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ライバル令嬢改め受付嬢始めました  作者: 花菜
第二章 《氷の町》
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 ぼぅっと炎を眺め、アンジュは、一体どのようにしてあの氷を溶かそうというの?と疑問を浮かべる。

 実際に自分の目で見て、誰もがかの土地を手放し放置し続けた理由が何となくわかった気がする。あの土地はどこかおかしい(・・・・・・・)。氷に覆われた土地だなんてそれだけで可笑しいと言えるが、アンジュはそれ以外にも違和感を覚えていた。その正体がなんなのかまでは彼女にはわかっていなかったが、それでも彼女の第六感に引っ掛かるものを感じていた。


「なんなのかしら……」

「なにがだ?」


 心のなかで呟いたつもりが声に出ていたらしい。まっすぐとアンジュの方を向き、尋ねる。炎で頬が火照り、いつもとは違った雰囲気を醸し出すリヒターに一瞬どきりと胸が鳴ったが、それを気のせいとしアンジュは口を開いた。


「ちょっと、氷の町について考えていまして」

「なにか気になることでもあったのか?」

「気になる、ってほどでもないんですが、こう……違和感、のようなものがあるようなないような」


 ただの勘でしかないことをリヒターに言うべきでないだろうと曖昧に誤魔化そうとするも、リヒターには通じなかったらしい。「なんでも言ってみろ」とアンジュの違和感の正体を探ろうと目を細めた。

 たいして宛にもならない言葉でこれから氷の町の氷を溶かそうとする彼を惑わすわけにはいかない、とアンジュはなんでもないと告げ誤魔化しきれないならばと自分に割り当てられた部屋に戻ろうとしたが、リヒターの「アンジュ」という優しくも厳しい声で名を呼ばれ、ぐっと動きを止めてしまう。


「気になることがあるならなんでもいってほしいんだ。解決法に宛があるとはいっても結局俺一人でどうにか出来るわけではないし、直接あの町を見たお前が違和感を覚えたのならばそれを教えてくれ」


 そう言われてしまうと、何も告げないわけにはいかない気がしてしまった。それに、「俺一人でどうにか出来るわけではない」という言葉の意味も気になってしまった。

 自分でもよくわかっていないからあまり気にしないでくれと前置くと、アンジュはゆっくりと口を開いた。


「あの町に近付いたときからなんですけど、寒気以外にこう、気だるさというか気分が悪くなったんです。ユラちゃんが何かに気付いたときが一番でした」

「あのときか……」

「リヒターさんはそんなことありませんでしたか?」

「なかったな。ユラの様子に脅えたわけでは?」

「それはありません。確かにあのときのユラちゃんはいつもと違って少し怖いなと思ってしまいました。けれど脅えるだなんてそんなことはありません」


 首を横に振りきっぱり否定する。それにどちらかと言えばユラが何かに気付くよりも前から「あそこは嫌だ」と不明確な嫌悪感を抱いていた。


「門の前に行ったときはそのときほど気分は悪くありませんでしたが、長居はしたくないなと思ってしまって、リヒターさんの言葉に乗っかる形でこちらに来ることを勧めさせていただきました」

「なるほどな……嫌悪感、か」


 顎に手をかけふむと悩む姿はなんとも絵になる。容姿の整っている人は普通にしているだけでも金をとれるわね、と思わずリヒターを眺めるも、彼は何やら考え事に耽っているようでアンジュの視線には気付かない様子。


「他には?」


 突然リヒターはこちらを向くとそう尋ねた。他になにか感じたこと、だろうか。なにかがおかしいとは思ったが何がおかしいのかわからないし口にすべきでないだろうと思い口を(つぐ)んだが、その様子で気付いたのかリヒターは「アンジュ」と柔らかくも強い調子で名を呼んだ。

 言葉につまったものの、「なんでもいってほしい」と言っているリヒターを無下にするわけにもいかない。さっきよりも曖昧だからと必死に伝え、「なにかがおかしい」とポツリ告げた。


「なにか?」

「何がなのかはわかりません。けれどこう、町に近付くまでに感じた嫌悪感とは別に違和感を覚えました。言葉にし辛いのでどういうことなのか詳しく言えませんけど……」

「そうか。……助かるよ、ありがとう」


 彼のなかでなにか納得するようなことがあったのか深く肯く。

 そんな様子を見ていたら、アンジュの心にぽつんと「どうして何も教えてもらえないのかしら」という思いが生まれた。もちろんアンジュはボーア家から選ばれたただの同行者でしかない。だが、少しぐらい何かを教えてくれても良いのではないか。曖昧だから話したくないということなのかもしれないが、自分ばかりが話をしてリヒターから何も聞けないというのは、寂しい、と思ってしまった。だが同時にそんな自分がいることに驚く。


