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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第二章 狂気の斧と勇者の剣
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プロローグ

「いったいどうしたんだみんな……!?」


 ここは没落貴族の墓と呼ばれるダンジョン最奥の部屋。 

 魔術師ネイルは眼前で繰り広げられる光景にただ戸惑い立ちつくしていた。

 

 ネイル率いる五人のパーティは、ごくまれに出没するノーブルファントムというレアなボスモンスターを討伐しにこのダンジョンに潜っていた。

 当初は宝の山だったこの迷宮も、すっかり漁りつくされもはや探索の余地はなく訪れる冒険者はほとんどいない。

 ネイルたちの狙いはただ一つ。レアアイテムと大量のゴールドを落とすというボスモンスターのみだった。

 

 一行のレベルやスキルはこのダンジョンの適正到達水準をはるかに超えており、足取りはひたすらに軽かった。

 そのため薄暗い迷宮の中にあっても、ボスモンスターに遭遇しても楽勝だろう、などと談笑する余裕がありパーティ全体は終始和やかな雰囲気であった。


 だが、異変は突然起こった。

 今ネイルの目の前で仲間が一人、また一人と倒れていく。

 繰り広げられるのはまさに命を賭けた死闘。パーティ内についさっきまでの緩んだ空気は微塵もない。

 彼らは全身全霊を込め体が命ずるままに己の武器を振るう。武器同士が激しくぶつかり合い、時たま人体をえぐるような不快な音が部屋中にこだまする。

 

「うおおおおおっ!!」

「はあああああっ!!」


 響き渡る決死の咆哮。自らを奮い立たせ強敵に打ちかかる合図。

 だが、彼らの標的はボスモンスターなどではなく、ましてや楽々蹴散らせるザコモンスターでもない。

 

 全力で殺しあうのは、ついさっきまで仲間だったもの同士。

 一人戦慄するネイルの前には、見境なく同士討ちをする仲間達の姿があった。

 

「や、やめろっ! お前たち、どうしたんだ一体!」


 ネイルの声は仲間たちの雄たけびにむなしくかき消される。

 それでも必死になだめようと声を上げるネイルに、今しがた仲間の一人を再起不能にした戦士が体を向けた。

 

「ジェイク! おい、気づいたか!?」


 ネイルが彼の名前を呼ぶも、それには答えず近寄ってくる戦士。

 そして無言のまま手にした巨大な両手斧を構える。


〈フルグラインドスラッシュ ショート 中 両手斧〉


 視界にいきなり表示された攻撃スキルにネイルは何の対応もできずただ硬直するのみ。 

 激しく振り回された斧による斬撃でネイルの体は大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 慌てて身を起こしたネイルがHPバーを確認すると、青のゲージはすでに残り四割を切っていた。


(信じられない、ジェイクの一撃でこれほどまでのダメージ……? それにあの武器は……)


 ネイルは戦士ジェイクの持つ巨大斧を注視する。

 そう、あれはついさっき隠し部屋の棺の中から発見したものだ。壁一面にロウソクが並んでいるこの部屋の一角にそれはあった。

 この部屋にいた墓守だという老人NPCがゴールドと引き換えに提供してくれた情報。

 その情報によるとさらにその斧で壊れる壁がこの部屋にはあり、その先には隠れた財宝があるという。

  

 とりあえず第一発見者であるジェイルが早速斧を装備し、皆で壁を調べ始めた矢先、気がつくとネイル以外の全員が味方に向かって武器を振るいだしていたのだ。

 

(これは……混乱コンフューズ? だがそれなら攻撃を受ければ我に返るはず。それに多人数を一気に混乱状態? そんなスキルは聞いたことがない)

 

