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 そして、結婚式当日。


 到底淑女とは言いがたい、にまにまとした笑みを浮かべ、アンジュは姉とそれから彼女に寄り添うように傍にいる姉の夫となる人を眺める。


 場所は姉の控え室。式が始まってしまってはゆっくりと話すことも難しいだろう、とアンジュはユラをつれて姉に会いに来たのだった。

 部屋にはいるなり早々見てしまったのは姉の夫でありまた自分の兄弟子でもある幼馴染み、サイラートが顔を真っ赤にして姉を見つめる姿。きゃっと頬を抑え隣でユラが「お邪魔しました?」と疑問符を飛ばせば慌てたように「問題ないから! 大丈夫邪魔じゃない!」と顔の熱をとるためかサイラートが手で顔を仰いだ。

 相変わらずねぇ、と思いながらも淑女の礼を取り――ただし今日も今日とて服装はラフなワンピース――「本日はおめでとうございます」と微笑んだ。


 だがそんな態度がいつまでも保つはずなく、すぐににまにまとした表情へ。そこで冒頭へと戻る。


「よかったわねサイラート。貴方ずっと姉さまのことが好きだったのにどんなパーティでも、私はコンラッドと踊るからって相手にされず……」

「アンジェリーナさああああん」

「本当に、よかったわね」


 悪戯っ子のような表情でそう告げるアンジュは大変生き生きとしており、ジュリエッタは「まだお転婆はなおっていないのね……」とそっと溜め息をついた。


 同い年の二人であるが、同じ師にサイラートのほうが早くに学んだことで兄妹弟子の関係になっている二人。だが蓋を開けてみればアンジェリーナのほうが一枚も二枚も上手で、いつもこのようなやり取りを繰り返しているのであった。

 それをサイラートの祖父でもある二人の師は「男ならばしっかりせんかい!」と叱り、尚且つアンジェリーナに向かっては「もう少し女性らしくしてはどうじゃ……?」と心配していたことは今ではいい思い出だ――それはアンジュのなかでは、でありサイラートはどう思っているかわからない――。


 そんないじめっこ(アンジェリーナ)とは違い優しき姉ジュリエッタに恋するのも無理ないことだろう。

 だが残念なことに、ジュリエッタは当たり前のことだが、アンジェリーナの姉だった。

 魔術研究をこよなく愛し、「大きくなったら魔術書と結婚するの!」と宣言していたジュリエッタ――ちなみにアンジェリーナは「剣と結婚したいなぁ」と言っており両親が頭を抱えていた――。それゆえにパーティで殿方の相手をするのを面倒と思い、必ず、誰にたいしても、「私はコンラッドと踊りたいの」と弟の傍を離れたがらなかった。サイラートの想いを早々に気付いていたアンジェリーナは、さすがの彼女もそれを不憫に思ったのか、できるだけサイラートが姉の傍に近付けるようにと彼に自分をエスコートさせていた。今となってはアンジュもそれを笑って話せるが、当時はいつもサイラートをいじめているアンジェリーナであったがそれをからかうことはできなかった。むしろ隠れて「かわいそうなサイラート……」と嘆いたことも。従兄のアシェルに相談したこともあったが、「ジュリエッタですからね……」と溜め息をついて終わるばかりで点で話にならなかった。

 そんな二人だったからこそ、姉が結婚すると連絡が来たときは「ついに魔術書と結婚する術が見つかったのか」とアンジュは思ってしまった。二人のことは気になったがこれ以上王都にいてヒロインを殺めてしまえば二人にも迷惑がかかると思いレディレイクに行ってしまったので、全く状況をつかめていなかったのだ。


 そんな話を姉と二人アンジュがユラに聞かせてやれば、「へぇ、やるじゃんサイラートさん」と彼女もにまにまとした笑みを浮かべた。話の主人公とも言えるサイラートといえば「もう勘弁して……」と髪が乱れるのも気にせず頭を抱え込んでしまった。それをジュリエッタが「まぁまぁ」と宥めるので空気が甘くなりアンジュは肩を竦める。


「ご馳走さま。もう、胸焼けを起こしそうだわ」

「あっまーいお菓子は好きだけどここまで甘いと私も胸焼けしてきちゃった。アンジュちゃん、ここらで御暇しよっか」

「そうね、それがよさそう。それじゃあ姉さま、サイラート、またあとでね。本当におめでとう」

「おめでとうございます!」


 二人の言葉にサイラートはもっと顔を赤くし「アンジェリーナなんて嫌いだ……っ」と声をあげ、姉は「ありがとう、楽しんでいってくださいね」とふんわり微笑んだ。


 あれじゃあ主権は姉の手に有るわね、と考えながら姉の部屋を後にしたところで、「……どうして……して…………いの?」「彼女が…………」という男女の声が聞こえてきた。

 隣でユラが「何かあったのかな?」と不思議そうな表情を浮かべアンジュの方を向けば。


「こんな、ところまで……っ」


 顔色悪くしながらも瞳には怒りの炎を浮かべるアンジュの表情が目に入った。

 今にも飛び出していきそうなアンジュの様子に、今騒いでいるのが彼女の婚約者を奪ったという女だということをすぐさまユラは察する。リヒターのいないこのタイミングで出会すとは、と表情を固くするも、それでアンジュが落ち着くはずもないといつも通りの、アンジュが「さすが美少女」と言ってくれる笑みで彼女にの名を呼んだ。


「ユラ、ちゃん……」

「アーンジュちゃん、落ち着いて。お姉さんの折角のパーティだもん。妹のアンジュちゃんが冷静さを欠いちゃだめだよ」


 アンジュの両手を優しく握り何度か揺すれば「そう、ね……」と深く息を吐いた。

 想像以上に、あの女はアンジュに深い傷を残したらしい。

 そのことはユラに怒りの感情を与えたが、ここで行動を起こしてしまってはリヒターの計画(・・・・・・・)に支障が出かねない。計画というほどしっかりしたものではないかもしれないが、彼なりにアンジュを想ってやろうとしていることを突発的な怒りで潰してしまうのは彼に申し訳がない。


 だけど、これくらいなら許してよね。貴方がいないのが悪いのだから


 にぃと目を細めるとユラは再び「アンジュちゃん」と名を呼ぶ。


「あのね、リヒターからアンジュちゃんのこと、聞いたんだ。だからあそこにいるのが誰かってこともだいたい予想がつく。……勝手に聞いちゃって、ごめんね」

「……ううん、もともと話すつもりだったから、気にしないで」

「ありがとう。……それを踏まえて、ね。私が言いたいのはただひとつ」


 アンジュの手から頬へ自分の手をうつし、背伸びをしてアンジュの額にユラは自分の額を寄せる。

 コツンと音をたて二人の額が合わさると、ユラは目を瞑ったまま口許を緩めた。


「私も、リヒターとおんなじ想い。絶対、アンジュちゃんを守るから。だからそんなに怯えなくていいんだよ。怖がらなくっていいんだよ。


 貴女は、貴女らしくしていれば、それでいいのよ」


 最後に頭を撫で、ユラはアンジュから離れる。

 ぽかんと戸惑ったような表情でユラを見ていたが、やがて目を瞑ると、


「私は、私らしく……か」


 と呟いた。その声はどこか嬉しそうで楽しそうで、ユラは満足げに頷くのであった。

どうでもいいことですがひっそりツイッターを始めてみました。

あまり呟いていませんがついつい宣伝。IDは【@25kana_u】です。よければどうぞ。本当に宣伝だな。

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