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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第二章 狂気の斧と勇者の剣
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第八話

 瞬間、騎士を中心に地面を紫の稲妻のようなものが駆け巡った。

 紫の光によって、直径二十メートルほどのバトルフィールド全てを飲み込んでしまいそうな幾何学文様の魔方陣が形成される。


「うぉおっ!」

「ぐあっ!」


 剣士とシーフ一人が悲鳴を上げた。彼らの全身を紫光が絡みつくように締め付ける。

 『ジャッジメントプリズン』は罪人スキルを持つものに対し完全な行動不能を強いる技。

 断罪騎士のなかでもごく一部しか使えない強力なスキル。その攻撃範囲は大きく円状に広がる。

 有効範囲から外れるか術者を消すか、もしくは術者自らスキルをキャンセルしない限りその効果は永続する。

 自力で抜け出すことは……、『神託』を使って隅々までチェックすればもしかしたらどこかに穴があるかもしれないが、まず不可能といっていいだろう。


 俺はこの技が自分に危害を及ぼす性質のものでないと知っていたためあえて何も反応しなかったが、それにしても恐るべき発動スピードだった。

 罪人達を行動させる前に縛り上げる。確かに俺はそういうイメージでこの技を設定した記憶があるが、実際目にしたのは初めてだ。

  

「う、うわああっ!」


 一人のシーフが逃走した。おそらく一人だけ罪人スキルを持っていなかったのだろう。

 騎士はすぐに部下と思しき兵たちに指示を出す。


「捨て置け。この二人に拘束魔法をかけて先に連行しろ。後は私が始末する」

「はっ」


 一般兵二人はすばやくそれぞれ剣士とシーフに一人ずつ張り付き、街のほうへ向かって歩き出した。


「ち、ちきしょう放しやがれっ! だいたいなんだ今のは、聞いてねえぞ! あんなもん反則だ!」

「黙れ貴様、おとなしく歩け!」


 あっという間の出来事に俺とフィーネはただ呆然とその場に立ちつくす。この手際のよさは、相当場数を踏んでいるとすぐに予想がついた。

 騎士はしばらく四人を見送っていたが、やがてゆっくりとこちらを振り返った。


「さてと……、罪人でもない君らに用はない、と本来なら言うところだが、君名前は? ちょっとフルオープンしてもらおうか」


 騎士は部下がいなくなったせいか、先ほどまでの厳しい態度よりずいぶん柔らかい口調だった。

 だが要求はかなり無茶である。初対面の人間にいきなり全てをさらけ出せといっているようなものだ。 


「断る」

「早いな君。下手に逆らったらまずいかも、ぐらい思わんのか」

「俺たちは野党に襲われた被害者だぞ? それを防ぐのがお前らの仕事だろ。なんで俺がフルオープンしなきゃならないんだ」

「襲われた被害者ねえ……。じゃその武器、ちょっとおじさんに見せてごらんよ」


 騎士は口の上に蓄えたヒゲをさすりながら言う。

 付き合ってられるか。俺は無視して武器をアイテムボックスにしまった。


「ふん、それほどに拒むというのは、何か見られたらまずいものでも持っているのかな? ……例えば人喰いのクリスタルとか」


 俺はギクリと硬直しそうになるのをすんでのところでこらえ、騎士を睨むように見据える。

 

「じゃそちらのお嬢さんに聞いてみようか。何か心当たりがあるかな?」

「え? わ、わかんないよ、あたしだってなんのことだか……」


 フィーネはあたふたして言葉に詰まる。

 たぶん断罪騎士が相手で萎縮しているんだろう。でもそれはフィーネに限ったことではなく、一般的な冒険者なら当然の反応だ。

 それにこいつはただの断罪騎士じゃない。ドーンゲートに長くいれば顔ぐらいは誰だって知っている……。

 

「……こんなところで俺たちなんかに構ってるヒマあんのか? 副団長のロイド・ヴァーミリアムさんよ」

「ふむ……。フルネームまでは滅多に明かさないんだが、どこかで会ったかな?」

「あんた、そんだけの力がありながらなんで人喰いを野放しにしてたんだよ?」

「あれはこちらから手を出さない限りは無害だったはず。夕闇の森以外で被害にあったという報告は受けていない」


 まあおおむねその通りだし俺も同意見だった。だが話を逸らすためにさらにつつく。


「それは結果論だろ。トチ狂っていきなりそのへんで無差別にやりだした可能性だってあった」

「ふうむ。言っておくがね、そんなかもしれない、ものに人員を割くほど我々も暇ではないのだ。人喰いより厄介な案件が目白押しなのだよ。たとえばいま旬なのが没落貴族の墓のノーブルファントム。すでに何組ものパーティが行方不明になっている。このままだと人喰いの被害を越す勢いだ」


 またノーブルファントムか……。一体何の亡霊と戦ってるんだか。


「じゃあ、なおの事俺に絡んでる場合じゃないだろ」

「君の正体を突き止めることはなかなかに優先度が高いと私の勘が言っている」

「正体も何もねえよ、俺は……」

「ああ、わかったわかった。もう日も暮れたことだしコウト君、今日のところはこれでお開きにしよう。もう十分収穫があった」

「てめえ……!」

「……我々を見くびってもらっては困る。あと君の仲間、シュウ君だったかな? かの有名な人喰い退治の。まあ驚いているよ、まさか無名の冒険者が人喰いを仕留めるとは。君は簡単に言うけども正直私もあれとはやりあいたくなかった。絶対安全に勝てる、という保証がなかったからね」

「はっ、断罪騎士が聞いてあきれるな」

「そう言わないでくれ。第一ヤツは断罪騎士の影があると姿を見せなかっただろう。まあ、その点君には感謝しているよ」


 それはどういう意味だ、と言いかけたがここでロイドと問答していてもこっちが疲弊するだけだ。

 ふざけてカマをかけてるんだが全部知ってるんだか、こいつの瞳からは底が見えない。

 俺の設定したロイド・ヴァーミリアムはこんなんじゃ……、もっとガチガチに生真面目で頑固な、言うなれば軽くあしらいやすい人格だったはず。

 

「ではこれにて失礼する。また会おうコウト君」


 ロイドはウィンドウを開き二、三回なんらかの操作をした。

 すると彼の真下に魔方陣が出現し、体全体をまばゆい光が包んだかと思うとすぐに人影は消えてなくなっていた。


「わ、すごい。なに今の! 消えちゃったよ!」

「転移魔法だろ。なにも街はすぐそこなんだから走っていきゃいいものを」


 転移魔法といってもそれほどたいしたものじゃない。使用したのは多分『リターン』スキル。

 あらかじめ指定してある場所にワープする魔法だ。使えるのはフィールドのみで、戦闘中はもちろん使用不可。

 HPが全快、周囲に敵がいない、対象は自分一人のみなどなど細かい条件がある。要求するスキルレベルも高く、習得も面倒で俺は当然使えない。

 どうせ見せびらかしたいだけだろう。


「ったく、どいつもこいつも人をバカにしやがって……」

「……なにをそんな怒ってんの? 助かったんだからよかったじゃん。ていうかさあ、コウトくん絶対あたしになんか隠してるよね」

「知らん。気のせいだろ」

「絶対ヘンだよ。なんかよくわかんないことばっかしゃべってるし。さっきの人だって、かなりすごい人なんだよ?」

「どうでもいい。……もういい加減帰るぞ」


 あたりはすっかり暗くなってしまった。

 俺たちは策敵スキルを使いザコをよけつつドーンゲートへの帰路についた。


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