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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第二章 狂気の斧と勇者の剣
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第十二話

 俺とシュウは宿屋に戻り、リィナに簡単に事情を説明して彼女を連れ出す。

 リィナと同室していたフィーネは最後までいぶかしそうにしながら俺たちを見送った。

 二人が同じ部屋にいる理由は昨日の晩までさかのぼる。

 昨晩宿屋まで戻ったところ、偶然1階のエントランスホールでなにやらレズリーと話し込んでいたフィーネに出くわした。

 こんな夜更けまでリィナと二人でどこに、などと質問攻めに合い一騒動あったのだがあまり思い出したくないので省略する。

 結局リィナは、フィーネがレズリーの好意で住まわされているムダにバカでかい部屋に泊めてもらう事になったのだ。

 成り行きとはいえ、俺たちは再びパーティを結成することになった。まあ、今回だけだろうな。

  

「おやおや、おそろいでどこにお出かけかな?」


 没落貴族の墓へと向かうべく街の入り口まで来たところで俺たちに声をかける人物が。

 

「あ、ロイドさん。わたしたちこれから没落貴族の墓に……」

「バカ、言うな!」

「コウト君、リーメイア……、いやリィナ様に向かってバカはないだろうバカは」


 またこいつかよ……。絶対マークされてるな、と俺は内心苦虫を噛み潰す思いだったが、ロイドの格好を見て別の可能性を考えた。

 ロイドはいつもの断罪騎士装備ではなく一般的な冒険者用の革服を身に着けていた。 


「だれだこのオッサンは? お前ら知り合いか?」

「断罪騎士団の副団長らしいが、どうやら駆け出しの冒険者に格下げになったみたいだな」

「いやいや、はっは。この服かね? 今日はオフなのだよ。おかげさまでどうにかクビがつながってね」


 ロイドは自分の服をつかんで破顔した。

 どうやら嘘ではなさそうだ。と、いうことはやはり監視か? なんにせよこいつの前でうかつな行動は避けたい。


「本当に迷惑かけてごめんなさい。でもよかったです」

「いえいえ、礼には及びませんよ。……で、まあその代わりと言ってはなんですが、ぜひ私もお供させていただけないでしょうか。なにやら楽しそうな雰囲気ではないですか」

「おい待てよオッサン。オレたちは遊びに行くんじゃねえんだぞ? あのノーブルファントムを退治しに行くんだからな」

「……ふむ。私もあそこには何度か足を運んだのだが、どうしても遭遇できなくてね……。足手まといにはならないつもりだよシュウ君。それに人喰いを倒した君の素晴らしい腕前を是非間近で拝見したいのだが」

「ん? ああ、そうかそうか。副団長サマもオレには一目置いてるわけだ。まあ連れて行ってやらないこともないが……、どうするよ」

「わたし、ロイドさんがいてくれたらすごく心強いです」

「……勝手にしろ」


 俺の予見が正しければ、戦いになる可能性は高い。モンスターとではなく、人間と。断罪騎士に頼るのはシャクだが強力な戦力になる事は間違いない。


 期せずしてロイドを加え四人パーティとなった俺たちは、街を出発し目的地への道のりを急いだ。


 


 

 数時間後、俺たちは特に何の障害もなく没落貴族の墓最深部までやってきていた。


 レンガでしきつめられた細長い通路と小部屋を繰り返して地下にもぐっていくこのダンジョン。明かりはところどころ壁面にかかるロウソクが頼り。

 モンスターの強さは俺のレベルで適正より少し上くらいか。

 バトルはほとんど先頭をかってでたロイドに任せきりで、襲ってくるモンスターをほとんど一撃で切り払いなぎ倒していく姿にシュウも目を丸くしていた。

 やはりロイドの実力は相当なものだ。このあたりのモンスターがいくら束になっても彼を倒す事はできないだろう。彼の赤いマントにはほつれ一つなかった。

 今日はオフ、と言いつつも戦闘中はもちろん断罪騎士装備。基本的に盾以外の防具は戦闘中変更する事はできないが、戦闘に突入すると同時に設定した装備に変更することは可能だ。

