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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第三章
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第五話


 攻撃スキル!?

 セリアは驚愕する間もなく信じられない光景を見た。

 両手で大剣を構えたコウトの体が、二つ、三つに分裂した。厳密には薄い残像エフェクトを左右に発生させたのだ。

 そしてその刹那。

 交錯した三つの大剣が、三方からセリアの体を捉えていた。 

 一瞬で肉薄した超速の刃は、ギャギャギャギャと激しい不協和音を奏でながら次々にセリアを切り刻んでいく。

 敵を連続で何度も斬りつける乱舞技。それは奇しくもセリアが発動するはずだった技と同系統のものだった。

 セリアの視界全体に吹き荒れる剣閃の嵐。みるみるうちに彼女のHPバーは減少していく。

 しかし攻撃の手は止まない。歯車の咆哮は続く。それまで溜め込んでいた行き場のないエネルギーを、全て放出するかのように。


 


 コウトの持つ大剣の正体は加速剣アクセルブレード。

 武器固有のオートスキル『可変速剣技トランスミッション』を持つユニーク武器だ。

可変速剣技トランスミッション』はターンが経過するごとに武器の破壊力が上がる。ロー、セカンド、サードという具合に、歯車の回転が加速し攻撃スキルが変化するのだ。

 Sランクの強力な武器ではあるが、一速の状態ではスキルの威力はロングソード以下なので使いどころは難しい。

 運良くウェポンロトリーから入手したものだが、一度だけ試しに使って以来これまでに実戦で使用したことはなかった。

 コウトが発動した『アクセルバースト』はそれまでの強化分を全て開放する大技。発動後ギアは一段目に戻される。

 五速ともなるとそれだけで相当な威力・命中になるが、コウトはさらにそのタイミングで『神の腕』を使用し、アクセルブレードにサポートスキル『トリプルアーツ』を付加し作り変え発動した。

 『トリプルアーツ』を使用した場合威力は約2、5倍まで跳ね上がる。

 『アクセルバースト』を『トリプルアーツ』で発動するというのは、『『神の腕』抜きでは絶対にあり得ない組み合わせ。

 コウトは『神の眼』でセリアの発動スキルを観察しつつ、自分の攻撃スキルをシュミレートし機会をうかがっていたのである。



 

 やがて、けたたましいギアの叫びが止んだ。

 と同時に、セリアの視界は暗転していった。





「さあ、フルオープンしろ。持ってる物全部よこせ」


 セリアは座り込んだまま顔をうつむかせている。握り締めた拳がぶるぶると震えていた。


「ほら、負けたら何でも言う事を聞くんだろ?」

「くっ、こ、この、……」


 敗者にも全く容赦のない口ぶり。セリアは顔を上げキッと睨みつける。

 しかし自分は負けたのだから、反論しようにも言葉が出てこない。それどころかかつてない屈辱に、喉は詰まり目頭が熱くなる。


「……うわっ、泣いてんのかこいつ」

「泣いてない!」


 セリアは瞳に涙をいっぱいにためながら、声を振り絞るように否定した。真っ赤にした顔を逸らして目元を拭う。


「マジかよ……。なにか痛い視線を感じる……」


 いつしか遠巻きに数人の観戦者が現れていた。詳しい事情を知らない彼らには、勝者が敗者にムチを打っているようにしか見えない。


「なによ……、あんなの、あり得ないわ……、あたしが一撃で……、絶対インチキよ……」

「さっきの武器は試しに使ってみただけだ。まあいい実験にはなったが」


 『神の腕』をうまく使えば、他の武器だって方法はいくらでもある。しかしステータス異常を狙うだとか、かなりエグいやり方になるかもしれなかった。

 セリアが一向に腰を上げないので、コウトはやれやれと肩をすくめ、


「しょうがねえな……、じゃさっき使った武器だけでいい。それでカンベンしてやる」

「は、はあ!? あれはダメに決まってんでしょ! ふざけんじゃないわよ、このバカ!」

「どう見てもふざけてんのはお前だろ」


 やはり時間の無駄だったか。半ばこうなる事を予測していたコウトは、うずくまったままのセリアに捨て台詞を吐いて歩き出した。


「あーもういい、じゃあな、口だけのウソつき女」


 その時、ちょうどこちらに歩いてきたフィーネと目があった。


「ダメだよ、女の子泣かせたら」

「あれは女の子って感じじゃねえだろ……。お前、見てたのか」

「えっ、……ううん、今来たところ。なんか……、勝っちゃったみたいね」


 フィーネはとっさに嘘をついてしまった。彼女は一部始終を見届けていたのに。

 彼女の中でコウトは、うだつのあがらない低レベル冒険者のはずだった。しかし今さっき彼が見せた戦いは、素人目にもはるか高次元のものだということが見て取れた。

 これまで見たことのない彼の側面。

 コウトのことをやっと理解し始めていたはずなのに、それが全て自分の勝手な思い込みであったかのように感じた。

 そしてその事実を認めたくない自分がいるのに気付き、フィーネはひどく動揺していた。

 

