1 白魔法で就職できない
新連載です! よろしくお願いします!
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残念ですが、貴殿は王都白魔法検査協会の試験の結果、落選となりました。今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
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「また、お祈りの手紙が来たっっっ!」
俺は寮のポストの前で頭を抱えた。
これで三十四件目のお祈り……。いや、三十五件目だっただろうか。三十を超えたあたりから数がわからなくなってきた。
三件目ぐらいまでは、これは相手のほうに見る目がなかったんだと通知を破り捨てるぐらいのメンタルの強さもあったのだが、途中から心のほうが破れた。
俺って、三十社以上がダメと言ってくるほど、価値のない男なのか……?
失意のまま、魔法学校寮の食堂に行ったら、来年度の新生活を語る声がいくつも聞こえてきた。
「お前は、どこ就職するんだ?」
「中小の白魔法工房だよ。王都の隣の町」
「いいじゃん。俺、子供向けの魔法塾講師だぜ。教職の授業なんてろくにとってないから自信ねえよ」
「いいじゃん。十四歳ぐらいまでの女子も受けるんだろ。ワンチャン、生徒との禁じられた恋に発展したりとか」
「勝手なこと言うなよ! 職のほうが大事だっての!」
「そういや、隣のクラスのキリスが魔法軍の幹部職員に受かったって知ってるか?」
「あいつ、キャリアかよ……。将来は安泰だよな~」
くそ、どうしてリア充を爆発させる魔法が教育課程に入っていないのだろうか……。
そんな魔法を覚えていれば、今すぐ、爆発させてやるのに……。
「はい、フランツさん、そんなにしょんぼりした顔しないで、ごはん食べて元気出してください!」
俺の前にどんと顔ほどもある巨大なパンと、大盛りのサラダが置かれた。
寮の食事担当をしているリーザちゃんだ。
まだ二十歳になるかならないかといった年齢のはず。つまり、ちゃん付けしてるけど、俺たちより数歳、年上だ。ただ、みんな、リーザちゃんと呼ぶのが決まりになっている。
今は食事中だからか、キャップに長い髪をまとめて入れていたけど、それもまた似合っている。
愛らしい見た目と違って、なんでもかんでも特大サイズで寮生に出してくるのが、この子の特徴だ。
「だってさ、また落ちたんだよ……。就職先がいまだに決まってないの、俺ぐらいのものでしょ……」
「そうだね。この寮で、まだ就職が決まってないのはフランツさんだけだね」
「そこはフォローなしか……」
まあ、根拠ないのに大丈夫と言われても、納得ができるかはまた別だけどね……。
「はぁ……どこも倍率高すぎるんだよ……。しかも、魔法の技術って結局そんなに成績に大差ないから、面接で就職先決まるし……」
俺の所属している王都国際魔法学校は、15歳から18歳までの四年間の学び舎だ。ここでプロの魔法使いとしての基礎を学んで、魔法関係の仕事に就職していくのだ。
無論、超優秀な生徒は研究者や学内の助教ポストなどが用意されるが、そういうのは生徒の一割もいない例外的存在なので、あまり関係ない。それに超優秀な奴は王都の最高学府に行ってるはずだしな。
そして、俺は就活にずっと失敗し続けて、今に至るというわけだ。
ちなみに現在、八月。
来月に卒業式が行われるので、この寮も出る羽目になる。
学生期間は九月いっぱいだから、卒業式の後も、同月中は寮にいられはするけど、誤差の範囲だ。
「いっそ留年して、来年、『新卒で~す』と言って就活するというのはどうかな?」
「リーザちゃん、それは俺も考えた。でも、思いついた時には卒業できるだけの単位は揃えてしまってた……。とくにおちこぼれではなかったからな……」
「そっか、フランツさんって、学校の授業は真面目に受けれるけど、就活とかは全然できないっていうタイプの人なんだね」
「リーザちゃん、死体を蹴ったうえで火を放つタイプだよね……」
しかも、だいたい正解だから反論もできんぞ。
「う~ん、私の案としては、ここはワンチャン、黒魔法の業界に入ってみるべきだと思うな」
俺は嫌な顔をした。
「え~、今時、黒魔法なんてはやらないよ……。キモイ・キタナイ・キケンの3K魔法業界って言われてるし……。無難に白魔法のほうがいいって……」
この世界には合計七色の魔法がある。
白・黒・赤・青・緑・紫・金の七色だ。
厳密には複数の色を混ぜた虹色とかもあるけど、色にはカウントされないから除外。
ただし、バリエーションがあるように見えても、メインは圧倒的に白魔法だ。赤魔法なんて攻撃ぐらいにしか使えないし、緑魔法もエルフぐらいしか使わない。紫魔法は人間の精神に干渉するけど、そもそも難易度が高すぎる。ほかも似た感じだ。
なので、魔法業界で働くとなると、ほぼ白魔法なのだ。
一応、黒魔法もあるけど、生贄捧げたり、寿命が縮んだり、汚物にまみれたりとか、マイナスイメージしかない。偏見かもしれないけど、一般にそう思われている。
かつては黒魔法の魔法使いもある程度いたようだけど、合理的じゃないという理由で、どんどん志願者も減っていって絶滅寸前だ。
「先日も王都の新聞で、若者の黒魔法離れが深刻と書いてあったほどさ。わわざわざ危ない橋を渡りたい奴なんていないからね。文字通り、ブラックな業界なんて若者じゃなくても嫌だよ。魔法使いの数だって限りがあるし、無難に白魔法の会社に入るに決まってる」
「黒魔法が評判が悪いのは私でも知ってるよ。でも、評判が悪いってことは倍率も低いでしょ。ためしに就職してみて、業務内容も羊の首を毎夜捧げるみたいな不気味なものだったら、辞めちゃえばいいんだよ」
「すぐ辞めたら、職歴に響きそうだな……」
「でも、このままだと一か月後に卒業して、ただの無職になっちゃうよ?」
無職という言葉の響きが重すぎた。
「わかったよ……。俺、黒魔法業界も受けてみる……。でもさ……」
ほかにもハードルがある。
「会社説明会とかでも、黒魔法業界ってほぼないから、どこで門戸開いてるかわからん……」
大きな説明会をできるのは、大きな会社だ。だから、黒魔法の説明会なんて魔法学校の就職支援室の掲示にもほとんど見た記憶がない。
あるいは貼ってあったとしても、意識してなかったから、気づいてないのかもしれない。
「ああ、それなら、黒魔法で働いてる女の人、知ってるよ。私のいきつけのカフェの常連さんなの。その子のところに行って相談してみようよ!」
「そんな人がいるんですか。リーザちゃんて顔、広い……」
「ここは王都だよ。黒魔法で働いてる人だっているって」
どうせ、会ってみなかったところで職がないことに違いはない。当たって砕けてみるか。
「じゃあ、アポをとってもらえますか?」
こうして、俺は黒魔法業界で働いてる人のところに相談に行くことになった。
次回は数時間後に更新します。