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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第二章 狂気の斧と勇者の剣
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第七話

 スキルを発動した俺の視界に変化が訪れる。

 敵のシルエットの横に浮かび上がる文字や数値。それは盗賊たちが発動予定のスキルとその命中率、与ダメージ率等の通常では知りえない情報。

 予測演算能力。それが『神の眼』のスキル効果。

 『神託』と同様に俺が考案したものではない、いわば隠しスキルとも呼べるもの。

 

 俺に向けられた男剣士の現段階での発動予定攻撃スキルは『ライジングスラッシュ ショート 中 片手剣』。命中率76、与ダメージ率27、クリティカル発生率4。

 与ダメージ率はHPの最大値に対する数値なので、このスキルならクリティカルが発生しなければ直撃しても三発なら耐えられる。

 だがこの通りに戦闘が行われるとは限らない。相手が直前で使用スキルを変更したり、命中率や威力が変化するサポートスキルを発動すればもちろんこの数値は変動する。

 こちらが回避スキルや防御スキルを選択すればその都度再計算された数値が参照される。

 発動予定スキルやその結果が前もってわかるというのは、とっさにある程度の戦略を組み立てることができるし、精神的にも余裕ができる。

 これに俺の知識が加わればまさに鬼に金棒だ。そして『神の眼』が真価を発揮するのは攻撃時。


 俺はスキル発動と同時に武器を変更する。

 アイテムボックスから取り出したのはAランク両手剣ストライクブレイド。

 両刃の大剣は美しく洗練されたフォルムながらも、その内側に凄まじい破壊力と爆発力を秘める。能力補正値も高くとても優秀な武器だしメイン武器にしてもいいぐらいだ。

 この武器はセイルが最後に装備していたもので、ドロップアイテムとして俺が入手したものだ。

 俺は今回どうしてもこいつを使いたい。

 

 俺が発動しようとしているのは、ストライクブレイドで使用可能な三種類の攻撃スキルのうちの一つ『ノヴァストライク』。

 斬撃属性の一撃をターゲットに叩き込み、さらに衝撃波を発生して付近の敵にもダメージを与える範囲攻撃だ。

 発動に要求されるスキルは『剣レベル24』『腕力レベル14』『ジャンプレベル6』となかなか高レベルだが、武器の補正により俺のスキルレベルは上昇しているためどうにか条件を満たしている。


 手前の剣士の男にターゲットを合わせると、『神の眼』が一瞬で結果をシュミレートし情報を導き出す。

 命中率109、与ダメージ率79、クリティカル率18、気絶発生率20。

 『神の眼』は各種ステータス異常の発生率も算出する。これは言い換えれば相手がどんな耐性を持っているのか一目瞭然ということになる。

 ちなみに気絶は1~3ターン完全な戦闘不能に陥るという致命的なステータス異常。

 クリティカルが発生すれば一撃でクリスタルへとその身を変化させる事になる。

 

「お? なんだ、いっちょまえに両手剣だと? どうせタダのナマクラだろうがな」 

「そうかもな。これはお前らの言う『カス』のセカンドウェポンだったしな」


 おそらくセイルに最初からこいつを使われて、まともに戦ってたらまず勝てなかっただろう。

 セイルはマンイーターなんかに頼らなくても十分強かった。一度仲間とともに過去の人喰いを討伐したくらいなのだから。

 ここで俺はこの武器を使い、それを証明する。


「あ? 意味わかんねえこと言ってねえでさっさとかかってこいや! ビビってんのか? しょうがねえな、ホラ、俺はなんもしねえから先に一撃やってみろや」


 剣士は威嚇するようにそう言うと、軽く持ち上げていた剣をだらりとぶら下げる。

 すぐにやつらの別の狙いを疑う。後ろのシーフが何か企んでるのか? と勘ぐったが奴らのスキルに変更はない。

 しかし当の剣士の発動予定スキルが明らかに変化していた。


 『ソードリアクター ショート カウンター 片手剣』 

 

 『ソードリアクター』はショートレンジ攻撃に対するカウンター技。

 カウンターを無効にする等の特殊なスキルを使われないかなり高い確率で成功する。与えるダメージもかなり高め。

 何もしない、といいつつ俺の剣攻撃をカウンターで返すつもりだ。おちょくっているように見せかけてだまし討ちとは、つくづくずる賢い男だ。

 片手武器は両手武器とかち合うと一方的に潰される。しかしカウンターはその限りではない。おそらくヤツは、俺が威力、命中率ともに高めの技が多いショートレンジの攻撃スキルを放つと思っているのだろう。 

