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同じ碧の髪、赤い瞳 同じ燐光、同じ道(1)





母に抱きしめられたという、記憶はない。





物心ついた時から、どうやら自分の家族は何かが歪んでいる、と感じていた。

父は写真の中で笑んでいるその姿しか知らない。

自分が生まれる前に事故でこの世を去った、と。

母の心が砕けたのは、おそらくその時から。

母は、父親の跡を継ぐべくして生まれた長男…一番上の兄のみを溺愛した。

それこそ、全ての愛情と時間を捧げて。死んだ父の代わりのように。

すぐ上の兄、それに自分のことは見向きもしない。

まるで、透明人間のように―

自分たちだって、彼女が生んだ子どものはずなのに。

それでも家庭が瓦解しなかったのは、ただ、裕福だったから…それだけだ。

もし、貴族の家でなかったら。金銭的な余裕が相当になければ。

もっと早くに、こんなぐずぐずにもろい関係なんて、砕けていたのだろう。

何人もの使用人が自分たちの世話を焼いた。放棄した母の代わりに。

彼らはとてもやさしかったし、それに感謝してもいる。

だが、生きてそばにいるはずの母の愛情…世間一般、たいていの家では子どもは普通に享受できるだろうそれを得られなかったことは、やはり自分の心に影を落とす。

長兄をやさしく抱きしめ、いとおしげな瞳を一心に注ぎながら甘い声で話しかけている母と、それを当然のように受け止める長兄…

家の中で普通に目にするその光景は、日常で。

だからこそ、自分は何も思わなくなったけれども…異様だったのだろう、きっと。


それでも、自分は耐えられた。


いや…

家族が壊れなかった、自分が壊れなかった理由。

それは何より、すぐ上の兄がいてくれたからだ。

5つ違いの兄。

やさしくて、頼りがいがあって。

自分だって母親の愛情に飢えていたはずなのに、それでも自分をいつでも気遣ってくれた。

遊びに連れ出してくれ、何くれなくかまってくれた。

母がかけてくれない愛情を、兄がかわりに与えてくれた。

だから、自分はいつでも兄について回っていた。

同じ碧の髪、赤い瞳。

自分たちはいつも一緒にいて、同じものを見ていた。


時々兄は不思議な力を見せてくれた。

夜、暗闇の中。

瞳を閉じた兄が意識を集中すると、その全身を銀色の光が包み込む…

まるで、燐光のように。

自分はそれが何なのかわからなかったし、兄も自分のその力が何なのか知らなかった。

それはとても綺麗だった。

人を魅了する、不可思議な白銀の輝き―




けれども、その力が。

その白銀が、兄を連れ去ってしまったのだ。

あの日。

天魔が街を襲った、あの日。

そして、あの金色の女戦士があらわれた、あの日―





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