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10 寮でもいちゃつきます

日間2位、本当にありがとうございます! ものすごく励みになります!

 それから卒業までの一か月ほどの間は、学生寮でさんざん嫉妬の目を向けられた。


 なにせ、学生寮は異性が入るのは禁止なのだ。

 当たり前と言えば当たり前である。あくまでも魔法学校は勉強をするところであって、男女の出会いの場ではない。


 とくに男子生徒が寮に女子を連れこむなど、場合によっては退学になることすらある問題事項である。


 けど、俺の場合は――なんと許可が下りてしまった。


「はい、ご主人様、あ~ん」

「セルリア、さすがに俺一人で食べられるから……」

 その日の朝食もスープが入ったスプーンをセルリアは俺に向けてくる。なお、別にセルリアの手料理ではなくて、寮の食事担当者であるリーザちゃんが作ったものだ。


 いつものようにリーザちゃんの料理は量が多くて、スープもおなかがたぷたぷになるぐらいある。


「え~、いいじゃないですか。わたくしはご主人様の使い魔なんですから~」

「いや、ほら……周囲が『人を呪い殺せる魔法が白魔法になくて残念だぜ』みたいな顔をしてるから……」


 もはや血の涙でも流しそうな奴までいた。


「セルリアさん、イチャラブはできれば部屋で、人目につかない範囲でお願いしますね。使い魔といえど、ここは教育機関の一部ですからね」


 パンを持ってきたリーザちゃんがセルリアに釘を刺した。

 寮の食事はリーザちゃんが面倒を見てくれている。若いけれど、職業としては寮母だ。いわば男子寮における太陽も同然の存在である。


「そうだよ、リーザちゃん! むしろ、こんな同棲は禁止すべきだよ!」「まったくだ! これは退学になって、ついでに内定取り消しも受けるぐらいの重罪だ!」「うらやましいし、けしからん!」


 ほかの生徒たちが一斉にリーザちゃんに同調する。


「う~ん……私も念のため寮則を確認したんだよ。でも、第15条の『ペットの持ち込みは禁ずる。ただし、使い魔は魔法使いにとって大切なパートナーであるので、これを許可する』に該当すると思うんだよね……」


 セルリアがペットかといえば、絶対に違うけど、使い魔であることは間違いない。


「ほかに使い魔に言及した箇所もないし、セルリアさんはセーフってことになると思うんだよね……。使い魔を引きはがすというのは、よくないことだし……」


 そう、セルリアは使い魔だからアリだよねということになって、俺と同じ部屋で暮らしているのだ。

 そんなの、ほかの生徒がうらやまないほうがおかしい。


 きっと生徒がフクロウや猫といった動物でない使い魔を呼び出すという前提が寮則になかったんだろう。

 俺だって、セルリアみたいな明確な人格を持って会話もできる使い魔を召喚できると考えてなかった。それって超一流の魔法使いにしかできないことで生徒がやれることじゃない。


 むしろ、ためしに何か出してみてと言ったケルケル社長ですら驚いていたから、本当に黒魔法に向いていたんだろう。


「でも、みんな、就職決まってないフランツさんのことを、バカにしてた節があるし、因果応報なのかな~」

 リーザちゃんがそう言うと、みんな黙り込んでしまった。


 お前ら、やっぱり就職決まってなかったことを陰で(あるいは実質、表で)言ってたんだな。だったら、俺もセルリアととことんイチャイチャしてやるからな!


「ありがとう、リーザちゃん。きっと、リーザちゃんがこの寮で唯一の味方だよ」

 それはそれでどうなんだと思うが、この表現で正しいだろう。


「私としても、ケルケルさんを紹介して、こんなに上手くいくとは思ってなかったから、よかったよ」


 そうだった、そうだった。リーザちゃんにカフェの常連であるケルケル社長を教えてもらえなかったら、俺は今頃、就職が決まってる寮の生徒たちを呪っていたのだ。まさに一発逆転だった。


「寮で唯一の味方というのは語弊がありますわね」

 セルリアが俺に腕を伸ばしてきた。


「わたくしはご主人様を命に代えても守護いたしますわ。それこそ使い魔としてのわたくしのプライドですから!」

 セルリア、ほんとに美少女なのに男前なセリフだ!


「俺も、セルリアのことを守るからな」

 お返しにこう言った。照れるからってここで黙っていちゃダメだろう。


 すると、虚を突かれたように、セルリアは一瞬真顔になったが、すぐに瞳をうるませて――


「ご主人様、とっても、うれしいですわ!」


 俺の頬に軽くキスをした。

 ああ、人生長く生きてると、こんなリア充イベントに立ち会うこともあるんだな。


「ご主人様、今からお部屋に戻りましょう! 今すぐ戻りましょう!」

 セルリアが俺の腕を引っ張る。

 これ、絶対に何かえっちいことをやろうとしてるだろ!


「いや、部屋に戻ると、授業に遅れるし……」

「今日の最初の授業は単位も揃っているし、出なくてもいいものでしたわ」

 よくわかってるな……。授業も本当にラスト間近だからな……。


 また、寮の連中が「お前を殺して俺も死ぬ!」みたいな顔をしてにらんできたり、逆に泣きそうな顔になったりしていた。お前らもお前らで、社会に出るの決まってるんだから、そっちに意識向けろよ!


「こほん……」

 リーザちゃんが軽く咳ばらいをした。

「セルリアさん、その……朝から主人が羽目をはずす手伝いをするのはよくないですよ……。使い魔としても、あまり褒められたことじゃないんじゃないかな……」


 セルリアもその言葉には得心のいくものがあったらしい。


「ですわね……。ご主人様の邪魔をしては使い魔失格ですわ……」

 しょぼんとセルリアがする。翼もちょっとしおれたみたいになる。


「ご主人様のことを第一に考えられないなんて、まだまだわたくしも未熟ですわね」

 あんまり、しょんぼりされるとかわいそうだな。


「セルリアが俺のことを大切に思ってくれてることはぶれてないから。そこは疑ったりなんてしたことないから安心しろ」

 俺はすぐにフォローの言葉をかけた。セルリアは感情が顔に出るので、こっちも対応しやすい。


 すると、またセルリアの瞳がうるんで――

 飛びつくように抱き着かれた!


「やっぱりご主人様は素晴らしいですわ! 今すぐお部屋に戻りましょう!」

「それじゃ、何も変わってないだろ!」


 当分、このイチャラブ関係は変わらないようです。

学生編はこれにて、おしまいです。

次回、会社に初出社です! 楽しく、のんびり働きます!

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