 何も聞かされないのは、彼なりの理由があるから。


 今までならそう思っていたはず。どうしちゃったのかしら? と首を傾げていれば、「まだ何かあったか?」とこちらに気付いてリヒターが声を掛けてきた。だがさすがにもう何もない。思っていたことといえば何も教えてもらえないことに対する文句……であっているだうか? 兎に角町について考えていたわけではないのでその旨を告げれば、「そうか」とだけ短く返ってきた。

 その一言であたりに静寂が漂う。時折ぱちっぱちっと暖炉の薪が燃える音だけが響き、二人とも一言も発しようとしない。


 ユラちゃんて偉大ね……


 彼女がいるだけで場は明るく盛り上がる。にこにこと笑いながら「アンジュちゃん! リヒター!」と呼びかける彼女は光そのものだと思った。

 そんなことを考えていたからだろうか。気付けばぽつりと、


「リヒターさんとユラちゃんはどうしていつも一緒にいるんですか?」


 という疑問を口にしていた。自分の言葉に自分でぎょっとし慌てて口を押えるも、出てしまった言葉が消えるはずもなくきちんとリヒターの耳に届いていたらしい。恐る恐る彼の顔を覗き込めば、ぱちぱちと瞬きを繰り返していた。


「あ、あのすみません……なんでもないです……」

「気になったのか?」


 言葉を撤回しようとすれば、楽しそうに笑いながら尋ね返す。二人セットなのは暗黙の了解であるとギルド内でも有名だったことを直接尋ねてしまったのにもかかわらず、どうしてそんな表情を見せるのかわからない。が、気になっていたことは事実。小さく首肯すれば、もっと楽しそうに「そうかぁ」とつぶやいた。


 ……違う。

 楽しそうなんじゃない。

 嬉しそう(・・・・)なんだ。


 リヒターは笑っていたが、『楽しそう』という言葉だけで表し切れるようには見えない。

 どうして嬉しそうなのかしら。彼は分からないことが多すぎる。


 そうこう考えているうちに、表情を変えぬままリヒターが口を開いた。


「簡単に言ってしまえば、あいつは俺の護衛のようなものだ」

「護衛、ですか」

「あぁ。その前に、俺が魔術師だって話したことはあったか?」

「初耳です! 剣を下げているのでてっきり剣士とばかりに」


 ギルドは自分の戦い方についての登録義務はない。ただ、登録しておけばその人にあったクエストを発注できるという利点はあるが、ほとんどの人は知られたくないようで登録しているのはほんの一握りのものだけ。ギルド側としては管理体制は万全だと言いたいがこの世に絶対なんて言葉はない。登録すれば記録として残ってしまい、その記録が流出してしまったときのことを考えているらしい。そんなことからギルドも登録を強く推奨しているわけではないので、リヒターやユラも登録していなかったが別段気にしたことはなかった。戦い方を登録していなくともその人にあったクエストを発注するというのが受付嬢であるアンジュの役目だ。


「全く剣を使えないというわけではないが、接近戦よりも魔術の中距離から遠距離戦の方が得意だからな。その関係で護衛を任せている」

「……でもそれって戦いでいっしょにいる理由ですよね? 普段から一緒にいる理由にはならないのでは?」

「まあそうだな」


 しれっと言い切るリヒターに、力が抜ける。別に戦うとき一緒にいる理由なんて気になっていない。二人のクエスト成功率を知っており、今日二人の戦いを見ていたアンジュとしては、彼らが各々の足りない部分を補いあって戦っていることはすぐに分かった。

 自分が聞きたいのは、そういうことではなくて、と口を開こうとするも、突然睡魔に襲われる。疲れていたんだなと納得するもこのままではこの場で眠ってしまいかねない。


「リヒターさん、すみません……ちょっと眠たいので、部屋に………」


 立ち上がろうとすればよろけてしまい、どうしてこんなに眠たいのかがわからない。リヒターの言葉に力が抜けて、それと一緒に気が抜けたのかしら、と検討付けるもそんな場合ではない。部屋に、戻らなきゃ。なんとか立ち上がるも再びよろけ、顔面から地面に落ちそうになった。が地面につくよりも早く何かやわらかいものにぶつかり、視界が暗転する。


「ちゃんと部屋に連れて行ってやるから慌てるな」


 という声を最後に、アンジュの意識は遠のいて行った。

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