 今のロイドのように移動中は冒険者の服、戦闘に入ると自動で騎士装備に切り替わるといった風に。

 これには見た目で強さやタイプを量られないようにするカモフラージュ効果があり、もちろん俺も防具は切り替え設定にしている。

 割と多くの冒険者達がそうしているはず。アサシンのようなのが黒装束で街をうろうろするわけにはいかない。

 ただしその逆もあり、断罪騎士などは常に武装を義務付けられているし、強力な武具を見せつけ強さを誇示する者だっているのだ。

 

 最深部はちょっとしたホールのようになっていて、このダンジョン中もっとも広い空間だ。

 壁一面に並ぶロウソクのおかげで部屋は十分すぎるほどに明るい。

 古代エジプトのファラオをかたどった像が部屋の両端に六体ずつ向かい合う様は、絢爛でありながらもどこか不気味だった。

 部屋に入ったところでシュウが誰にともなく問いかけた。


「これの、どれだっけか、左側の奥から……」

「左奥から三番目の像の右目だ」


 俺が答えたのは隠し小部屋のスイッチの場所。そこに狂乱戦士の斧が隠されている。

 それほどわかりにくいというわけではないが、この部屋の中央奥には財宝の入った棺が置いてあり、それを入手して満足してしまうようならまず見落とすだろう。

 もちろんそんな財宝はとっくの昔にどこかの誰かが持ち去った後だが。


 シュウが像に近づき、俺に言われた通りに右目のスイッチを押す。

 すると。


 ――ゴゴゴゴゴ


 部屋の右奥の壁がスライドし、二人分ぐらい隙間が生まれた。


「わあ、すごい。壁が……」

「ほう、そんな仕掛けが……。部下たちは誰も気づかなかったな、私も含めだが」

 

 リィナとロイドが感心した声を上げる。

 断罪騎士だって何度か隊を率いてやってきていたはずだ。案外あいつらも無能なのかもな。


「はは、あのじいさんの言ったとおりだな! やっぱこいつは信憑性高いぜ!」


 早速シュウが嬉々として小部屋に入り込もうとする。


「待て、シュウ!」


 俺は大声でシュウを呼び止めながら走り寄った。このままあいつに武器を入手させるわけには行かない。

 そんなことになったら相当に悲惨な羽目になる。

 

「な、なんだよお前。いきなりでかい声出すなよ」

「お前はそこで待ってろ。俺が斧を取ってくる」


 俺の有無を言わせぬ態度にシュウは気圧されたか、不満そうな顔をしながらもそのまま待機する。

 シュウをのけて俺は隠し部屋に侵入した。中はなんのことはない、少し暗い三畳ほどの小部屋に長方形の棺がどんと置いてあるだけ。

 だがこの棺に入っているものが曲者だ。棺の蓋をすらしてどけると、やはりそこには一振りの巨大な斧が安置されていた。

 よくぞ行儀よくこの中に納まっていたもんだ。いや、待てよ、こいつは何度も持ち主が消失しデフォルトの配置に戻されただけなのかもしれない。

 それかもしくは、誰かがここに戻している……。


 俺は今一度自分のステータスを確認した後、斧を拾い上げた。

 この一瞬、少しひやりとしたがどうやら大丈夫だったようだ。

 

 狂乱戦士の斧には入手した瞬間にステータス異常「狂乱」になってしまう一種の呪いのようなものが込められている。

 持ち主が狂乱状態になると、それと同時にオートスキル『狂乱波動マッドネスウェイブ』が併発する。

 こいつはオートスキルの中でも特殊で、周囲の敵味方問わず狂乱のステータス異常に陥れるという厄介なもの。


 狂乱状態とはわかりやすく言えば、ひたすら物理攻撃を繰り返す「狂戦士」と敵味方問わず行動する「混乱」が併発するというステータス異常。

 つまりひたすら殴り合いによるバトルロワイヤルが始まるとでも言うべきか。

 といってもこのステータス異常は、狂戦士と混乱、両方の耐性を持ってさえいれば回避することができる。

 具体的には『狂戦士耐性レベル10』と『混乱耐性レベル10』以上。これだけあれば『狂乱波動』には耐えうる。

 だがどちらかのレベルが足りなかったりすると一気に狂乱状態になってしまう。

 

