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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第二章 狂気の斧と勇者の剣
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第十四話

「アイラァーーっ!」


 アサシンが悲鳴にも似た声で誰かの名前を呼ぶ。

 ラーナキア、アラン、アイラ。俺はこの三つの単語と、二人の会話からおぼろげにその因縁を察した。

 

 ラーナキアはドーンゲートからずっと西、緑に囲まれた美しい国だ。長きに渡り国を統治している賢王アレックスは人民からの信頼も厚い。

 それほど豊かではないにしろ人々は幸せに暮らし、日々平和の中を生きている。

 と、いうのが俺の考えた設定だった。

 だが今のラーナキアはいくつもの盗賊団グループが跋扈する無法地帯と化している。俺も一度足を運んでみた事があるがひどい有様だった。

 所々崩れかけた城は最も力のある盗賊グループの根城となっており、当然中に入ることすらできない。

 城下では盗賊同士の縄張り争いにより白昼堂々戦闘行為が絶えず行われている。

 他にも国の元騎士たちがレジスタンスを結成し抵抗を試みていたようだが、どう見ても劣勢だった。相手は盗賊とはいえ野良にいるような雑魚の集まりではなく、秩序づけられた組織力を持っていたからだ。

 当時の俺には何もすることができず、レジスタンスの警告もあってすぐに国を後にした。自分の想像とは違った現実にただ戦慄するばかりだった。

 

 ラーナキアの第一王子アラン、そしてその妹アイラ。

 後にアランは勇名を馳せ、アイラはそれを支え民のよりどころとして生きていくはずだったが、一体どこで歯車が狂ってしまったのだろうか。

 

「おお……素晴らしいぞ……まさかラーナキアの力がこれほどまでとは……」


 クリスタルをその身に取り込んだ老人は、体内に起こった変化に興奮を隠せない様子。

 それとは対照的に、膝を屈し両手を地につけ絶望にひれ伏すアサシン。

 俺たちはわけもわからないままその様子を呆然と眺めていた。


「さて、もうアランもわしに用はなくなったじゃろうしわしからもお主に用はないし、そこの冒険者風情とともにさっさと消えてもらうとするかのう。どれどれ、早速力の程を試してみるかの」


 老人は両手を前に構え、三人の戦士に向かって「ふんっ」と念じるように力を込めた。

 すると戦士たちの周囲から黒いオーラが水蒸気のように噴き出す。

 黒い霧はズォォォッと生まれては消え生まれては消えを繰りかえすと、やがてピタリとやんだ。

 そして三人に現れた変化。


「な、なんだよ!? HPが全回復しやがったぞ!?」


 シュウが仰天して声を上げる。

 シュウの言うとおり彼らのHPバーは右端まで伸びており、瀕死だった大男のHPも全快している。

 それだけでも十分驚愕に値するが、『神の眼』によって俺はさらなる脅威を目の当たりにした。


『ヘルファイア 火 特殊』命中率128、与ダメージ率41


 これは俺がマークしていた魔術師がこちらに向けている次回発動予定スキル。

 明らかな上方修正。この分だと他の二人も間違いなくパワーアップを果たしているはず。

 俺は決断に迫られる。この変化に気づいたのは『神の眼』を持つ俺だけ。戦闘継続か、撤退か。

 だがすでに答えは出ていた。

 消耗しているこちらに比べ向こうはフルパワー。個々の力は互角かそれ以上。 

 問題はどうやってこの場を……。


「……良くないな。思っていた以上に危険で手に負えん。なんとか騎士団に報告しなければ……」


 ロイドがそうつぶやくのが聞こえ、彼にも余裕がないことを悟る。

 

「おい、コウト……、なんかヤバくねえか? お前さ、なんか秘策みたいのないのかよ? 人喰いのときみたく」

「コウトさん……」

 

 シュウとリィナが俺にすがる様な視線を送ってくる。

 しかし今回はマンイーターの時とは勝手が違う。あれは時間をかけてマンイーター用に事前に対策を練った結果であり、本来の実力とは違う。

 対策を練れたのも『神託』による情報があったからこそで、今奴らに関しての情報は『神託』のどこにもない。

 プレイヤーの中でも後発組の俺は、まだまだレベルもステータススキルも甘い。

 唯一頼れるのは強力な武器。だがアイテムボックス内にこの状況を一発で打開するほどのものは……。

 せめてもっと考える時間があれば。


「いや、ここはなんとかして……」


 俺が意志を伝えようと口を開きかけた時。

 一人の男が立ち上がり前に出ると、俺たちに背を向けて敵の前に立ちはだかった。


「なんじゃ? まだなにか用があるのかアラン? ほれ、そこの断罪騎士。そいつは罪人じゃぞ、さっさと縛れ」

「後でいかようにも罰は受けるとも。だが今は、……今だけは!」


 黒づくめの男は前を向いたまま力強く言い切る。その口調はそれまでの彼とはどこか様子が違っていた。


「……ちぃっ、お前たち、この男からさっさと片づけてしまえ!」


 その言葉に三人は俺たちからターゲットを外すと、手前のアサシンへと一斉にうちかかろうとする。


「邪魔だどけっ!」


〈烈光剣  聖 ミドル 特殊 両手剣〉


 男が振りかざしたのは、いつか見た短刀ではなく黄金色に輝く両刃の長剣。

 聖なる光を放つ剣は、辺りを一層明るく照らし出し目もくらむほどの煌めきを生み出した。

 アサシンは身をよじり手にした剣を左から右へなぎ払う。

 横一閃。

 目にもとまらぬ剣速。

 迸る光の束が大きく弧を描き、空間とともに対象を切り裂く。

 水平に走る光の筋。拡散する光の粒子。

 世界に亀裂が入り、まるで次元が裂けるかのような錯覚を覚える。

 そして訪れる一瞬の静寂。

 剣は音もなく光を失う。

 それとともに三人の戦士は黒い砂状にその身を変え、サラサラと掻き消えていった。

 ドロップアイテムも、クリスタルも残らない。まるで何も存在しなかったかのようだ。

 やはり彼らはすでに……。


「な、なんだ今のは……」


 ロイドがうめき声を漏らす。他の二人はあまりの出来事に声も出ないようだ。

 なにしろ、たった一太刀で三人を同時に消滅させてしまったのだから。

 

