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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第二章 狂気の斧と勇者の剣
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第九話

 フィーネと宿屋のホールで別れた俺は、自分の部屋のある階まで階段を上ったところでリィナを部屋に放置したままだったことを思い出した。

 どうしたものかと思案しながら部屋の前までやってきたが、結局うまい言い訳も考えつかないままドアをノックする。

 するとドアがそろそろと開き、隙間から案の定完全にふてくされたリィナが顔を出した。


「……コウトさん。遅いです。なにやってたんですか今まで」

「まあ、いろいろ話がこじれてな」

「正直に言えばこじれることなんてないはずです。また嘘ついたんですか?」


 半ば予想通りの展開に辟易していると、


「そうだ、嘘はいけないぞコウト君」

「うわっ!」


 いきなり後ろから何者かにハスキーボイスで声をかけられ、悲鳴にも似た声を上げてしまった。

 慌てて後ろを振り向くと、そこには余裕の笑みを浮かべたロイドが立っていた。


「あんた……、いつの間に? どうしてここが……」

「宿に入っていくところを見かけたのでな、受付で協力を頼んだらすぐに部屋を教えてくれたのだよ。しかし驚きだな」


 ロイドは部屋から顔をのぞかせるリィナに向かって一礼する。


「……リーメイア様。ご無事で」

「ロ、ロイドさん……? どうして……」


 どうやら二人は顔見知りのようだ。それにロイドのやけに恭しい態度は、家出娘とそれを追う断罪騎士団の副団長という単純な間柄ではなさそうだ。


「まさかこのようなところに……。戻られるおつもりはないのですかな? お父上が心配しておりますぞ」

「……父さまは、父さまはわたしを欠陥品とおっしゃいました。復活スキルを持たない失敗作だと。父さまはわたしが心配なのではなく、わたしのことが公になって悪評が立つのを恐れているのです」


 リィナの親は高司祭の誰かか。思っていた以上だ。教会の下にある断罪騎士団。そして教会の頂点に立つ三人の高司祭。

 それならもちろん騎士団もあごで使える。二人に面識があってもおかしくはない。


「ですからわたしは……。もう二度と戻る気はありません」

「……左様でございますか。ならば私から直接お父上にお話しておきましょう。すぐにでも追っ手は引き上げさせます。まあ、私のクビがどうなるかは存じませんが、そのときは私も冒険者でもやりましょうかな」

「ありがとう、ごめんなさい……」


 リィナを優しく気遣うようなロイドの口調に、なんとなく二人の関係性が垣間見えた気がした。

 そこに俺が口を挟む余地があるはずもない。だがロイドは黙り込んでいる俺に向かって急に話をふってきた。


「君、まさかとは思うが手は出してないだろうな」

「……当たり前だ」 

「リーメイア様、部屋を他にお取りしますので、そちらに移りましょう」

「ロイドさん、わたしのことはもう気にしないで下さい。もうわたしはただの一人の娘ですから」

「うーむ、参ったな……。コウト君、きみ今日は野宿しなさい」

「ふざけんな、ここは俺の部屋だぞ?」


 俺は最後まで渋るロイドを押しのけ、部屋に入ってドアを強引に閉めた。

 いい加減リィナを追い出すか。外にロイドの気配も消えたところで、俺は改めてリィナに口を開いた。


「もういいだろ、金なら多少工面してやるから、出て行ってくれないか」

「えっ、あの、わたしは……、別にお金が欲しくてこんな……」

「じゃなんなんだよ?」

「差し出がましいようですがわたし……、本当はもう一度ジャミル、いえシュウさんやコウトさんと一緒にパーティを組めたらなって思ってるんです」

「…………マジで言ってんのか? あんな目にあったって言うのに」

「確かにあれは怖かったですけど、そのおかげでコウトさんとも出会えましたし」

「…………なんともな。シュウは知ってるのか?」

「いえ、まだ」

「……さっきからうるさいからな、ついでに聞いてみればいいんじゃないか」


 実はさっきから何度もしつこくシュウからメッセージが送られてきている。

 「重大発表がある。至急酒場へ来られたし」「無視すんなよおい」「来ないと後悔するぜ?」「いやマジで来て。お願いだから」などなど。

 ずっと無視していたが、やはり俺もあいつにもう少しおとなしくするよう釘を刺しておこうと思っていたところだ。

 時刻は夜八時前。俺とリィナは部屋を出て、シュウの待つ酒場へと向かった。

 