 最初からこのことを知っている俺ならともかく、優先すべき耐性は他にもあるため普段からこの条件をクリアしている、というのは案外厳しいのかもしれない。

 俺は耐性を持つ装飾品である安らぎの指輪、緑の魔帽を装備し、どうにか両方とも安全レベルまで届くことができた。

 

 俺はウインドウのアイテム画面を開き、さっさと斧をアイテムボックスにしまいこんだ。

 あっさり回収完了。

 こいつをシュウが手にしていたと考えるとぞっとする。シュウやリィナはもちろん狂乱状態に、ロイドでさえもたぶん同様だろう。

 手ぶらで小部屋から出た俺に、シュウが不審そうな顔で尋ねてきた。


「コウト、斧はどうしたんだ?」

「ああ、もう終わった。帰るぞ」

「はぁ? なにが終わったんだよ?」

「目的達成だ。もうここに用はない」


 俺たちの間に妙な空気を感じたのか、リィナとロイドもすぐそばまでやってきた。


「なにをごちゃごちゃやっとるんだね君達は。……やれやれ、結局ノーブルファントムは出ずじまいか」

「コウトさん、わたしもさっき幽霊退治って聞きましたけど……?」

「いや、あれはウソだ。だまして悪かったな」

「だから! その斧で壊せる壁があるんだろ!? んでそのさきにノーブルファントムが……。これからって所じゃねえか」


 しつこく食い下がるシュウ。正直に説明してやってもよかったが俺はどうにも話す気になれずにいた。

 第一これは俺が、自らに課した責務。これ以上他人を巻き込むわけにはいかない。 


「…………そうそう。これからのはずだったんじゃがのう…………」


 その時入り口の方から、低くしゃがれた声が聞こえた。決して大きな声ではなかったが、広間中によく通り、腹のそこまで響くような音だった。

 俺たちは一斉に声がしたほうへ振り返る。

 すすけたローブに身を包んだ先ほどの老人が、不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 すっかり毛の抜け落ちた頭部。袖からのぞく茶色く節くれだった手首。くの字に折れ曲がった背中。

 その姿は限界まで老いさばらえた人間そのものだったが、唯一その瞳だけは得体の知れない精気に満ちていて、底の見えない泥沼のように暗く澱んでいる。


「お、おいじいさん。なにやってんだこんなところで……」


 軽々しく声をかけたシュウもきっと気が付いている。さっきとはうってかわって違う、その邪悪な瘴気に。


「どういうわけか、ついとるのうお主。……それとも、もしやその斧のこと、知っておったか?」


 老人のまとう黒い悪意が俺を射抜く。俺は無言のままその瞳を睨みつけた。


「まあよいか。死に行くものに何を尋ねても詮なきこと。やれやれ、三人同時はちいとくたびれるが……」


 老人は一瞬にしてその手に赤い輝きを放つクリスタルを手にしていた。その数三つ。

 そしてクリスタルになにやら念じたのち、それを空中に放る。三つのクリスタルは空中で砕け散り破片となって地面に散らばった。

 破片はやがて不気味な黒い光を生み出し、その黒はまるで影が伸びていくように立体的な人型のシルエットを形成する。

 黒いシルエットはロウソクの光に照らされ色をなし、どこから見ても間違うことはない人間の姿へと変貌した。

 そこに立ちつくすのは魔術師のローブを身に着けた男と、大盾を構えた大男。それに剣士風の女の三人。

 身じろぎ一つしない彼らはしかし、次の老人の一言で一斉に俺たちに牙をむいた。

 

「さあ行け! ネイル、ジェイク、ケーラ! わしにクリスタルを持って来い!」


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