「い、いやあ、あのセリアって人も、あんまりたいしたことない……」


 言いかけ、ふと視線を感じて振り向くとセリアが離れたところからギラリと鋭い目を光らせていた。

 

「あ、やばっ」

「目を合わせるな、無視しろ」


 あの女とはもう関わり合いになりたくないと、コウトは身を翻し再びクエスト会場へと足を向けた。

 その時近くからパチパチパチ……と拍手しながら彼の行手をを遮るようにひとつの影が立ちふさがる。


「いやあ、素晴らしかったです。まさかの逆転劇」


 どうやら戦いを見ていた観客の一人らしい。すらりとした長身の青年。彼は金色の髪の下で微笑を浮かべながら一方的に話し出した。


「あっと失礼。僕はロシュって言います。よければちょっとお話をさせてもらいたいなあ、なんて」

「悪いが、俺から話せることは何もない」


 おおかたさっきの武器は、だのスキルは、だとかいった類の情報を聞き出したいのだろう。

 たしかにデュエルに勝った時の勢いで、調子に乗って講釈を垂れ始める連中は少なからずいる。しかしコウトにしてみればそんな行為は愚の骨頂。

 一言発し、するりと横をすれ違ったその間際。


「創造の力……。なんでそんなに自分を縛ってるのかな?」


 かすかに聞こえた、そう囁く声。

 コウトは、はっと顔を向ける。

 しかし青年の姿は消えてなくなっていた。最初から、そこには何も存在しなかったように。

 コウトはすぐさま背後のフィーネを振り返った。


「……さっきのヤツ、見たか?」

「え? 誰のこと?」

「……いや」


 コウトはフィーネの不思議そうな顔を見て、それ以上尋ねるのをやめた。

 きっと錯覚や幻の類だ。そう思い込もうとする反面、彼はえもいわれぬ不吉な予感に襲われていた。



◇◆◇◆◇◆



 城門付近は、クエスト参加を待つ者達の群れによりさらに人の密度が上がっていた。

 アランはその人垣から少し距離を置いて、目立たないように佇んでいる。すぐ横にはリィナの姿もあった。

 周囲の騒がしさとは対照的に二人の周りには沈んだ空気が流れていた。


 二人の沈黙の原因は、つい先ほどラーナキアの元騎士だという男性と接触したことにある。

 アランとリィナの姿を認め、わが眼を疑うようにして近づいてきた壮年の騎士。

 彼は瞳を大きく開き二人を交互に見比べると、疲れた顔を一気にほころばせ感激の声を上げた。


「ま、まさか……アラン様にアイラ様……!? よ、よくぞ……ご無事で!」


 そこには非難の声でも怨嗟の声でもない、純粋に二人の無事を喜ぶ姿があった。

 ひとしきり嬉声を上げた後、男はこれまでの経過や、自分達の現状を話し出す。アランは短く相槌を打つだけだったが、明らかに困惑していた。

 騎士の勢いに飲まれ、リィナはしばらく自分は他人の空似で全くの別人だと言い出せずにいたが、そんなアランの様子を見てついに、


「あっあの! ご、ごめんなさい! わたし、王女なんかじゃないです! た、ただの家出……、いえ、ぼ、冒険者です!」


 そう叫んでいた。

 しかし男はすぐには信じない。一瞬表情が曇ったが、何も聞こえなかったかのようにアランにすがりつく。


「アランさま、是非ここは、勇者の力で、城の奪還を!」


 男の必死に懇願する姿は、当事者ではないリィナでさえも、一種狂気のようなものを感じた。

 結局リィナが名前などの基本情報をオープンして、赤の他人である事をじっくり説明するハメになった。

 すると男は、憑き物が取れたように力なくうなだれ謝罪の言葉を口にした。


「す、すまん……、人違いだったようだ。まさかお二人を他人と見間違うなど……。オレはどうも疲れているようだ……」


 そう言って、ふらふらとおぼつかない足取りで去っていった。

 アランはついに自分が本物の王子であることを口にしなかった。

 リィナも自然とアランを察し、口出しせずにいた。そしてただ沈黙が残る。

 だがリィナはどうしても尋ねずにはいられず、ついに沈黙を破った。


「アランさんは、勇者が嫌いなんですか?」


 彼女なりに考えて選んだ言葉だった。さっきも「勇者の力」と言われた時、アランの体が不自然に反応する所を見てしまったのだ。


「自分は勇者であることを宿命付けられていた。嫌いとかどうとか、そういう次元じゃない」

「でも、今はそういうわけじゃないですよね?」

「聖剣を使えない……、つまり勇者でなくなった自分に価値はない。彼らは……、そんな自分など求めていないんだ。もはや自分が王子と名乗る事もおこがましい」

「勇者でなければ価値がないなんて……、それは違いますよ」

「違わない。いっそセリアのように罵ってくれた方が楽でいい」

「もう! そんなことばかり言ってるから、コウトさんだって呆れてるんですよ?」


 頬を膨らませるリィナ。

 なぜか妹にそっくりなこの娘のそんな顔を見て、アランは幼い頃のいつかの似たような場面を思い出していた。


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