「紹介するぜ。オレの新しいパートナーだ。ほら、アイサツしな」

「レイミと申します。よろしくお願いします」


 酒場に入った俺たちを待ち受けていたのは、上機嫌にふんぞり返ったシュウと謎の美女だった。

 レイミと名乗った長い黒髪の女性は、控えめにシュウの隣に腰掛けている。

 派手な白のワンピースを身に着けてしとやかに佇む姿は、とても冒険者とは思えない。

 一緒に冒険する仲間、というよりかはお手伝いのメイドのような……。それにどこか機械のようなぎこちなさを感じる。


「シュウさん、ど、どうしたんですかそちらの方は!」


 俺の隣に座るリィナが驚いて声を上げる。どうしたんですか、という聞き方もどうかと思うが、明らかに怪しい。

 

「お、おう、リィナも一緒か、なんだお前ら仲良しだったのか? なんだよ、リィナは俺が最初に目を付け……、じゃない仲間に誘ったっつーのに」

「それでどういう関係なんですか!?」

「ど、どうしたもこうしたもねえよ、お互い意気投合したってことだよ! そっちはそっちでよろしくやってんだろ? ならいいじゃねえか」


 俺はシュウを無視して女の方に視線を移し、直接本人に問いかけた。

 

「あんた、プレイヤーか? ギルドランクは?」

「おいおい、ちょっかいだすのはやめてくれよ」


 女は俺の質問になんの答えもよこさない。シュウの顔を見据えたまま微動だにせず、まるで聞こえてないかのようだ。

 なんだ? この女……。


「あれ、なんか恥ずかしがり屋さんなんですかね?」

「ムダムダ。なんたってその子はオレの言う事しか聞かないから」

「ああ? どういうことだそれは?」

「……あ、やべっ」


 俺はあっさり尻尾を出したシュウの尋問を開始する。こういうのは俺の得意分野だ。

 誘導尋問を駆使しつつ次から次へと出てくる矛盾点を指摘し、芋づる式にどんどん情報を引き出しすことに成功した。

 相手が馬鹿すぎたというのもある。


「……で、要するにそのジジイが勝手に用意しただけで詳しい事は知らない、と」

「そうだよ! もういいだろちきしょう! この鬼!」

「……思い当たるフシがないな。単なる『魅了』状態ってわけでもなく、だいたいクリスタルから復活させた後は……」


 俺が長考に入った横で、リィナがポツリと寂しそうな声を出した。


「わたし、シュウさんを見損ないました……。やっぱり考え直そうかな……」

「な、なんだよリィナ、この際もうなんでも思ってること言えよ!」

「わたしまた前みたいにシュウさんとパーティ組みたいなって思ってたんです。その、できればコウトさんも一緒に」

「そ、そうか、そうだよな! いやオレだってさんざん食い下がったんだけどこの頑固ヤロウが何かと理由付けて断りやがるもんだから、一人さみしくパシリを命じられたオレはあんなジジイにコロっと騙されちまって……」

「パシリにしてたんですか!? ひどいですよコウトさん!」

「そうだ! 責任取れ!」

 

 ……うるせえな、集中できねえだろ。

 そのクリスタルを奴隷に変えて売りさばいているという老人がどうしてもひっかかる。ただの奴隷じゃなく持ち主の言う事を何でも聞くというおまけつきで。あまりにも俺の作ったルールから外れすぎている。どちらにせよ一度調べてみる必要がありそうだ。


「じゃあ明日、そのジジイのところへ一緒にその女を返しに行くぞ」

「お、おう。……明日か」

「いま名残惜しそうにしなかったか? いかがわしい命令するなよ?」

「わ、わかってるって。こう見えてもオレは紳士だぜ?」


 目を泳がせるシュウにリィナが凍てついた視線を送った。




 

 時刻は深夜0時に差し掛かるころ。ついでに晩飯をとった後、シュウの武勇伝を聞かされていたらいつしかこんな時間になってしまった。

 何か役に立ちそうな話があるかと思い付き合っていたが、うさんくさい話のオンパレードで結局時間を無駄にした。

 シュウはこの建物の二階に部屋を取っているらしく、酒場の入り口まで見送られて俺たちは別れた。リィナは羽振りの良さそうなシュウから金を受け取り今晩別の部屋を取るということになった。


 外はもう真っ暗だ。朝方まで営業している酒場から少し離れると、一気に人の気配がなくなりあたりは静寂に包まれる。

 聞こえるのはザッ、ザッという二人分の足音だけ。街に設置されているかすかな街灯の明かりも心もとない。

 俺とリィナは足早に宿への道のりを急いだ。


 やがて大通りから横道に入る角に曲がった時、急に俺の視界を奇襲の合図である赤文字が塞いだ。

 

〈雷爪 ショート 大 短刀〉

シュウと老人のくだりは二章三話の冒頭です。

いちおう注記。

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