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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第二章 狂気の斧と勇者の剣
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第五話

 俺は見事自分のレベルを的中させられ、フィーネの訓練に付き合うことになった。

 たまたまカンで当てたのでは? と半信半疑だった俺だが、その後基礎ステータスである筋力、体力までズバリと当てられたのだからすでに疑う余地はなかった。

 見えるのはレベルと基礎ステータスだけでさすがにスキルまでもとはいかないらしいが、それでも十分すぎるというもの。

 あのセイルだってレベルを知るのにかなり苦労していたのだ。

 それにもしかしたら、スキルレベルが上昇し見える範囲が増える可能性もある。これはかなり、いやとてつもなく大きな武器になるだろう。

 

「ふーっ、ざっとこんなもんかな」


 ここはドーンゲート近くの草原。

 俺が様子を見守る中、フィーネはこの界隈で最強のザコモンスターである猪型モンスター、ドリルブルの群れを軽く蹴散らしたところだった。

 夕陽が沈みかけそろそろ辺りが暗くなってきそうな時間。午前中にここにやってきてから軽く昼食をはさんだ後も、彼女はひたすらモンスターを狩り続けた。

 モンスターの出現率自体はそれほど高くないものの、もうかなりの数をこなしたはずだ。

 

「もう三~四体ぐらいなら囲まれても全然楽勝だね。ていうか弱すぎ。なんでこんなのにビビってたんだろ」

「ならソニックスワロー外せ。ロングソード貸してやるからそれで現実を見ろ」


 フィーネはロングレンジの中攻撃『飛燕剣』を連発していただけである。片手剣でありながらロングレンジの強力な技を備えている点がこの武器の最大の特徴である。要求スキルレベルも低いためフィーネのような駆け出しにも発動可能。

 

「でもレベルアップもしたし。これで17!」


 NPCはレベル15までは年齢とともに自然にレベルアップするらしい。

 つまり一度もモンスターと戦うことなくレベルだけは一人前、なんてこともあるようだ。フィーネもほぼその状態だった。

 ちなみに俺はNPCにこんな設定は作っていない。年を重ねるごとに成長する、という意味なのだろうか。断っておくがプレイヤーは全員レベル1からのスタートである。

 まったく、いきなり冒険者を目指したり家出したり新しい能力に目覚めたりで勝手なやつらだ。


「そうやっておいそれと自分のレベルを口にするんじゃない。誰に聞かれてるかわかったもんじゃないぞ」

「なんでぇ、どうせコウトくんしかいないじゃん」

「この辺は有数の大都市ドーンゲートの周辺だ。適正レベル以上のやつらがここを拠点に狩りをしてることも多い」

「この骨200クレジットになるんでしょ? さっさとモンスター狩りしてればよかったなぁ。今までずっとモンスターと戦うなんて気にならなかったんだよね」


 もともとNPCなんてそんなものだ。フィーネは元をたどればただの村人。

 これまでは無意識下でモンスターを恐ろしいものと認識し避けていたはず。モンスターを狩って稼ぐなんてもってのほか。

 やはりプレイヤーの出現によって世界のバランスが崩れ始めている。


 モンスターを倒すと自動的にクレジットが振り込まれる。パーティを組んでいる時は人数で等分プラスアルファ。

 ただし金額はそれほどでもなく、金稼ぎをする場合は基本的にドロップアイテム狙いになる。

 拾ったモンスターの肉や骨を街の武器屋なり料理店なりに持ち込み、トレードで換金したほうがずっと実入りがいいからだ。

 ドロップアイテムを換金しパーティ間で等分、という流れが一般的。レアアイテムの場合は取り合いになるだろうが。


「でさ、あたしいま初めて自力でレベル上げたんだけど、どういう風にステータスを上げるのがいいかな?」


 フィーネはウインドウを開きオープン状態にして俺に見せてくる。


「だからそうやって軽々しくオープンするんじゃない。……にしても平坦なステータスだな。いや、これは…………なるほど、そういうことか」


 レベルアップ時のステータスアップは、自分でボーナスポイントを振り分ける事ができる。

 もちろん全てのステータスを平均的に上げることもできるが、はっきり言って賢い選択ではない。というかそんなことをするプレイヤーはまずいないだろう。

 だがフィーネのステータスはまさにその状態だった。それにレベル17にしては低い数値だ。

 おそらくNPCの年数の経過とともに行われる自動レベルアップは、自ら割り振りをすることができずさらにステータス上昇率も低いのだと考えられる。

 

 キャラクターの基礎ステータスは筋力、体力、敏捷力、集中力、知力、精神力、運の七つ。

 これらの数値はレベルアップ時に与えられるポイントを割り振ったり、クラスや武具による補正で変動する。

 ただし筋力を上げれば岩を砕けるようになるわけではない。

 筋力と体力を上げる事によって『腕力』スキルや『耐久力』スキル、筋力と敏捷力を上げる事によって『ダッシュ』や『ジャンプ』といったステータススキルを獲得する事ができる。

 

 例えば筋力値15、体力値10の時点で習得するのは『腕力レベル1』。このレベルは数値が上がるほどどんどん上昇していく。

 体力、精神力を上げれば『毒耐性レベル1』などの各種ステータス異常を防ぐスキルの習得も可能だ。

 ちなみにステータススキルレベルの上限は999。だがクラスや武具による補正でそれを超える事もある。

 

