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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第二章 狂気の斧と勇者の剣
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第十話 

 常に奇襲には気をかけている俺も、この一撃を避けることはできず直撃を受けた。威力は当然奇襲扱い。

 HPバーは残り5割近くまで減少した。背に受けた衝撃で前に倒れそうになるのを何とか踏みとどまる。

 転倒や衝撃属性の吹き飛ばしを和らげる『強体レベル3』のステータススキルが役に立ったか。

 それに『雷爪』につく麻痺のステータス異常にかからなかったのは不幸中の幸い。俺の麻痺耐性はそれほど高くない。

 

 俺は必死で次に取るべき手を考えながらも、街中で攻撃を仕掛けてくる敵の正体に少なからず戦慄を覚えていた。

 街の中でも建物の中や特定の場所以外ならバトルフィールドになりうる。

 もちろんむやみやたらと罪もない相手に対し攻撃スキルを発動しようものなら、即座に罪人スキルを獲得することにはなるが。

 罪人スキルというのは、それこそフルオープンをするか断罪スキルを受けるかでもしないかぎり所持の有無を周りに知られる事はない。

 だが衆人環視の中では一発で罪人扱いされ、周囲からも制裁を受けることになる。とくにこの街には断罪騎士がウロウロしていて応援にも事欠かない。

 

 そういった理由もあり、いかに深夜といえど油断していた。それに今のは、精巧に研ぎ澄まされた鋭い一撃だった。

 逆に言えば、相手はこんな場所でもあえて攻撃を仕掛けてくるほどの手練。もしくは、ただの獲物を欲する殺人鬼か。


 振り向いた視線の先、闇にかすかに浮かぶ人影。

 身に着けているのはおそらく黒装束。上級職である暗殺者アサシンの専用装備だ。

 高い守備力を誇る上、様々なステータススキル上昇補正を持つ。

 背丈こそ俺とそう変わりないが、放たれる威圧感は相当なもの。一目で相手がただ者でない事がわかった。

 

 なぜアサシンがこんな所に……? ということは。


 完全な奇襲を取られたのは、アサシンの固有スキル『隠密』と『暗躍』をセットで使われたからだろう。

『隠密』は発動してから一定時間、行動するまでターゲットにされないスキルで、それまでは目視で姿を確認する事すらできない。

 しかしすでにターゲットに入っている場合は使えない上、一度発見され戦闘状態になると死にスキルとなる。

『暗躍』は奇襲成功確率を上げ、さらに奇襲による攻撃威力が上昇するというもの。組み合わせればほぼ確実な先制攻撃が可能となる。

  

「て、てめえ……、人違いじゃすまねえぞ」

「……これ以上深入りするな」


 深く沈んだ男性の声音。ただの通り魔ではない。間違いなく俺を狙っている。

 俺は即座に『神の眼』を発動し戦闘態勢に移った。

 だが『スイッチ』して出てきた武器はストライクブレイド。威力は高いが素早い敵が相手だと取り回しに難がある。


『五月雨 ロング 中 短刀』命中率112 与ダメージ率31 クリティカル率19

 

『神の眼』が敵の二の太刀を割り出す。

 かなり危険な数値。回避できない上、クリティカルが出た場合一気にレッドゾーンに突入することもありうる。

 俺は刀をパリィするスキルを持っていない。剣などに比べるとマイナーな武器のため習得の優先度は低いからだ。

 おそらく相手は攻撃の命中を上げるスキルと、レンジを拡大するスキルを使っている。ロングレンジの短刀技なんて数えるほどしかない。確か『五月雨』はミドルレンジだったはず。

 俺は基本的に回避優先の防御スタイルにしているため防具は軽装を選んでいる。現在の装備品は剣闘士の帽子に服。『剣レベル』や『腕力』『技量』に上昇補正がある。

 もっと重装備にすることはできるが、その場合防御能力は上がるが回避能力が下がってしまう。補正などを考えるとこれが一番バランスがいい。

 

『クロスブレイズ ミドル 小 両手剣』命中率70 与ダメージ率37 クリティカル率11


 対する俺の発動予定スキル。『ノヴァストライク』は命中率が4割を割り込んでいたので代わりにこちらを選択。

 この技はストライクブレイドで使える攻撃スキルの中で最も発生と命中に優れる。しかしサポートスキル『集中』を使っているにもかかわらず厳しい数値だ。SP量の問題もありここで威力を上げるスキルを使ってしまうと、外した時次ターン以降きつくなる。

