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Skill Force Fantasy  作者: 七草 
第一章 人喰いの剣マンイーター
13/36

番外編

フィーネ視点のお話です。

フィーネって誰? ってなると思いますが、4~5話に出てくる女の子です。

ただの脇役ではなくてこれからも出ます。

  あたしの名はフィーネ。ドーンゲートを拠点にギルドの仕事をこなす冒険者。

 冒険者って言っても前人未踏の地を開拓したり、奥深いダンジョンを探索したりなんてことはまだしてないんだけど、今はいちおうそういう肩書き。

 もとはドーンゲートの西の方にある辺鄙な村で生まれたしがない宿屋の娘。

 で、その手伝いが嫌になって家を飛び出してきたってわけ。だって退屈なんだもん。

 

 なんたっていまこのハイゼルラントは未曾有の危機、っていうかパニック? になってるんだから。

 それは異世界人の出現。

 異世界人って言っても見た目はあたしたちとほとんど変わりないし、言葉だって一部よくわからない単語とかあるけど全然通じるし、そんなに構えるほどのものでもないんだけどね。

 数年前そういう人たちが数百人ぐらい押し寄せてきて――っていっても同時じゃなくてだいたい三十分おきに一人ずつだったそうだけど――それ以降もちょびちょびやってくるようになったの。

 

 出現場所は今のところドーンゲート以外でも確認されてるらしいけど、あたしは他の町の事はよく知らない。行ったことないし。

 最初はほんとすごいパニックだったらしい。やってきた人たちはみんな「いったいどこだここは」状態で話も聞かず、こっちもこっちでどっか別の国からやってきた人たちなのかと思ったら全然話がかみあわないしで。

 でも今は異世界人――今はプレイヤーって呼び方が一般化してる。意味はよく知らない――がやってきてもこちらにはそれなりの心構えと準備があるし、最悪先に来ていたプレイヤーが説明に当たると案外大丈夫みたい。

 それでも信じられないっておかしくなっちゃう人もいるらしいけど。


 とにかく今アツイのはドーンゲートだ! 宿屋なんてやってる場合じゃない! といわんばかりの勢いでやってきてしまったあたし。

 でも本当はあたしの家出と異世界人が現れたのとはあんまり関係ないんだけどね。

 あたしは昔から憧れてたんだ。ギルドの仕事をこなして生計を立てる冒険者に。


 

 勢い込んでドーンゲートにやって来たまではいいんだけど、なんかすっごいスキルを持ってるわけでもないポッと出の田舎娘が、いきなりギルドに「なんか仕事ありませんか?」って言ってもいやそうな顔をされるだけ。

 ギルドを門前払いされたあたしは、行くアテもなく街をさまよう事になった。

 いや、実はアテはあったんだけど、あんまり気が進まなかったんだよなぁ。


 ドーンゲートには買出しの用事なんかで何度も来たことはあるけど、いつ来ても大きな街だ。

 プレイヤーが数多く流入したっていうのに街の収容力は十分それに耐えて余りあるぐらい。

 中央の広い噴水広場に、そこから伸びる六つの道。その道に沿っていろんな建物がひしめきあってる。

 国でも一二を争う大きさのギルドや教会、情報を交換したり仲間を斡旋してくれる酒場に、あとものすごく大きな宿屋もある。

 北の商業区ではいろんな露天が所狭しと看板を立て、いつも大勢の人でにぎわってる。

 南の居住区は一角に上流の皆様がお住まいの高級住宅街がある一方で、対極には治安の悪いスラム街があったりで住民はとにかくごちゃまぜ。 

 治安が悪いとは言ってもあんまり目立つと教会の怖~い断罪騎士ジャッジメントナイトがやってきて制裁を加えられたりペナルティスキルをつけられたりしちゃうから、そんなに悪いことはできないんだけどね。

 

 一日中あてもなく街をぶらついたあたしは、とっぷり日も暮れた頃早くも路頭に迷いそうになった。

 両親や村の皆にでかい口叩いて出てきたもんで、さすがに観光だけして帰るというわけにもいかなかった。 

 かといって年頃の若い娘が野宿するわけにもいかず、嫌々ながらこの街の旅人の宿をほぼ独占している巨大な建物の扉を開くことにした。

 実はここ、あたしのおばさんが経営してる超巨大宿屋「レムレムランド」。

 宿屋って言ってもあたしの実家みたいなせいぜい三パーティが泊まったら満員になるようなしょっぱいところじゃない。

 あたしの実家が丸々二十軒は入りそうな、宿屋というかもはやお城? ってぐらいのスケール。実際どこぞの王様も泊まりに来るらしい。 

 

 恰幅のいいおばさんの名前はレズリーって言って息子が一人いるんだけど、娘が欲しかったらしくあたしはメチャクチャ気に入られている。他のお客さんの前でいきなり頬ずりとか、本当にやめて欲しい。

 本当は一般客として隠れて利用しようとこそこそしてたら、いきなり見つかっちゃって。

「テム(あたしのお父さんの名前)のことが嫌になったんなら、ずーっとここにいてもいいのよ?」

 なんて言われて、強引に一人では大きすぎる部屋をあてがわれてしまった。

 いや、もちろん料金は払ってるよ? タダでいいって言われたけどここは意地でも払うで押し通した。ちょっと割安だけど。いや、かなり。

 でもまあ、そんなこんなであたしのドーンゲートでの冒険者生活が始まった。自称、ね。

 