『腕力』レベルが上がれば戦闘中以外はいわゆる力持ちにはなれるが、これがそのまま戦闘能力の向上につながるわけではない。

 攻撃スキルの種類によって、威力や命中率は一定。『腕力レベル50』と『腕力レベル1』の人間が同じスキルを使用した場合、威力は同じである。

 レベルの上昇イコール攻撃力の上昇とはならない。攻撃スキルを発動するために『腕力』がなんレベル必要だとか、あくまでレベルはスキルを使用可能になる条件に過ぎない。

 ただし戦闘中にのみ使用可能な攻撃力アップのサポートスキルを発動した場合、当然差が出ることになる。

 例えば剣士の固有スキル『剣舞』は片手剣による攻撃の命中率、威力を上げるサポートスキルである。


 サポートスキルの行使にはSPが必要になる。

 SPはHPバーとならんで常に表示状態にされるほど、重要な数値である。

 戦闘非戦闘中を問わず、スキルを発動する際にはSPが消費される。戦闘終了ごとにある程度回復する。回復量は装備品やクラス、スキルによって変動。

 戦闘前になんらかのスキルを使いSPを消費していた場合は、減少した状態から戦闘開始となるため強敵との戦闘前はなるべくSPを全快状態にしておくのが常だ。

 

「お前が何を目指しているのか知らないが、シーフなら敏捷や集中を上げておけば固有スキルの習得や強化には役立つだろ」

「ふぅん。シーフって探索とかに役に立つかなって思ったんだけど、それらしいスキルがまだ……。あれ、そういえばコウトくんって何のクラスについてるの?」

「俺か? 俺は…………剣士ソードファイターだ」


 自分の情報を漏らしたくない俺は一瞬答えるのをためらったが、なんとなくフィーネの調子に毒されてか偽りない答えを口にしてしまった。

 実は俺も当初はシーフで活動することが多かったが、人喰いとの戦いでヴェンジェンスエッジを使うために剣士に熟練して以来そのままだった。

 

「剣士っていうわりにはなんかしょっぼい武器使ってるね。それただのロングソードでしょ?」

 

 フィーネは俺が右手に持っているロングソードを指差した。

 厳密にはロングソード+1なのだが性能にそれほど大差はない。


「……なんで俺がザコ相手に決戦用の武器を披露しなきゃならんのだ」

「って言ってもコウトくんレベル24でそこまであたしと変わらないじゃん。ところで決戦用ってなに? そんなすごいの持ってるんなら見せてよ」

「声がでかい! ……フィールドって言っても誰がどこで見てるかわかんねえんだぞ。そんなことできるか」

 

 でかい声で人のレベルを言うフィーネをたしなめる。どこから情報が漏れるかわからないのだ。

 

 結局フィーネは俺の言った通りに敏捷と集中を上げ、その結果『ダッシュレベル5』『策敵レベル1』を習得したそうだ。

 日も暮れてきたしちょうどレベルアップもしたようなので、そろそろ切り上げようかと思っていたところ俺の策敵スキルが何者かの接近を知らせた。

 

 またモンスターか、と思ったがどうやら違うようだ。

 策敵スキルレベルがそこまで高レベルでないため、わかるのはおおよその方角とモンスターでないことだけ。有効距離もそう広くない。

 その方向に目をやると50メートルほど先に三つの人影が確認できた。

 小走りでやって来た三つの影はすぐに俺たち二人の前までやってきた。ずらりと三人の男が横に並ぶ。

 剣士一人にシーフ二人、といったところか。剣士は銀の胸当てに宝玉のついた金色の鉢金とそこそこいい装備をしている。

 遠目では単に同じレベル上げ仲間かと思ったが、俺たちに用事があるらしい。

 

「いやあどうも。お二人もこの辺で稼ぎを?」


 剣士が友好的な笑みを浮かべながら、一歩前に出て声をかけてきた。

 フィーネがすかさず答える。


「はい。でもそろそろ街に戻ろうかと……」

「ああ、そうでしたか。実は私達、つい最近冒険者の真似事を始めたばかりでして」

「あたしも似たようなもんですよ。モンスターとまともに戦ったのだって今日が初めてで」

「おやそうでしたか。それは奇遇ですねぇ。……ところでそちらの方は彼氏さんですか? いやぁ美男美女カップルで羨ましい。相当腕も立つんでしょうね」

「か、彼氏とかじゃないですよ全然! それにこの人腕っぷしだってそんなたいしたもんじゃないですから」


 剣士とフィーネが勝手にしゃべりだした。

 横でただ会話を聞いていた俺は、あまりにくだらない茶番に心の中で失笑しつつもこの場をどう切り抜けるか考えていた。

 

 ……三人か。対するこっちはお荷物が一人。策敵スキルをもう少し上げておくべきだったな。

 

「はっはっは。そうですかそうですか、それは結構」


 剣士はひときわうれしそうに表情を緩めた。

 しかし次の瞬間、その表情は激変する。


「……なら、アイテムと有り金全部置いてけや!!」 


 男はそう大きな声で威嚇すると同時に右手に直剣を呼び出した。


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