 あの黒装束にはひどく不似合いな、美しい装飾が施された剣。俺には見覚えがある。そしてさっきの攻撃スキルも。

 あれは……聖剣エレメンタルライザー。通称エルライザー。

 本来ならアサシンが騎士剣を装備できるわけがない。だが、あの剣は別。

 スキル『王家の血』を持ち、かつ剣に選ばれたものにしか扱うことができないが、その二つの条件を満たしていればクラスに関係なく装備可能。

 俺はあのアサシンが間違いなくラーナキア王子アランだと確信する。

 

「聖剣エルライザー……、お主が隠し持っておったとは……」

「あなたは……自分がこの手で確実に殺す!」


 なおも激昂するアラン。聖剣を携え、その目はまっすぐ老人を捉えている。さすがの老人もあの剣を見て驚きを隠せないようだった。

 思いもよらぬ逆転劇に、俺は胸をなでおろす。

 聖剣エルライザーはそれ一本で全属性の攻撃スキルを備えており、その真価は俺が今思い出せる限りでも五本の指に入るほど。

 この武器はバランスブレイカーのような俺が悪ふざけで作ったものじゃない。一種のキーアイテム的存在。勇者が扱う聖剣として特別強力に作ったものだ。

 デフォルトでの配置はラーナキア王家に古くから伝わる武器という位置づけで、アランが持っていてもなんら不思議はない。

 ただ問題はアランが敵なのか、味方なのかいまだ態度を明確にしていないところにある。

 老人を始末した後、あの剣をこちらに向けられたら俺たちだってひとたまりもない。

 ……いや待てよ。きっとヤツは罪人スキルを持っているはず。ならば……。


 だが俺のそんな心配は杞憂に終わった。


「誰を殺すじゃと……?」


 完全に追い詰められた形になった老人。だがその暗黒の瞳はますます邪悪さを増していた。

 かつてないほど禍々しい黒のオーラが渦を巻くように老人を包みだす。


「おめでたいのう、そんなチャチなおもちゃで……。わしの力を何か勘違いしておるようじゃが。こんなところでムダにエネルギーを消耗したくはないが、少し思い知らせてやらねばならんのう……」

 

 そう言った途端、老人の周囲に妖しい黒い霧が立ち込める。どこから噴きでているのかすらわからない濃霧は、完全に老人の姿を覆い隠した。


「今までの礼じゃ、王家の血を得てさらに蓄えられたこの力、特別に披露してやろう。絶望するがよい、己の無力さに」


 部屋の半分以上が暗闇によって支配され、やがて目に見えない凶悪な邪気が辺りに漂い出す。

 何が起こっているのか目視で確認する事はできないが、明らかにその気配が変わった。


 こいつは危険だ、今すぐ逃げろ、ともう一人の自分が警鐘を鳴らす。

 だがその一方でこちらには俺の考えたエルライザーがある、あれがあればどんな相手にも負けるわけがないという自負もあった。 

 俺には扱うことはできないが、全属性を操り臨機応変に敵の弱点をつけるあの聖剣は勇者の持ち物と言ってふさわしく、まさに反則級の強さのはず。

 そうだ、例えどんな化け物が出てこようと……。


 徐々に霧が晴れていく。わずかに視認できるそのシルエットは、もちろん腰の曲がった老人のものではない。

 優に三メートルはある人型の巨体。頭部、両肩からそれぞれ二本の角が突き出す。すでにその体が魔物の類と化していることは明白だった。

 

 やがて霧が完全に晴れ明らかになるその詳細なフォルム。

 体型こそ人間同様に直立歩行だが、頭部は馬のように鼻が突き出しており一発で悪魔系のモンスターだと正体が知れた。

 角だと思っていた部分は円錐型に赤く透明で、まるで巨大化したクリスタルが生えているようだった。

 その上ところどころ小さな無数のクリスタルが体中に刺さっている。


《クリスタルデビル》 


 相手がモンスターなら、初遭遇でもターゲットした瞬間名前が表示される。

 しかし俺はその名前に全く覚えがなかった。やはりこいつは完全にイレギュラーな存在。

 クリスタルから戦士を生み出すなど本来ならできるはずもないのだ。


 魔物は人語を解さないのか、何も言葉を発しない。ただ静かにぎょろりと赤黒く獰猛な目玉でアランを睨んでいた。

 凄まじく邪悪な殺気。悪そのものと言える禍々しい瘴気。

 一瞬で身を竦ませるような視線を受けてもアランはひるむことも、驚きに声を発することもなく聖剣を構え戦いの意志を見せる。 


「……くっ、あんな化け物を外に出すわけにはいかん! 私も応戦する!」

「わ、わたしも援護します!」

「クリスタルデビル……悪魔系モンスターかよ……。やばそうじゃねえかよチクショウ……」


 アランに続き、果敢にも敵に立ち向かうロイドたち。バトルは仕切りなおされ、新しいバトルフィールドに突入している。

 SP、HPともにスキル効果で微量に回復した。まだ戦う事はできる。

 だが俺は、彼らの後方で一人ただ呆然と立ちつくしていた。


 なぜなら俺は、すでに戦意を喪失していた。

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