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同じ碧の髪、赤い瞳 同じ燐光、同じ道(5)




兄が姿を消したのは、それから…三日目のことだった。



あの日から、妙にそわそわしていたのをよく覚えている。

そして、どこか遠くを見ているような目…

もちろん、呼べば答えてくれたし、笑いかけてくれた。

それはいつも通りのやさしい笑み。やさしい兄。

けれども、不意に来る瞬間…

兄は、急に黙り込み、自分の中に沈み込む。

そうして、目を伏せ、何事かを考え込んでいた。

その度に不安になった。

やっぱり、あの時から…あの金色の女性に会った時から、兄さんは何処かおかしい、と。

それでも自分は信じようとした。

もうあの狼の悪魔はいない、あの女戦士もいない。

この街にはいないんだ。

だから、もう、何も心配することはない。

平和でそして何処か歪んだ、いつも通りの日常がこれからも続いていくのだ…




だが。

あれから三日目の朝。

兄は、屋敷から姿を消した。

朝、自室の机の上に残されていた、短い…短すぎる書き置きだけが、兄の意思を伝えていた。

ざわざわと胸の内に膨らんでいく違和感が、その時にはっきり形を成した。




短い、短すぎる書き置きには、自分に対する詫びの言葉もあった―


「レグルス、お前を置いていくことになってすまない」と。




ああ。

自分は、兄にも、捨てられたのだ―




母は冷淡だった。というよりも、むしろ、無関心だった。

警察に届けようともしなかった。

「家名に傷がつく」などと言って…

母は、貴族としての対面の方を、兄より優先したのだ。

けれども、これは驚くべきことには当たらなかったのかもしれない。

…彼女には、一番上の兄さえいれば事足りるのだから。

一番上の兄も、同様で。

「まあ、そのうち帰ってくるだろうさ」などとうそぶくだけ…

兄のことを案ずるそぶりすら、見せなかった。

むしろ使用人たちの方こそが、兄を探そうと必死になってくれていた。

けれども、自分は思っていた…

見つかるはずがない、と。

兄は、あの金色の女性に連れられて、行ってしまった。

遠い遠い所へ行ってしまったのだ。

あの、銀色の燐光が、連れて行ってしまった。

きっと兄は、あのバケモノと戦うようになるのだ。

金色の女性がそうしたように…

兄が時折見せてくれた、そして狼を一瞬でもひるませたあの銀色の光は、その闘うための力なのだ…


鏡を見る。

映るのは、碧の髪、赤い瞳。

兄と同じ色、血を分けた同じ色…

ああ。なのに。

自分は、もう、追いつけない。

自分には、あの銀色の光が、ない。

だから追いつけない。追いかけていけない。

兄弟なのに、自分の兄さんなのに。

その日、自分は涙が枯れるほどに泣いた。

本当の家族を、失ってしまったから…




そうして、10歳の夏。

自分は、兄を失った。




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