 俺のHPが残り58パーセントに対し向こうのHPは当然マックス。奇襲を受けたのがかなり痛い。

 だが迷っているヒマはない。もうすでに向こうはスキル発動に踏みきっていた。やむを得ず応戦する。


〈五月雨 ロング 中 短刀〉

〈クロスブレイズ ミドル 小 両手剣〉


 暗闇を白刃が切り裂く。

 右、左、そして上から下へ振り下ろされる三連斬。曲剣による目にも留まらぬ早業。

 先手を取られた俺のHPバーが減少する。クリティカルにはならなかった。

 すぐに巻き返し俺は大剣を振るう。

 風を切って唸る二連撃。十字に交錯する剣閃が鋭く牙をむく。

 相手は回避に失敗し、なんとか命中させる事ができた。敵のHPは残り六割。

 次はどうなるか。相手のSPだって無限じゃないし、ミドルレンジに落ちればこちらが先制できる。

 しかし、次も同じ攻撃をしてくるようならこちらは武器を変えないとどうにもならない。だが次の『スイッチ』武器はロングソード+1。自分でも気を抜きすぎていて笑えてくる。せめてブリッツセイバーをセットしておけば……。

 それ以外だと逃走を選ぶしか手はない。だがもし失敗したら……。

 

 ……こんなところで、名前もわからないヤツに俺は殺されるのか? 

 

〈ヒール 聖魔法 特殊〉


 その時突然表示されるスキル。同時に俺の体を緑色の優しい光が包む。三割を切っていた俺のHPバーが七割近くまで回復した。

 そうだ、俺はすっかり忘れていた。リィナの存在を。


「コウトさん! 大丈夫ですか!?」

「ああ、悪い。マジ助かった」


 人から回復魔法をかけられるのなんて、いつぶりだろう。こんな時仲間のありがたみを本当に実感する。

 これなら、こうしてリィナに回復してもらいつつ戦えば、なんとか撃退できる!

 一気に闘志を復活させた俺は、再びストライクブレイドを構える。


 だが、それはとんだ思い違い。

 すぐに敵の輪郭をなぞる赤い線が消えた。つまり俺が被ターゲットから外れたということ。

 もちろんその矛先は……、リィナ。


 リィナの防御スキルがどの程度のものか俺は知らないが、装備品やレベル、クラスから言って俺より下なのはまず間違いない。

 そもそもヒーラーは後衛職。敵の前衛の近接攻撃に耐えるようなポジションじゃない。とはいえ二人きりの俺たちに陣形もクソもない。

 HP量だって絶対的に低いはず。敵が威力重視のスキルに変え、クリティカルが発生でもしたら一撃で……。

 敵はなぜかまだ発動予定スキルをまったく選択していないため『神の眼』で具体的な数値は確認できないが、そうなってからでは遅い。

 

「リィナ、逃げ……」

「あ、あなた、どうしてわたしたちを殺そうとするんですかっ!?」


 遮るようにリィナが影に向かって叫んだ。


「こんな、闇討ちなんて……。あ、あなたがこんなことをしていると知ったら、悲しむ人だっているはずです!」


 ムダだ。こいつはきっと暗殺のプロ。そんな言葉に耳を貸すはずがない。おそらく誰かに雇われただけでこいつ自身の意志なんてない。

 俺は下手に相手を刺激して、なにか別の手を使われたりしないか気が気でなかった。

 だが黒ずくめの男はすぐさま攻撃に移るでもなく、ただ立ちつくしている。

 顔は目元以外は装束で覆われておりこの暗闇でその目線もうかがい知ることはできないが、なにやらリィナをじっと見つめているようでもあった。

 どこか殺気が薄れた感じもする。張り詰めていた気が緩んだとでも言うべきか。

 ……動揺しているのか? そんなバカな。


「……死にたくなければ、その娘とともに早々にこの街を去れ。これは警告だ」


 つぶやくような小さな声。アサシンは俺に向かって確かにそう言った。そしてすかさず表示される発動スキル。

  

〈遁走 逃走〉


 男が発動したのは攻撃スキルではなく逃走スキルだった。

 そうして黒い影は、再び闇に溶けていった。

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