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 皆が落ち着きそれぞれソファに座ったところで――アンジュはリヒターとユラの間である――、父が「アンジェリーナ」と畏まった様子でアンジュを呼んだ。

 突然どうしたのかしら?と疑問に思いながらも「なにかしらお父様」と返答する。

 父はまっすぐにアンジュをみながら真剣な、それでいてどこか面白がっている表情を見せる。自分の父のことを表現する言葉としては間違っているのだろうが、アンジュは父のことを狸や狐のようだと内心表現してしまった。なんだか化かされそうだわ、ということである。

 残念ながらその勘は当たってしまうのだが―――知らぬが仏、である。


「ジュリエッタのパーティだが、エスコートはどうするつもりだ?」

「どうするって、サイラート……さまは姉さまのお相手だからもう頼めないし、コンラッドに頼むつもりだったのだけど」


 恋仲というわけではないが、幼い頃からの付き合いであるサイラート。幼馴染みであるためについ呼び捨てにしそうになったが彼は今は姉の婚約者。私的な場であってもリヒターやユラがいる以上馴れ馴れしい態度はあまり好ましくないだろう。ついでに言えばサイラート、と呼び捨てにしようとしたところ母にぎろりと睨まれた――後者の方が重いだなんて言ってはいけない――。

 姉と婚約するまではずっと彼か、もしくは弟にエスコートを頼んでいたため名を出したが、パーティの主役の片割れ、姉の夫となるサイラートは当たり前のごとく頼めない。

 姉が婚約するまでは姉が弟とパーティに出席したがったためアンジェリーナは滅多になかったが、今回コンラッドはフリーのはず、と彼の名を出すが……。


「アン姉上、ジュリ姉上の婚約で言い忘れていましたが、俺も婚約したんです」

「そうだったの! 早く言わなきゃわからないでしょう、おめでとうコンラッド。お相手はどちらの方?」

「ノーブル家のローズマリー嬢です」


 ノーブル家といえば国内三大貴族と呼ばれるオルフィーユ以上の名家。ローズマリーはアンジュの記憶違いでなければノーブルの長女であるはず。

 記憶を手繰り寄せるアンジュをよそに隣のユラは笑みを浮かべ「おめでとう弟くん」と言い、逆隣のリヒターは「ここで繋がるのか」と一人ごちる。リヒターの言葉の意味がわからずどういうことか尋ねようとしたが、それよりも先に父が口を開いた。


「そういうわけだ。正式な発表はまだだがコンラッドはローズマリー嬢のエスコートをすることになっているからお前のエスコートはできない。だからな」


 一度言葉を区切ると、父はリヒターの方を向く。

 まさか、とアンジュもリヒターの方を向けば、彼もまたこちらをみている。その表情はアンジュと同じくまさかと思っているようにも見える。


「リヒターくんに頼んでおいたから安心しなさい」

「嘘! 絶対に頼んでいないでしょう!」

「アンジェリーナ、父に向かって嘘とはなんだ」

「嘘だと思うからそういったのよ見てくださいなリヒターさんのこの表情! 絶対なにも聞かされていないでしょう!」


 まったくもう、と怒り出すアンジュをみてリヒターはこんなに無理矢理やったら怒るのも無理ないだろう、と表情をできるだけ平常状態に戻す。オルフィーユ当主の目的が読めない以上、何事も冷静に判断しなくてはならない。


 すると、黙りを決めていたオルフィーユ夫人が、その場の空気を壊すように冷めかかった紅茶を一口啜り口を開いた。


あの男(・・・)がパーティに出席するそうよ」


 その言葉にアンジュは父への文句を中断し、母の顔を凝視する。「嘘……」という声に先程のような覇気はなく、瞳もどこか不安げである。ユラが心配そうにアンジュの顔を除き込むがそれに気付かないほど母の言葉に疲弊したようだ。

 大丈夫か? そう尋ねようとしたのだが……。


「リヒターさん。お願いがあるんですけど」

「……改まって一体どうしたんだ」


 リヒターの方に向き直るとアンジュは真剣な表情を見せる。彼女の家族はそれを見守るばかりでなにも口を挟まず、またユラも普段の騒がしさが嘘のようにだんまりを決める。

 だがアンジュはそれらに気付いた様子はなく、ただ自分の中で何か決心したのか拳を強く握り占めた。


「私と、パーティに出席してください。なんだったらギルドを経由して依頼を出してもいい。私は、あの男の……あの者たち(・・・・・)のいる場を、冷静に過ごせる自信がない。それに……」


