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手料理

準備の終えた2人は、食堂に行き食事をすませる。

裕斗が言った通りシャルは、本来の自分、何の感情も持たない能面のような顔つきになっている。

そんなシャルを裕斗は眺めながら食事をしていた。


「どうした?」

「うーん。シャル可愛いのに勿体無いなぁって思ってた」

「そうか」


可愛いそう言われて喜ばない女性はいない。

裕斗はそう思っていた。


「そうかって、嬉しくないの?」

「外見は違っても生き物に変わりはない」


シャルからすれば、個で見ることはなく、人は生き物としか映っていない。外見の違いはあくまで個を見分けるためでしかないようだ。





「シャル〜疲れたよ〜」


“またか”


町を出て山道に入ると1時間おきに疲れたと騒ぎ出す裕斗。

目的の場所までこのペースでは到底間に合いそうにない。

シャルは立ち止まり、雇い主を休ませることにした。


「原チャリあればあっという間なのになぁ」


シャルには意味不明な事を口にしながら、地べたに座って裕斗は原動機付自転車に乗っているような手つきをしている。

理解できないことに興味も出さず、ただ黙っているシャルに裕斗は延々と話し続けていた。


ガサガサ・・・


シャルがハッと物音の方を見ると、1匹の巨大な熊が姿を現す。


「裕斗は下がって」

「うお!熊だ。デカイなぁ」


裕斗は立ち上がると剣を抜く。


「僕に任せて」


雇い主である裕斗が言う以上、シャルは何も言わず任せ、いざという時のために備える。


「へへへ〜、もちろん僕は最強設定。熊ごとき敵じゃないぜ!」


チラッとシャルを見ると、何度もバチバチと片目をつぶってみせている。

どうやらここでかっこいいところでも見せるつもりなのだろう。


ガオオオオオオ!


熊が吠え、二本足で立ち上がると両腕を上げ、いつでも振り下ろせる姿勢を見せる。

そんなこと御構い無しに裕斗は熊に近づくと、剣を構えて斬りかかった。


「喰らえ〜!」


拍子抜けするような声をあげて熊に斬りかかり、熊はそれに合わせるように片腕を振り下ろしてきた。


“死ぬぞ”


シャルはすぐにスローイングナイフを構えて投げようとした時、目を疑うような光景を見る。

なんと裕斗は剣を持っていない空いた手で、熊の振り下ろしてきた腕を掴んで止めて見せるとそのまま剣を熊に突き入れたのだ。


「へへへ、僕最強。そして、これで・・・く、た、ば、れー!」


両手で剣を持ちなおすと、熊に向かって思い切り剣をふりおろした。

剣は熊の頭頂部に当たり、そのまま真っ直ぐに股まで振り下ろされていたが、熊は微動だにせずにいる。


「そして時は流れる。なんてな!」


次の瞬間熊は左右に、まさしく真っ二つに分かれて倒れる。

さすがのシャルもこれには驚かされ、裕斗と真っ二つになった熊を何度も見ている。


「シャル!どうだった?僕カッコよかったでしょ?」

「あ、あぁ」


空返事をしながら何度も熊と裕斗を見比べているシャルを見て、裕斗は満足そうなかをする。

当然カッコいいなどとシャルは思うわけもなく、ただ返事を返しただけだ。

しかし裕斗の脳内では今、勇姿を見せたことによりシャルが惚れ、抱きついてきて素敵とキスをされている勝手な想像に満たされている最中だった。


シャルにとっても、熊は巨大であっても所詮は熊でしかなく、裕斗が倒したことには驚いてはいない。

熊の攻撃を腕で、しかも片腕で止めて見せ、しかも真っ二つに斬り裂いた、その有り得ないことに驚いていた。



「ユウトは強いな」

「おう!もっと褒めてくれていいよ」


すっかり調子にのる裕斗だが、目的地に向かって歩き出せば疲れた、足が痛いとグチグチ言っている。

まだ本来予定していた場所よりは早いが、シャルはある地点で野営する事を裕斗に伝え、野営の準備を始める。


「ユウト、荷物を出してくれ」

「ん、はいっと」


鞄からバックパックを引きずり出しシャルに渡すと、中をゴソゴソと必要なものを取り出すシャルを裕斗はボーッと脳内妄想しながら眺めていた。


日が落ち辺りも暗くなった頃、シャルは携帯食と先ほどの熊の肉を処理したものを調理した食事を作ると、裕斗に手渡す。


「おおお!」

「どうした?」

「女の子の手料理だよ!感動だ。うん、美味しい。シャルの愛を感じるね」

「・・・」


シャルは困惑する。自身が作った料理を美味しいと書き込んで食べ、そして愛を感じると言われた事に。


「ユウト、それが愛なのか?」

「んー、愛の1つだね!美人のシャルに作って貰った手料理を食べられる。こんな幸せはないよ」

「愛は種類があるんだな」




今までこんな事は経験した事がなかったシャルは、悩み考え込んでしまう。


暗殺であれば依頼を受け、標的を誰にも悟られないように殺せばいいだけであり、冒険者に誘われた場合はシーフとして入り込み、情報を集め、ダンジョンなどに入れば冒険者達より先行して罠などを見つけ出す。

もちろん食事は一緒にとるが、大抵はこの後どうするかなどの作戦の話しかない。

護衛ももちろん今回が初めてではない。仕事こそきっちりこなすが無口なため、雇い主も大抵は無口になる事が多かった。


だが、この裕斗は全く違い、雨あられのごとく話しかけてくる。例え相槌だけであろうが、それだけでも喜びなお話し続ける。


理解こそできなかったが、シャルはそれがなんとなく嫌ではなかった。そして美味しいと言って食べた裕斗に、シャルは理解できない何かが湧いていた。


「ん〜、食べた食べた。シャルごちそうさま!」

「あ、ああ」


悩み込んでいたシャルに突然声をかけられ、慌てて返事を返す。


“慌てる?私が?”




せっせと裕斗は寝袋を2つ取り出すと、それを隣り合わせに引きニヤニヤとしている。


「シャル、そろそろ寝よう。ほら、寝袋も用意したよ」

「私はいい。そんなものに包まっていたら、いざという時に身動きが取れない」

「うん、分かってる。この寝袋の上に横になるんだよ。厚みがあるから地べたに横になるよりいいよ」


成る程とシャルは思い寝袋の下に行くが、2枚横に並べても当然ベッドよりも狭い。


「せ、狭いからくっついて横になるしかないけどね」


横になったシャルの横に裕斗も横になると、狭さから必然的にピッタリとくっつく事になる。


「僕が腕枕をするから、腕に頭を乗せて寝るといいよ」


シャルは感情については分からなくても、裕斗がどういう事を望んでいるかは当然分かっている。

言われるまま腕に頭を乗せ、裕斗の方を向くように横たわった。


耳を澄ませ、何時でもすぐに何かが現れてもいいように警戒しながら。





裕斗はいわゆるチート持ちで、スケベです。

そして奥手で妄想大好き。

良いところは、女性には親切ですが、それはもちろん好かれたいがためだけでしかありません。

なお、戦い方はわかってませんが、それを補うチート的力強さはあります。

全てはモテる為だけが原動力の男です。

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