 だが『神の眼』の力で事前に発動スキルを知りうる俺にカウンターは通用しない。カウンター待ちをしているとわかっている相手に誰が手を出すものか。

 それに残念ながら『ノヴァストライク』はミドルレンジの中攻撃。ショートレンジの技しか使えないようなナマクラではない。

  

「相手を殺す気でいるって事は、自分が殺されても文句は言えないよな? 当然その覚悟はあるんだろ?」

  

 俺は最終警告をする。

 命中率105、与ダメージ率101、クリティカル率18、気絶発生率20。

 『集中』(命中率UP)『豪腕』(物理攻撃力UP)『重剣』(両手剣による攻撃力アップ、命中率ダウン)

 その間これらのサポートスキルを発動した場合の『ノヴァストライク』の数値をシュミレートした。このままスキルを発動すれば、確実にこいつは戦闘不能になる。 

 この技はターゲットを中心に周りにも何割か被害が及ぶ範囲攻撃のため、仲間のシーフも無事では済まない。

 もちろんこいつらがクリスタルになったところで復活させる気はないしその義理もない。


「はぁん? つくづくナメくさった野郎だなてめえは。殺される覚悟ができてるか聞きてえのはむしろこっちのほうだぜ?」

「だよな」


 俺はその返答を肯定と受け取った。

 剣を構えなおし、無駄なカウンターを狙っている相手に向かって攻撃スキルを発動しようとしたその時。

 

「あっ、やばい、ちょっと待ったコウト君! あれ!」

 

 後ろのフィーネがすっとんきょうな声を上げた。

 さっきから忙しいやつだな、と俺は心の中でぼやきつつ、フィーネの指差す先に視線を走らせた。

 その先にはまたも三つの影がすぐ近くまで接近していた。俺は無駄なSP消費を避けるため策敵スキルを切っていたので、全く気がつかなかった。

 向こうもシーフの一人もいま気づいたような慌て方をしている。

 

「貴様らそこで何をしている!」


 くぐもった叫び声が聞こえた。表面に十字に穴がうがたれた頭部全体を覆う兜に、十字架の模様が刻まれた身の丈の半分ほどもある大盾。

 その声の主が神宣騎士団こと断罪騎士のものであることは、その姿を一目見れば子供でもわかる。

 長槍に大盾、フルフェイスの兜。そして白い法衣の上に鉄の鎧が断罪騎士の標準装備。

 

 現れたのはその標準装備の一般兵二名と、後ろで控える壮年の騎士。沈みかけの西日が白を基調とした彼らの装飾にキラキラと反射している。

 こんな目立つ兵装をしているのは第一に規則のためであるが、断罪スキルの補正値が高いという側面も持つ。


「ああ? なんだよ、断罪騎士サマがなんの用だ! 俺たちはまだなんにも……」

「なら貴様らの手に持っているその武器はなんだ? 私闘は我々騎士団に前もって届け出が受理されない限り固く禁じられているはずだ」

「はあ? 知るかよそんなん! この辺だけのローカルルールだろ!? 俺らは本来こんな低レベル帯にゃ用はねえんだ」


 剣士は俺たちの間に割りこんできた一般兵に食って掛かる。

 兜で顔が覆われているためその表情はうかがい知れないが、かなり高圧的な態度だ。


「なんだと貴様、楯突く気なら……」

「よい、下がれ」


 すかさずもう一人の一般兵がずい、と前に出ようとしたのを手で制したのは、明らかに一人だけ雰囲気の違う男。

 この男だけは全く武装が異なる。防具は法衣の上に白銀の胸当てだけという軽装。赤いマントを背にたなびかせている。

 俺はこの男を知っている。この装備には覚えがあった。

 

「さて……」


 二人の一般兵を下がらせた騎士は腰元の長剣を引き抜くと、ゆったりとこちらに歩いてきた。

 そして身構える俺たちをよそに、無言のまま剣を地面に突きたて攻撃スキルを発動した。

 

〈ジャッジメントプリズン 断罪 特殊〉

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