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同じ碧の髪、赤い瞳 同じ燐光、同じ道(6)

兄が自分を置いて去ってしまってから…陰鬱とした日常を送った。

母と一番上の兄の、自己完結した円環の世界。

それは以前から同じだったことだけど、自分と共にいてくれた兄の存在のない今は、なおさらに自分の絶望を生んだ。

けれども、しばらくたった頃。

差出人の書かれていない、真っ白い封筒が自分のもとに届いた。

丁寧に書かれた宛名を見ただけで、すぐにわかった―



ああ、兄さんは、僕を忘れてはいなかったんだ!



母にではなく一番上の兄にではなく…自分に、だけ。

その手紙は短いものだったけれども、思いやりにあふれていた。

読みながら、泣きじゃくったのを覚えている。

懐かしい兄の字を、かみしめるように何度も何度もたどりながら。



兄さんは僕を見捨ててはいない。

きっと、この世界の何処かで、あの金色の女戦士とともに戦っていながら…それでも、僕のことを覚えていてくれる!



それからだった。自分は、随分と変わったように思う。

いつも兄の後ろに隠れてしか行動できなかったほど臆病だったけど、勇気を出して、自分から行動することを覚えた。

自分から話しかけるようにした。自分から動くようにした。

だって、兄さんはここに今はいないけど…いつかきっと、会えるから。

僕のことを忘れていないのなら、いつかまたきっと会いに来てくれる…

その時に、情けない姿なんて、見られたくない。

そうすると、不思議に、周りの人たちも…自分に対して、よくしてくれるようになった。

友人もたくさんできたし、毎日が楽しくなった。

使用人たちも、いつも泣いてばかりいた引っ込み思案の自分が積極的になったことに驚き、そして喜んでくれた。

…あの、母と長兄だけは、変わらなかったけれども。



律儀に、3か月ごとに、一通。

兄の手紙が、自分にだけ届く。

傷つき、揺らぎ、それでも戦いの道を選び、己を鍛え、生きていく…

手紙につづられた兄の思いを追いながら。

心の中で、呟いていた…

「兄さん、僕も頑張ってるよ」、と。



けれども。

兄から送られた封書が、手紙箱からあふれそうになった頃に、少し事態は変わった。



母が、急逝した。



病に倒れ、あっという間に衰弱し、そして…みまかった。

高熱にうなされながら、彼女は何度も何度もうわごとで名前を呼んでいた。

…父の名前、だけ、を。



光を失った瞳は、もう何も見ていなかった。

いや、見ていたとしても…きっと死んだ父しか見ていなかったんだろう。

一番上の兄だって、本当は見ていなかったのに違いない。



母の葬儀を終えた、その夜。

自室で、兄の手紙を読み返していた、その時―

唐突に。

何かが、自分の中に、ともった。

それは、本当に突然で。

とくん、と、心臓が強く脈打つのを感じ、立ち上がる。

息を吸う。

息を吐く。

そうしろ、なんて、やり方など、誰からも教わっていなかったのに。

ああ、けれども、わかる。

息を吸う。長く。

そして、いったん止める。

瞳を閉じ、意識を集中させて―


吐く。


力が、身体の中心から、一挙に指先つま先まで貫く。

姿見に映る、自分の鏡像が…銀色に、輝いていた。

もちろん軽く驚いたけれども、それよりも強く強く自分のこころを満たしていったものは、強烈な喜びだった―



ああ。

兄さん…

やっと僕も、兄さんのところへ行けるんだ!!



僕は、15歳になっていた。

そうして、兄をようやく取り戻しに行けるようになった。



家を出る、と告げた自分に、家督を継いだ長兄は、ただあっさりと言ったものだ。

「…後から思い直しても、この家にもうお前の居場所はないぞ。

あいつと同じようにな!」

まとわりついた贅肉を揺らしながら、そう言って下品に笑った。

…同じ碧の髪、赤い瞳。

反吐を吐き捨てたくなるような事実。

ああけれどもそれがどうした?

こいつとは、「ただ血がつながっている」だけだ。

それが証拠に、ほら…こいつは、あの銀色の光を纏う力すらない!

「…構わないよ、『兄さん』」

その男をもう二度とそう呼ぶこともないだろう。

その男をもう二度とこう見ることもないだろう。

決別の意思を込めて、強く強く込めて、自分は彼をそう呼んだ。

そう、これが最後だ。

そう呼ぶべき人は、最早自分には一人しかいない。

あの白銀の光を纏った「撃退士」となって、今は日本で戦っている…

血を分けた、けれどもわかりあうこともなかったそれに背を向け、自分は日本に旅立った。



同じ碧の髪、赤い瞳。

そして、白銀の燐光を…天魔を滅することのできる力も、同じ。

だから、自分も選ぶ、同じ戦いの道を。

共に戦う、同じ輝きを纏って―





だって、自分たちは兄弟なのだから。





そのために、自分はやってきた。

この、久遠ヶ原学園に。






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