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現実

心地よい腕の痺れで目がさめる。

裕斗が横を見ればすぐ横に自分の腕を枕にし、片足を裕斗に乗せて眠るシャルがいる。

当然シャルは目をつぶってこそいるが起きている。


裕斗からすればシャルが抱きついているように見えるその寝姿に興奮する。

口づけでもとそっと顔を近づけると、シャルの目がパチっと開いた。


「お、おおお、おは、おはよう!」

「おはよう」


シャルが立ち上がろうとした時に裕斗の身体に乗せていた足に硬いものが当たっている事に気がつく。


「元気そうで何より」

「はははははははー」



シャルは早速朝食の準備に取り掛かる。本人は気がついていないが、昨晩よりも手が込んだ料理になっている。


「うわー!朝から手が込んでるね。うん、美味しい。美味しいよシャル」

「そうですか」


とそっけなく返したつもりだったが、シャル自身気がついていないようだが、その顔は綻んでいた。



「さてとー!今日はゴブリン討伐の場所に着くんだよね?」

「半日もすれば着く」

「フッフッフッ。僕の恐ろしさを思い知らせる時が来たか!」



しばらく進むとシャルが静止の合図を出す。目的の場所が見える。

洞窟(どうくつ)というよりは洞穴(ほらあな)といったほうがよさそうなものが見え、その前にはゴブリンが見張りのように4匹いるのが確認できる。


「4匹か。多いな」

「なんで?たったの4匹でしょ?楽勝だよ」

「見張りで4匹という事は中は相当な数がいる。軽く見積もって30匹か」



ギルドで放置しすぎた為、ゴブリンは増えに増えていた。

ゴブリンは人よりも小さく知恵もない為、あまり危険視されない。だが数が増えれば必然と行動範囲が広がり、人里にも姿を出すようになる。

そうなると1人でいるところを見つかれば、たちまち攫われ苗床にされてしまう。

人と交わるとハーフが生まれ、人のように知恵を持ち出し脅威へと変わる。



「面倒だし、一気に叩いちゃおうよ?」


裕斗は剣を抜き、洞穴へ向かおうとする。シャルは雇い主の命令に従い、一緒に行くだけだ。


「おらおらおら!」


近くまで来ると裕斗が走り出し、ゴブリンに向かって斬りかかる。通常であればこれだけ条件が良いのだから、作戦を考え如何に有利に事を運ぶか決めてから挑む。裕斗のような無鉄砲な戦い方はシャルにとって初めてだった。


“ゴブリンと変わらないな”


あっという間に裕斗により2匹が斬り伏せられる。その間にシャルはスローイングナイフで1匹を仕留めた。

残る1匹はすぐさま洞穴に駆け込みギョエエエエと仲間に呼びかけるように叫んでいる。


とそこで、裕斗が足を止める。


「シャル、マズい!中が真っ暗で見えないよ」

「当たり前だ!バカか」


シャルは剣を引き抜きそこにぬにを巻きつけ油を振りかけ火をつける。同様に裕斗の剣にも布を巻いて油をかけて、シャルの剣の火を移す。


「とりあえずこれで何とかなるはずだ」

「おー、すげー。これ振っても消えないぞ!まるで炎の剣みたいでかっこいいな」


そんなくだらないことを言っている間に、洞穴の中は騒がしくなってくる。


「よしゃ!シャル、行こう」


中に元気よく入り込んでいく裕斗の後を半ば呆れて後を追う。


中は入ると直線に伸びていて、5メートルも進めば広間になっている。そこには15匹ほどのゴブリン達が待ち構えていて、裕斗が姿を出すと次々と襲いかかってきた。


「喰らえぃ!」


剣が振られるたびに巻かれた布の炎がブオオっと音をたてる。

シャルはその光景をただ眺めていた。いや、近づけなかった。

ふざけたような掛け声を出しながら、ゴブリンと戦っている裕斗だが、すごく強いことは間違いなく、一歩間違えばシャルごと斬り伏せられそうなぐらい・・・ふざけた剣の振り回しをしているのだ。


「おら!ボディが、ガラ空きだ!」


みるみるうちに死んでいくゴブリン。


“剣術でもなんでもない。あれはそう、ただ振り回しているだけだ”


しかしその振り回しているだけの裕斗の剣により、ゴブリン達は死んでいっているのもまた事実。


「これで、終わりだー!」


広間に集まっていた最後の一匹が、斬り伏せられ倒れる。


「へへっ、燃えたろ?

って前から行ってみたかったんだよね」


独り言のように言って辺りを見回すと、シャルが見つめている。


「余裕余裕!」

「ユウトは無茶苦茶だ。それとまだ終わっていない」

「え?もしかしてラスボス?」


振り返ると小さいゴブリン、ゴブリンの子供達と乳房のあるゴブリン数匹が姿を見せる。


「あれを始末したら完了だ」

「え・・・だってあれ、女子供でしょ?」

「だからこそだ」


ゴブリンの子供達は父親のゴブリンの元へ近寄りピーピー泣いていて、絶望の表情で女のゴブリン達が、裕斗とシャルを見つめている。


「俺には出来ないよ」

「偽善だな。

ユウトは既にあれの身内を殺している」


裕斗はそこで思い知ることになる。

この世界はゲームなどではなく、それぞれの生物達が暮らし生活していることを。

ゲームなどでは決して見ることのないものだった。


シャルはユウトを他所に子供のゴブリンに近づくと、容赦なくダガーを首に突き立てていく。

それを裕斗は見ることができず、悲鳴のようなものが響き渡り、耳を押さえてしゃがみ込んだ。


ものの数分もするとその声は収まり、シャルが裕斗の後ろに立っている。


「任務完了。隠れていたものもすべて殺した」


感情を感じられない声でシャルがそう告げると、裕斗は顔を上げて振り向けばそこには死屍累々のゴブリンの大小様々な死体がころがっていた。


町に戻る道をフラフラと行く間、裕斗は一言も口を聞くことはなく、またシャルもただ帰り道を進んでいく。

間もなく日が落ちてくると、野営の準備に入った。





なんか重かったですね。

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