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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第三章
31/36

プロローグ

 ラーナキア城は嘘のように静まり返っていた。

 つい数日前まで大盗賊団の根城と化していたはずの城内にはネズミ一匹見当たらず、明かりの一つもついていないためただひたすら薄暗い。

 聞こえてくるのは自分達の足音と、時おり外を吹きすさぶ風が窓を叩く音。

 雲霞のごとく集っていた盗賊たちの姿など、影も形もない。

 それは迷路のように入り組んだ巨大な城下町も同じ有様で、こうしてラーナキア騎士団残党のニ人が全くの無傷で城内までやってこれたのもそのせいである。

 普段はせいぜい城と城下町を大きく囲む外壁を見回るだけだ。城下町へ入ればたちまちのうちに盗賊たちに取り囲まれてしまうからだ。

 

 夕闇迫る時刻、定期的な哨戒任務についていた三人は、今日に限ってやけに城の内部が薄暗いことに気づく。いつもなら煌々と明かりが焚かれている頃合だ。 

 どうにもおかしい。

 そう思ったニ人は、日ごろうだつの上がらない自分達の任務に面目のなさを感じていたこともあり、思い切って危険区域への侵入を試みた。

 細心の注意を払いながら、無人の荒れ果てた城下町を通り抜け城へ。

 そして盗賊の姿がまるで集団で神隠しにでもあったかのようになくなっていることを確信したのは、城のがらんとした大広間に差しかかった頃であった。


「一体どういうことだ……? 最後に見回りをしたのは確か三日前……」

「奴ら引き払ったのか? 他に拠点を見つけて……」


 なにしろ百単位の人数である。彼ら王国騎士団が結成したレジスタンスの基地から距離があるとはいえ、それだけの数が大移動したならば誰かしか気がつくものがいるはず。

 ニ人は狐につままれた気分であったが、しかし彼らにとってこれ以上の吉報はない。レジスタンスといっても残りはもはや少数で、誰しもが活動に限界を感じていた。


「まあいい、早速帰ってセリア隊長に報告だ」

「……そ、そうだな、はやいとこ戻って……」


 しかし手放しで喜べないのは、かつて自分達の故郷であったはずのこの地にどこか異質な薄ら寒い不気味さを感じていたからであった。

 足を踏み入れてはならない場所に来てしまった、そんな気さえ起こさせる。

 撤収を決めた彼らの足取りは自然と早くなった。盗賊も魔物の姿もないというのに、ついさっき来たばかりの通路を逃げるように進む。

 だがエントランスホールまでやってきたところでニ人の足は同時に止まった。


「おや? お客さんかな? 困るなあ、まだ正式にクエストは始まっていないんだけど」


 大の男ニ人を硬直させたのは、線の細い青年の透き通るような声だった。

 周囲の暗がりに溶け込んでしまいそうな黒い外套をまとい、どこからともなく現れた謎の青年。

 金色の髪と整った白い顔がわずかな光を受けて闇に浮かび上がる。表情は、わずかに笑みを含んでいた。

 その悠々とした口調とは裏腹に、青年は得体の知れない異様な雰囲気をかもし出していた。その妖しい空気に一瞬で場を飲まれそうになった騎士は、身を奮い立たせるように誰何の声を上げる。


「な、なんだ貴様は!」

「ずいぶんなごあいさつだね。そうか、名前……、決めてなかったな。うーん…………」


 青年の視線はしばし中空をさまよっていたが、


「僕は……ロシュ。どう? 気に入ってもらえたかな?」

「ふ、ふざけるな! 名前などどうでもいい、貴様なぜここに……、いやここで何をしている!」

「何って……下準備さ。おもいのほか時間がかかってしまったけど、ついさっきやっと終わったんだ。あのジャマな盗賊たちの始末がね」

「き、貴様が盗賊たちを……? そんな、バカな……」

「魔王の城にあんな品のない輩がいるのはおかしいだろ?」

「魔王だと……!? 何を言って……、こ、ここは俺たちの城だ!」

「うん、見込みは薄いけど君たちのものになる可能性もあったよ。でもフライングはいただけないなあ」


 ロシュと名乗った青年の両脇には、いつしか二体の犬型モンスターが騎士二人を威嚇するように瞳をギラつかせていた。

 彼はその手に武器を具現化させると、わずかに微笑んだまま攻撃スキルを発動した。


「さよなら」


〈死閃 ミドル 特殊 大鎌〉


 青年の瞳が赤く光る。その視線が光線のように二人の騎士を射抜くと同時に、彼らは金縛りにあったかのようにその場に立ちつくす。

 後はただ闇を切りさく銀の大鎌が、音もなく二つの首を刎ねた。

 



 再び静寂。

 ややあって、一人残された青年の明るい無邪気な声が響いた。


「さあて、じゃ始めようか、魔王討伐クエスト。いったいどんな勇者さんが来るか、楽しみだな」

 

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