第二話
「仲間を置いて逃げるような人間にパーティを組む資格はない。あれ以来僕は、ソロプレイに徹した。血のにじむ思いでレベルを上げ必死に強くなったんだ」
「……なるほどな、あんたにとっちゃ今回のクエストは待ちに待った弔い合戦ってわけか」
「今の僕ならきっと……、いや絶対に奴を仕留めてみせる!」
セイルの青い瞳は闘志に燃え、その輝きを増した。彼の揺るぎない意志を体現するかのように。
「気に入ったぜ。実は優等生ぶったどこかいけすかねえやつだと思ってたが、どうやらあんたは本物みてえだ。クエストがうまくいったら、正式にオレのパーティに入らねえか? そこまで自分を責めるこたぁねえよ。ま、リーダーはオレだが。くっく」
ジャミルはそんなセイルに心を動かされたのか、口の端をつり上げながらポン、と軽く彼の肩を叩く。
冷徹な男だと思っていたが割と情に厚い性格なのかもしれない。冷たいのは俺への態度だけか。
「……セイル。いくらあんたが高レベルだといってもそれだけで人喰いが倒せると思っているのなら、それは間違いだ」
俺はそんな二人に水を浴びせるように口を開く。
セイルがウソをついているとまでは言わないが、人喰いに復讐を遂げるなんてにわかには信じがたい話だ。
それだけ鍛錬を繰り返してこの世界に慣れているなら、どれだけ奴が恐ろしい相手かとっくに気づいているだろうに。
それに敵討ちなんて、義理堅い奴もいたもんだ。俺にはどうもそれが鼻につく。
セイルが答えるより早くジャミルがつっかかってきた。
「なんだてめえ、今のセイルの話を聞いて開口一番がそれかよ! 一番ザコのお前がしかも上から? そいつはギャグのつもりか?」
「待てジャミル。コウト君の言うことももっともだ。だけどもちろん、僕にだって勝算はあるよ」
「ならその勝算とやらを詳しく聞かせてくれないか」
「ふふっ、そうあせらないでくれよ。とっておきの秘策なんだ。それよりもまず、お互いの装備や所持スキルを確認する事の方が先決じゃないかな?」
セイルの言うとおり装備品やスキルの確認は重要だ。最優先事項といっても過言ではない。
仮にもパーティを組む身で、お互いがなんのスキルを持っているかを全く知らないというのはあってはならないことだ。
「確かにそうだが、俺は自分のステータスを一切公開するつもりはない」
「あんだと!?」
再び声を荒げるジャミル。しかしここは一歩も譲る気はない。
この世界では、単にレベルだけが強さのものさしではない。場合によっては倍近くのレベル差があっても勝敗が覆る事もある。
しかしどういった装備品とスキルを持っているか知られるということは、自分の手持ちの札を全て晒すようなもの。
何ができて、何ができないのか。何が得意で、何が弱点なのか。
一部ならまだしも、全ての装備品やスキルを惜しげもなく公開するなど命を預けるに等しい行為だ。
パーティ間で平然とそれをやる輩がいるが、よほど強固な絆で結ばれているか、さもなくばただのバカか。
だが正直言うとそれは無理もない。スキルの重要性しかり、この世界の元となったゲームのセオリー的なものが全プレイヤーに浸透しているわけではないのだ。
それにもちろん、ステータス公開自体が悪だと言っているのではない。パーティ内である程度のオープンはむしろ必須である。
お互いの特長を知っている方が有利なのは言うまでもない。そうでなければそもそもパーティを組むメリットが激減するというもの。
逆に一切オープンしなければ信頼も得られない。どこまでオープンにするか、要するにさじ加減が重要だ。
「俺のようなザコがどんな武具やスキルを持っていようと関係ない。……だろ?」
「はあ!? どうせたいしたもん持ってねえんだからもったいぶらずにオープンしろや!」
ジャミルはなおも食い下がる。意外に抜け目のない男だ。
てっきり俺はこいつが挑発に乗って「あーそりゃそうだな、どうでもいいわな!」と流すと思ったからだ。
ジャミルもその重要性を十分わかっているようだ。中級以上のプレイヤーなら嫌でも感じるはず。
「コウト君。クエストを申し込んだ以上、パーティを組むことになるのはわかりきっていたはずだ。気持ちはわからなくもないが、それはわがままというものだろう。何もフルオープンしろというわけではないんだ」
セイルも険しい表情で俺を非難する。
さすがにオープンのこととなるとセイルも笑って流す気はないようだ。
「セイルには秘策があるんだろ? だったらいいだろ。そもそも俺なんかが気になってしょうがないレベルなら、もとから討伐なんて無理だと思うけど」
「……む」
セイルはひと唸りした後黙り込んだ。
屁理屈で相手をやり込めるのは俺の得意分野だ。昔から口論に負けたことがない。頭がでかいと揶揄され時に欠点にもなるが。
しかし自分から討伐隊に名乗りでておいて俺の言い草もひどいもんだ。この先ハブられても文句は言えない。
これだけ憎まれ口を叩けば、さすがのセイルも怒り心頭だろうと思いきや彼はそれ以上俺を責めるでもなく、
「……仕方ない。ジャミル、僕らだけでも簡単に確認するとしよう」
そう言って俺を置いてジャミルとともに残るパーティ三人が待つ席へと歩いていった。
まだ何がなんやらわからないと思いますんで、多分次あたりで主人公のいきさつとか入れます。