 言葉にしたら少しばかり余裕ができたらしい。真剣な表情を緩めると、再び口を開く。


「あの者たちに、私はこれだけいい人を見つけたのよって見返してやりたいの。私の我が儘に付き合ってもらえないかしら」


 リヒターはすぐにその言葉の意味を理解したが、それをアンジュは知らない(・・・・)


 さすがは、オルフィーユを一代で三大貴族にも並ぶといわれるほどにした手腕の持ち主だな。


 男のことを持ち出したのは夫人であるが、その話に持っていく流れを作ったのはオルフィーユ当主。この夫婦だけは敵に回したくないな、と顔に出さぬよう注意しつつ思うと、困惑したふりをしてリヒターは返答するべく口を開いた。


「パーティに出席することはアンジュやジュリエッタ嬢が構わないのであれば俺は何も言うことはないが……いったい、どういうことなんだ? さっきからあの男だのあの者たちだの言っているが、さっぱり意味が分からん」

「あらいやだ私ったら。ちゃんと説明していなかったわね」


 口元を抑え、はたと気づいたらしい。恥ずかしそうな表情を見せるアンジュはユラに劣らずかわいらしかったが今それを言うのは場違いのため黙って彼女の次の行動を待つ。

 だがそれよりも先に、


「ここから先は長くなりそうだし、私たちは退席するとしよう。ジュリエッタの式の準備もまだ残っていることだ」


 というオルフィーユ当主の言葉にそれもそうだとアンジュの家族は席を立つ。この場においては(・・・・・・・・)一番身分の低いリヒターとしてはそれを座ったまま見送れるはずもなく、彼らに倣ってソファから立ち上がれば、「リヒターくん」と当主に手招きをされた。


 なぜ娘である自分を呼ばずリヒターを呼ぶのかわからないアンジュだったが、父の行動を読めないのはいつものことなので、そのまま席から動かず冷めた紅茶を啜った。


 アンジュに聞こえぬよう、彼女に背を向けた状態でオルフィーユ当主は「これならば文句はないだろう?」と小声でリヒターに囁いた。彼のそんな言葉にリヒターは肩を竦めると「無理やりでないとは否めないと思いますが」とせめてもの抵抗を見せた。

 だが当主はそれを笑うと、


「少しぐらい無理やりなところがなくては貴族の当主は務まらんよ。それは、貴方(・・)だって分かっているでしょう」

「…………さて、な」


 一番聞かれたくないアンジュには聞こえていなくとも、この声が聞こえるものはいる。

 ユラは二人のやり取りを優れた聴力で漏れなく聞くと、「何をやっているんだか」と呆れたように小さく呟いた。二人の会話をユラが聞き取ることはできても彼らにユラの言葉は届かない。だがすぐ隣のアンジュには聞こえてしまい「なにが?」と尋ねられた。にっこり笑って「なんでもないよ」と誤魔化すと、ユラはそのまま立ち上がった。


「私用事があるからちょっと出かけてくるね。リヒター、ちゃんとアンジュちゃんの話聞いてあげるんだよ!」

「当り前だろう」


 ユラが誤魔化している間にリヒターと父の話は終わっていたようで、部屋にはアンジュ・ユラ・リヒターの三名のみ。

 アンジュとしては二人に話をするつもりでいたので驚いていたが、リヒターはどうやらユラが出かけることを知っていたようでいつも通りの表情を浮かべるばかり。


 満面の笑みを浮かべそのままユラは退室していき、アンジュは扉を眺めていたが、立ち続けているリヒターに先程まで父たちが座っていたソファを勧めると、


「なんだか、お父様にしてやられたようだわ」


 とひとりごちる。

 あながち間違っていないが、それを認めればどういうことかすべてを説明しなくてはならないのでリヒターは黙って聞かなかったふりをした。


 ぐちゃぐちゃといとが絡まったようだとは、果たしてどちらの考えか。

 私の考えですけどね。

 いろんな思惑が交錯して読みづらくなってしまいすみません……。だんだん私もわからなくなってきた

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