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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第三章
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第一話

 ラーナキア城までやってきた俺たちを待ち受けていたのは異様な光景だった。

 城下町を囲う城壁の周りにはテントや仮設の建物がひしめき合い、がやがやと大勢の人で賑わっている。

 地面に敷かれた絨毯の上にアイテムを広げて売り買いをする商人風の者もいれば、ものめずらしそうに露天に足を止める冒険者たち。

 これらはドーンゲートの商店街でも見られる光景ではあるが、それでも大きく違うのが城下へ続く門から伸びる数人の列。そしてそこかしこに張り出された「魔王討伐クエスト開催中!」の横断幕。まるでどこかのお祭り騒ぎのような様相だった。 


「しっかしすっごいねー、この人たちどっから沸いてきたんだか」


 フィーネが周りを見渡しながら驚嘆の声を上げる。 

 こいつがなぜ一緒にここにいるのかは、説明するのも面倒だ。目ざとく見つけて強引についてきた、ただそれだけだ。

 

「わぁ、なんか見たこともない色の宝石が売ってますよ! コウトさん、あれすごい力を秘めてるんじゃないでしょうか?」

「あんなゴミアイテムいらねえよ」


 リィナがやや興奮した面持ちで並べられたアイテム類に目を輝かせている。

 高司祭の娘だかなんだか知らんが、こいつは異常に金遣いの荒いことが発覚した。金銭感覚が麻痺しているというかないに等しい。

 そんなリィナを横目に、俺はやや呆然とした面持ちのアランに目をやる。アランは人目を避けるようにターバン帽を目深に被り、ブロンズ色の髪と瞳をわずかにのぞかせている。憎たらしいほどに整った顔立ちをしているかつての王子は、より一層無口になりここに来てからずっと戸惑いを隠せない様子だった。


 ラーナキア城には魔王がいる。

 俺たちはラーナキアに入る国境の町ナサルでそんな噂をすでに耳にしていた。そして魔王討伐クエストとかいう俺も全く見に覚えのないものが始まったということも。

 百聞は一見にしかず、と足早にやってきたわけだが、事前に聞いていたとはいえアランのこの態度も無理はないだろう。

 没落貴族の墓での一件から一週間後、俺たちはドーンゲートを出発しラーナキアへと向かった。アランはその間断罪騎士団の世話になっていたが、裏でロイドの手回しもあり異例の速さで罪人スキルの浄化措置を受けた。もともとそこまで高レベルではなかったことも一因ではある。

 断罪騎士団といえばシュウがロイドの口車に乗せられて入団させられていた。「オレも足手まといになるだけは勘弁だからな、望むところだぜ」などと言っていたが、いきなり長期にわたって拘束される訓練に入る事を聞かされておらず都合がつかなかった(そのまま音信不通になった)ため今回は不参加となった。今頃過酷な訓練に耐えているのだろうか、バックれてふて腐れているかまあ確率は半々だろう。


 魔王討伐クエスト。一体どこのどいつがこんなバカらしい真似を……。


 クエストの概要はこうだ。

 正面の門から巨大な城下町に入り、そこを通り過ぎてラーナキア城へ。

 そして城内にいるという魔王を倒せばクエストクリアといういたってシンプルなものだ。

 異常なのはその報酬。ラーナキア城まるまる進呈というのだからふざけた話だ。

 もちろんこのクエストはギルドを通した正式なものではないし、誰が報酬を保障してくれるのかも定かではないのだが、実際にこうして人が集まっている。

 このお祭り騒ぎはこのクエストに参加するため順番待ちをしている冒険者と、それを相手に商売しようとやってきた怪しげな連中達によるものだ。

 

 しかしどうしたものか……。

 俺は肩透かしを食らって半ばやる気をそがれていた。

 本来ならアランと元王国騎士団たちを合流させ、彼らを鼓舞するとともにさらに仲間を集ってともに盗賊を追い払うぐらいの気概でいた。

 しかしナサル付近を拠点に活動していたはずの肝心の騎士団は、すでに潰されたのか今回の事態を機に解散したのか影も形もなかった。

 第一今回のこのクエストの特殊な形式上、彼らが必要なのかどうかも疑問になる。

 ウィンドウを開き登録されたクエスト情報の詳細を再び確認する。


 


 一人ずつ城門から入ります。パーティーでの参加は不可。

 城下町で100ポイントを貯めることにより城への入城が可能になります。

 開始時点の所持ポイントは10ポイント。城下町にはモンスターがおり、討伐するとモンスターのグレードによって1~100ポイント加算されます。

 他の参加者との戦闘も可。勝利するとポイントを全て奪えます。なおモンスターに倒された場合ポイントは全て消失します。

 戦闘不能になった場合外に強制送還となります。アイテムロストはありませんしクリスタルになることもありません。

 同時に城下町へ入れる人数は固定されています。誰かが出てきたら次の挑戦者が入ることになります。

 