 ジェイクの一撃で逆に冷静を取り戻したネイルは、今の状況を分析し始めた。 

 ステータス異常である混乱コンフューズは敵味方の区別なく行動するというもので、物理攻撃を与えればダメージの大小に関係なくその場で解除される。

 仲間が混乱状態に陥っているというネイルの予想はおおよそ当たっていたが、彼はその確信を持てていなかった。

 というのは、単純な混乱状態であれば今の仲間達のようにひたすら物理攻撃を繰り返すということはまずあり得ないからだ。

 普通なら回避スキルやサポートスキル、逃走することだってある。だが行使されるのは攻撃スキルのみ。

 その上一向にステータス異常が解除される様子もない。


(そもそもなぜステータス異常に……? 何かのトラップ? それとも第三者の攻撃? しかしここには俺たち以外には……)


 その時ネイルがはっとある視線に気づく。

 その視線の先をたどるとそこには、部屋の入り口からこちらを見つめる老人NPC。

 ふらりとどこかへ去ったと思っていた墓守は、いつの間にか再び姿を現していた。


(まさかこれはヤツの……!? ただの墓守NPCではなかったのか!?)

 

 腰の曲がった老人はみすぼらしい茶色のローブに身を纏いただ不気味に立ちつくしている。

 情報を得た時の生気のない瞳とはうって変わり、妖しく老獪な目を鋭く光らせていた。

 確かに違和感はあった。もうすっかりこのダンジョンのアイテムは発掘されつくしているはずなのに、隠し財宝などといったものが手付かずで残っているというのはおかしな話だ。

 それに墓守がいる、などという話も聞いたことがない。

 ただネイルたちは目当てのモンスターとも出会えず、収穫ゼロで終わるかと思っていたところに思わず転がり込んできた話にまんまと乗っかってしまったのである。


(正体はわからないがこれはヤツのスキルに違いない! 早く術者をなんとかしなければ!)

 

 ネイルは殺しあう味方の横をわき目も振らず走りぬけ、老人に肉薄する。

 そしてターゲットを定め攻撃魔法スキルを発動しようとした瞬間。


〈朧夜叉 ミドル 中 短刀〉


 ネイルの前に赤文字で表示される攻撃スキル。赤文字は奇襲で攻撃スキルを受けた時に使われる。

 つまりネイルは何者かに背後からの不意打ちを受けたことになるが、彼の仲間に短刀を使うものはいないはず。

 ネイルは謎の奇襲に焦るが、防御スキルを選択しようにも彼は奇襲を防ぐ防御スキルを持っていなかった。

 

 ズシャリと振り下ろされる強襲の刃。

 その直撃を受け、走っていたネイルは前方に飛び込むように倒れこむ。

 ネイルはうつ伏せに倒れながらも、赤く点滅するHPバーを横目になんとか顔を上げて背後の相手を視認する。

 全身を黒い装束に包んだ人型のシルエットをわずかに目の端で捕らえた。唯一露出している鋭い両目が、ギラリとこちらを見下ろしている。

 それまで一切気配すら感じられなかった異質な空気を持つその人物は、異様なまでの存在感を放っていた。

 

〈マジックキラー ロング 中 ボウガン〉 

 

 立て続けにネイルの前に攻撃スキルの表示。赤い輪郭を帯びた老人が、ボウガンの矢の先をこちらに向けていた。

 倒れている間は一種のステータス異常とみなされ、使用可能な防御スキルが制限されたりレベルダウンしてしまう。

 謎の人物に気をとられていたネイルは、それでもぎりぎり回避スキルの選択を行った。

 だが――。


 ――ズンッ!


 床に這いつくばったままのネイルの頭に、容赦ない止めの一撃が突き刺さった。


   

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あの魔法使い(マジシャン)、いや魔術師ウィザードか? 珍しいのう、混乱コンフューズ狂戦士バーサーク、両方耐性を備えとったのは」

「……魔術師に狂戦士のステータス異常は命取り。それにおそらくリーダーの人物が混乱耐性を優先するのは自明の理でもある」

「じゃがさすがに奇襲までは防げんかったようだの、ククっ。……おぬしの事は頼りにしておるぞ、暗殺者アサシンフェイル」


 黒い男は何も答えない。

 だがしわがれた老人はニヤリと笑みを浮かべると、部屋に散らばる赤い輝きを放つクリスタルの回収を始めた。


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