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四、

書き溜めはもうありません。 このまま失踪する可能性が大きいです。


週が開けた月曜日。この日から、大和が今までに味わった事のない毎日が繰り広げられることになった。



眠気と怠さによっていつもより何倍も重い玄関のドアを開けると、そこには巫女姿…ではなく制服姿の夏穂がそこにいた。


案外自分は巫女姿の夏穂が好きなのかもしれないと変な事を考えながら挨拶をした。


話を聞いてみると、こんな感じだった。

巫女の仕事があるため朝は早く起きている。

毎日、他の生徒よりも早く学校に行っているが、化け物が心配だから大和と一緒に学校に行こう。

家はこの道を毎日通っているから分かっていた。




大和はいつも皐月を自転車の荷台に乗せて学校に行っていたが、今日は夏穂が歩いてきたので自分も歩くことにした。


そうすると怒る人…鬼が約一名。


歩いて夏穂と会話をしながらその隣で文句を言われる。


…忙しい通学だった。




昼休み、昼食はいつものようにパンで済ませようと購買ので買った。 教室に帰る途中、皐月に屋上で食べようと言われたので、屋上へと向かった。


もう少し経つと気温が高くなり、とても屋上で食べる気分にはなれないだろう。

だからこそこんな屋上日和を逃すのはもったいないかもしれない。

それに屋上は意外と人気が無いので昼休みですら人が殆どいない。

このところ機嫌が悪い皐月も喜んでくれるのではないかと考えた。


…しかし屋上には先客がいた。見える範囲では一名。

屋上へのドアを開けると先客の顔が見えた。偶然にもそこにいた一名は夏穂だった。

こんな偶然あるものなのかと皐月の方を見ると…やっぱり偶然ではないようだった。


「あら、偶然ね」


わざとらしく驚いた鬼が気配を察知できる事をすっかりと忘れていた。


「え、大和さん?」


すぐにこちらに気づいた夏穂は、右手に箸、左手に弁当を持ったまま立ち上がった。


軽く右手を降りながら夏穂と座っているベンチへと向かう。


「隣いいかな?」


「ああ、どうぞどうぞ」


ベンチに座る際に周りを見回したが、ここには2人…いや皐月を入れた3人だけらしい。


「大和さんのお昼はいつも購買のパンなのですか?」


袋の中を覗きながら言ってくる。


「基本的にはそうだよ。別にパンが好きな訳じゃないけど安いからね」


「パンだけじゃ健康に悪いですよ?」


「俺もそう思うからちゃんと野菜ジュースも買ってあるんだよ」


「そうですか…」


夏穂は膝に乗っている弁当をつつき始めた。


大和も袋からアンパンを引き出し、ラップを剥がして齧ぶり付いた。


咀嚼しながらアンパンを見つめる。これが前に食べた大きなおにぎりだったら嬉しいな。…そんな事を考えながら。


「それをちゃん夏穂ちゃんに伝えないとダメよ?」


顔に出ていたのだろうか。それとも鬼にはそんな能力もあるのだろうか。


「顔に出ていたからよ」


また読まれてしまったようだ。

自分はどのような顔をしているのか調べる為に頬を触っていると、今度は夏穂が口を開いた。


「大和さんはいつも屋上で食べているんですか?」


「いや、いつもは教室なんだけど天気がいいから来てみたんだよ」


「私も今日はたまたまです。偶然ですね」


「はは、そうだね」


偶然だとは少しも思わなかった。

これは鬼が仕組んだ必然なのだ。


「ところで大和さんは私の事を以前から知っていましたか?」


噛んでいたアンパンを呑み込んでから言った。


「えっと、実は知らなかったよ」


「そうなんですか…私は何回か見た事ありますよ」


なるほど会いに言った時に名前を知っていたのはこの為だったのか。


「えっと…その時…壁とお話をしてました…」


夏穂はゆっくりと弁当から視線を離し、大和に合わせてきた。


ひやり、と背中が冷たくなるのを感じた。


額から滲んできた汗は暑いからではないだろう。


「壁とお話ってどういうことですか?」


「別に隠さなくていいですよ、これでも巫女の端くれですからね、姿は見えなくても気配くらいは感じてしまうんですよ、今もそちらにいらっしゃいますよね?」


夏穂が人差し指で示すその場所には確かに皐月がいる。


「…」


皐月のことを話してしまおうかと考えながら皐月の方を見ると、


「別に話しても構わないわ」


爪を気にしながらそう言うのでもしかしたら皐月も気づいていたのかもしれない。


「ええ、そことおりです。今横にいるのは皐月っていう鬼です」


「鬼…ですか。その皐月さんは女の方なんですか?」


「ええ、そうです。皐月は一応女です」


「一応ってなによ?」


鋭い目で大和を睨みつけてくるが、大和は気にしない。


「仲がいいんですね…どれくらい一緒なんですか…」



「えっと大体…」


「…」


キーンコーンと昼休みを告げる鐘が鳴った。鐘のせいで聞こえなかったのかもしれない。


「大変、もうこんな時間ですね、急いで戻りましょう」


そんなセリフを言っていたが全く急いでいない。


ゆっくりと弁当を片付ける夏穂は、校庭で散っている桜の様に儚く見えた。


「さあ、戻りましよ」


夏穂が校内へと続くドアを開けると教室へ戻る学生達の足音や、話す声が聞こえて来た。


「大和さん…」


ぴょんぴょんと階段を降り、トンと踊り場に両足で着地するとくるりと此方へ振り向いた。


「あんなお昼ご飯じゃ栄養が足りないですよ!」


「え?」


意外は話題が出てくきて思わず目を見開いてしまった。


「あんなんじゃ体調を崩してしまいます。私を見張っていたせいで倒れたなんて許しませんからね」


「ああ、気をつける…」


よ、と言い終わる前に夏穂の声に遮られた。


「気をつけるって言っても野菜ジュースが一本増えるだけじゃないですか?それじゃダメですよ!」


「…」


大和は話が分からず黙ることしか出来なかった。


「ですから明日から大和さんの弁当を作ります」


「えっ?」


またも意外すぎて口を開けてしまった。


「大和さんの分も作るので体調を崩しても私のせいにしないで下さいね?」


「えっと」


「ね!」


疑問ではなく強調だったので、なにも考えずに、


「…ハイ」


と答えてしまった。

その答えを聞くと夏穂は笑顔を咲かせた。


「では、楽しみにしていて下さいね!」


そう言って階段を走って降りていった。


「よかったわね」


「ああ」


弁当を作って貰える事は嬉しかったが、素直に喜べなかった。


何故なら…走り去って行く夏穂に潜む化け物の黒い影が此方を睨んでいたから。


「直ぐに退治してやる…」


そんな事を言いながら拳を握ったのだった。


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