 参加を希望される方はこの画面でクエスト登録処理をしてください。

 登録後は現在の待ち人数を確認できるようなります。待ち人数がゼロになった時点で城門入り口付近にいない場合、即失敗扱いになりますのでご注意ください。

 



 適用されるのはこれらの特殊ルール。城はある種の魔法空間になっているようだ。

 クエストの参加方法はウィンドウのクエスト詳細画面で登録するだけ。順番が近くなったら城門前の列に加わっておけば問題ない。 

 登録順にクエスト参加になっているようなので、仲間同士で押し寄せて談合すれば簡単にいけそうな気もする。

 だが戦闘不能になった者は城の裏手の門あたりに吐き出されており、彼らによると現時点ではクリアはおろか城へ入城したものすらいないらしい。なにやら強力なモンスターがいるとかどうとか。

 まあ参加者の質が質だけにどの程度のものなのか真偽はわからないが。

 そしてこの盛況ぶりはおそらく説明からわかるとおり死亡時のペナルティがほぼないためだろう。日をまたげば再挑戦も可能らしく魔物との戦闘でしっかり経験値も入る。人によればその辺で魔物と戦うより安全な稼ぎ場になるわけだ。 

 どちらにせよそれほど危険はなさそうだという判断で、すでに俺たちは全員クエスト参加登録を済ませてある。

 

「しっかしお城まるごとって太っ腹だねー」

「わたしあんなお城に住んでみたいです。あ、それってもうお姫様ですよね」

「そんなのよりさ、お城を観光地にしてお金取ろうよ。絶対儲かるって」

「……王子様を目の前にお前らよくそんな口がきけるな」


 俺も無神経さには自信があるが、二人の言葉がアランの前でする発言ではないことぐらいわかる。

 二人は周りの賑わいに少し舞い上がり気味で、アランがラーナキア王子であることをすっかり忘れていたのかもしれない。

 リィナが慌てて謝罪する。

 

「……あっ、す、すみませんアランさん」

「…………いや、いいんだ」 


 すぐにフィーネも気づいて、


「ゴ、ゴメンナサイ。……でもよく考えたらさ、城にいる魔王を倒したら城がもらえるって当然の気もするけどね」


 フィーネの言う事ももっともではある。

 第一この前まで城に巣食っていた盗賊はどこに行ったのか。まさかクエスト主催者が盗賊というわけでもないだろう。

 だが俺はいま盗賊の行方やラーナキアの存亡うんぬんよりも「魔王」の存在が気になって仕方がない。

 確かに俺は魔王に該当する人物、いや魔物を作った。しかしそれはこことは別の地にいる固定のボスモンスターであり、こんな所にいるはずがない。

 もし本当にその魔王だとしたら……、今の状態だとかなり厳しい。


 俺のクラスはクリスタルデビルの消滅とともに調停者から剣士に戻されている。

 調停者へのクラスチェンジは一定の条件下で三種のスキル発動ということだが、肝心の「一定の条件下」というのが何をさすのかわからない。

 それにクラスチェンジ自体一時的なもの。常にあれだけの力を維持できるというわけではないようだ。


神の腕エクストラアーム』をうまく使えば勝機はあるかもしれないがそれだけでは不安は拭えない。

『神の腕』は武器を創造するスキル。ゼロから新しい武器を作り出すか、今装備している武器に好きなサポートスキルを付けて作り変えることができる。

 前者の場合は武器の創造だけで莫大なSPを消費するため調停者の固有スキル『SPアンリミテッド』抜きではまず使い物にならない。

 後者なら武器の強化自体は問題ないが、当然強力なスキルほどSP消費も大きい。好きなスキルを選べるとはいえ、選択肢はかなり制限される。スキル選びを誤れば自滅する事もありうる。

 

 そもそも本来の魔王はとあるクエストで、イベントバトルのような形で出現する。

 調停者と『神の腕』でムチャをやればどうにかできるのかもしれないが、それはもうバグに近い荒業だろう。

 そんなことをすれば世界のどこかに歪みができてしまうかもしれない。 

 バトルの鍵は、勇者。しかし今のアランには……、どうにも荷が重い。


 なにげなくアランのほうを振り返ると、さっきまで背後についてきていたはずの姿が見当たらなかった。

 よく見るとずっと後方に姿を発見した。見知らぬ女性と何事か話し込んでいるようだ。

 ポニーテイルの赤い髪をした剣士風の女性は、腕組みをしたままギラギラとした目つきで睨むようにアランを見据えている。

 知りあいだろうか? とても王子と臣下、と言う風には見えない。むしろその逆の印象すら受けた。

 なにやらただ事ではない雰囲気を感じた俺は、二人へと近寄っていった。


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