、人間関係の部分から言っても、給料は高いところを選ぶに越したことはないらしい。
ただ、金払いがいい職業の中には、危険だから高いお金が支払われているものもある。つまり危険手当だ。
黒魔法業界が危険でないことを祈る。これで安心、安全なら最高の労働環境だ。
「あとは説明することは、あっ、そうだ……。大事なことが抜けてましたね……」
わずかにケルケル社長の顔が曇る。
いったい何があるって言うんだ……?
「黒魔法って、習得する際に秘儀じみたことをしないといけない面があるんですよね」
「ああ、それはだいたいわかります」
白魔法と比べて明らかにオープンになってないところが多い。
とくに俺は新人も新人だから、何かそういうことをする必要があるんだろう。
「私としては無意味な秘伝要素とかは消したいんだけど、消しきれないところもあるんです。痛い系や怖い系はほぼなくしたんですけど、どうしても習得に消せない部分があるんですよ……。これは苦手な人もいるんで……」
「いったい何ですか……?」
とても、自分ができないと思うようなことだったらまずいな……。
「羊でも生贄にするんですか?」
「いえ、そういうグロい系でもないです」
「じゃあ、いったい何なんですか?」
「それは…………いやらしい系です」
ちょっと言いづらそうに、社長は答えた。
たしかに言いづらい!
今日は仕事の関係で次の更新は深夜になります。初出社のフランツが最初のお仕事を頑張ります。