感情
すぐに戻ると言って出て行ったシャル。
裕斗は1人部屋に取り残されていた。
ブツブツ独り言を言いながら、先ほどまでシャルを抱き寄せていた感触を思い返す。
「柔らかくて、いい匂いだったな」
今まで一度も恋人が出来たことがなく、初めてこの世界にきて出会った少女シャルは、彼の脳内では既に恋人であり、いずれ出来るつもりのハーレムの記念すべき1人目のつもりでいるようだ。
「それにしても用事ってなんだろう?まぁすぐに戻るって言ってたから待ってればいいか」
30分が経つ。戻ってくる気配がなく、暇を持て余した裕斗は気がつくと眠りに落ちていた。
ガチャ
別に侵入するわけではない為、シャルは普通に扉を開けて部屋に入る。
「む、うーん、あ!シャルお帰り。気がついたら寝ちゃってたよ」
「起こしちゃったね。ただいま」
「い、いいい、いいんだ」
シャルは普段通りにベッドにローブを投げ捨て、テーブルに武装を丁寧に置いていく。
服を脱ごうと手をかけた時、殺気とは違う、とてつもなく鋭い視線を感じとる。
これほど強く鋭い視線を感じた事はこれまで一度もなかったシャルは、視線を送り続ける人物、裕斗を見るとギラギラした目でシャルをガン見していた。
「えっと、ユウト?」
「ん?気にしないで続けて」
シャルは基本的に安心して眠れそうな場合は、一番リラックス出来る素っ裸で寝る習慣がある。
加えてシャルには羞恥心と言うものがない為、平然と服と下着を脱ぎとり素っ裸になるとダガーを片手にベッドに向かう。
裕斗はシャルから見れば雇い主であり、守らねばならない対象のため、寝室が一緒なのは最初から別に気にも留めていない。
「おおおおぉぉ!シャルの裸!」
「はい、裸です。この方が開放感があってリラックス出来るの」
シャルは枕の下にダガーを置くとゴロンと横になってタオルケットをかける。
裕斗はその一部始終を目と脳内に焼き付けるように見て、タオルケットをかけた後も食い入るように見ている。タオルケット越しに薄っすらとシャルの身体のラインが見えるのが、裕斗にとって、それはそれでまたエロティックなのだ。
「シャル」
「はい?」
「一緒に寝よう!」
裕斗は断られるのは覚悟の上で言ったつもりだったのだが。
「はい、どうぞ?枕は持ってきてね」
シャルの口からはまさかの返事が。
シャルの考えが変わらないうちにとそそくさと枕を持ってベッドに入り込む。そうなるともう歯止めがきかなくなるのが、男の性だ。
「しゃ、シャル」
「はい?狭い?」
「そ、その、あ、愛し合おう!」
裕斗はもうそれしか、それだけしか頭になかった。
シャルは頭だけ裕斗の方に向ける。その顔に笑顔はなく、無表情でなまじっか美人なだけにリアルな人形にも見える。
「ユウト、愛とは?言葉は分かるがその意味が私は分からない」
さすがに頭にエッチなことしか考えてなかった裕斗も、シャルの問いかけで我に返ってしまったようだ。
「えっと、愛って言うのは、つまり、そのなんだ?男と女がイチャイチャと・・・」
「つまり、交尾のことか?」
「こ、交尾って・・・」
「私は物心つく前から暗殺者として育てられ、暗殺の邪魔になるものは教えられていない。故に感情は知識でしか知らないし分からない」
裕斗はシャルの人生を垣間見て驚きを隠せない。
「でもさっきまで笑ったり怒ったりしてなかった?」
「擬似的に作り出しただけだ。相手の反応を見ながら臨機応変に喜怒哀楽らしい表情を作っているにすぎない」
「じゃあ例えば僕がシャルの胸を触ったらどんな感じなの?」
「ユウトが私に触れた」
「・・・じゃあ例えば殴ったら?」
「殴り返す」
「そ、そうじゃなくて、痛いとかは?」
「痛覚はまだ生きている証、まだ対処できる状態」
「じゃあこれならどうだ!腕を切り落とされたりしたらシャルはどうなの!?」
「止血し、失血死を防ぐ」
「腕がなくなって悲しくないの!?」
「仕事に影響が出るな」
思考の仕方が全てにおいて裕斗と違った。
いや、裕斗だけじゃないだろう。一般人の思考とかけ離れたシャルはまさに戦闘マシーンのようだった。
「シャル、もう作られた人格なんかじゃなくていいよ。普段の君と接していって仲良くなっていきたい」
「言っている事がよく分からないが、雇い主がそう望むのならそうしよう」
それだけ言うとシャルは目を閉じ眠りについた。裕斗はそんなシャルをしばらく見つめた後目を閉じて眠りについた。
翌朝、裕斗が目をさますと、柔らかく温もりのあるものに抱きつくように眠っていたようだ。
「目が覚めたか?」
むにゅっと手に柔らかい感触があり、寝ぼけた裕斗はそれが何なのか確かめるように数度揉んでみる。そしてそれがシャルの胸である事に気がつくと、一気に目がさめる。
「うわわ!ご、ゴメン!わざとじゃないんだ」
「目が覚めたのなら、起きて準備を済ませてほしい」
え?という顔をした裕斗にシャルは言葉を続ける。
「ギルドの仕事をするんだろう?」
「あ、そうだった」
そう言いながらも、裕斗はシャルからなかなか離れようとしない。
シャルは仕方なさそうにベッドから抜け出ると、一度大きく伸びをして下着に手をかけた。
それを見た裕斗も残念そうに、渋々ながら体を起こし準備を始めたのだった。