「は~い、二千とんで五十一人目のプレイヤーの方とうちゃ~く!」


 それからというもの精力的にギルドの仕事をこなすあたし。

 そう、ここに初めてやってきたプレイヤーが混乱しないよう丁寧かつ的確に彼らを導いてあげるのが今のあたしの仕事。

 この仕事始めてもうそろそろ半年になるけどすっかり板についてきた。

 いやあ、すごいね、えらいね、ちゃんと冒険者やってるよあたし。

 ……ってどこが! だいたいこの仕事もレズリーおばさんの口利きで見つかったようなもんだし……はあ。

 元気な掛け声とは裏腹にあたしの内面はかなり憂鬱。

 だけど今は仕事中だし、そんな素振りは一切見せちゃいけない。そう、何事もこうしてコツコツとやることから始まるのだ。

 

 ここはドーンゲートの中央広場。

 広場の中心にいつからか半径二メートルぐらいの魔方陣みたいのが地面にできてて、ちょうどそこからプレイヤーが現れるようになってる。わかりやすいように魔方陣の上にアーチみたいのも作ってある。

 ギュィィィンっていう変な音がしたら合図。空間が歪んでプレイヤーさんのご登場ってわけ。

 にしてもコイツ、無口なヤツ。こっちが必死に声かけてるのにさっきから無視されてるし。

 とあたしは現れた黒髪のプレイヤーに少し腹を立てる。

 やがてぼそぼそとしゃべりだした男に、いつもの調子で説明を始めた。


 コウトという名前のそいつの第一印象は……、無愛想で、なんか変なヤツ。でも別に嫌な感じはしなかった。

 見た目はそこそこいい……かな? 年も同じくらいだと思う。 

 これまでに三ケタ……は行かないけど結構な数のプレイヤーを相手にしてきたけど、この人はどこか違う印象だった。

 それに……見たことも聞いたこともないオリジンスキル『神託』。

 そりゃあたしが知ってるスキルなんてタカが知れてるよ。でもなーんか怪しい。一瞬ウインドウを覗き込んだ時に見えたメチャクチャな文字列。あれは……。

 それに普通はだんだん落ち着いて緊張が和らいでいくもんだけど、スキルを使った途端彼の表情はとても険しくなった。

 その後あたしの話を拒否して去ろうとするから思わず引き止めた。でもなんかあんまりあたしと関わりたくないみたいで、最後に寂しそうに一言漏らしてすぐ別れちゃった。


 その日は結局それで終わりだったけど、それからというものどうしてもその人のことが気になって仕方なくなった。

 次の日もヒマさえあれば無意識に姿を探しちゃったり、初心者が行きそうなところに顔出してみたり。

 でもまあ、そしたら案外すぐ見つかった。

 だって他のプレイヤーたちは街の探索もそこそこにすぐレベル上げに外へ出るんだけど、アイツはずっと街の中をウロウロしてばっか。

 そんなにおしゃべり好きには見えないのに、やたらと町の人に声かけまくってる。

 なんか誰もいないような入り組んだ路地裏に入っていったり、人の家に勝手に上がりこんで追い出されてたり。

 とにかく不審な行動が目立つ。まあそれを追っかけてるあたしのほうが不審っちゃ不審だけども。

 この前なんて酒場でちょっと耄碌しかけてるおじいちゃんの長話を来る日も来る日も延々聞いてたっけ。

 で、そのくせあたしが話しかけたら「なんだよ、なんか用かよ?」ってそっけない。嫌われてるのかな、あたし。

 最近はさすがにストーカー紛いなことはしてないけど。


 そんな中あたしの元に一つの訃報が届いた。

 それは一人の知り合いからのフレンドメッセージ。以前あたしが実家の手伝いをしていた時の常連さんだった。


「ゲイルがずっと前から人喰い討伐に行ったきり連絡が取れないの」


 ゲイルさんはあたしの憧れの冒険者。あたしはあの人のする話が好きで、宿屋にやってきてくれるのをいつも楽しみにしていた。 

 実を言うとあたしが冒険者を目指すようになったきっかけも、この人によるところが大きい。

 あたしが小さい頃からよく可愛がってくれていて、「フィーネちゃんがもう少し大きくなったらオレのパーティに入れてやるか」とか言って父さんとケンカしたりもしてたっけ。

 メッセージを送ってきてくれたのは当時ゲイルさんとパーティを組んでいた一人ラーシャさん。

 もうゲイルさんとのパーティは解散しちゃったらしいんだけど、お互い連絡は取り合ってたみたい。

 ゲイルさんはゲイルさんで別の国に行ってたり、あたしはドーンゲートに出てきてたりでめっきり会わなくなっていた。 

 あたしには人喰い討伐に行くなんて一言もなかったのに……。 

 

 人喰い。知ってはいたけどどこか別世界の話だと思ってた。話を聞くだけでも身の毛がよだつ怪談の類。

 本当は恨み言の一つも言ってやりたいぐらいだけど実際そんな恐ろしい怪物みたいなのにそんなこと、できるわけがない。

 討伐隊のクリスタルは今まで見つかったことがないって言うし……。


 元気が取り柄なあたしも、さすがに今回はへこんだ。

 悲しみで一晩さめざめと泣き続け、さらに自分のちっぽけさと無力さで涙が溢れ出した。

 ――あたしはゲイルさんみたいな冒険者になりたかったのに、なんでこんなことしてるんだろう。


 あくる日、ギルドの仕事も休みどこか明るい雰囲気のところへ、と思って酒場にやって来た。だけど全然気分は晴れない。

 何を注文するでもなく椅子に腰掛けテーブルに頬杖をついてぼけっとしていると、二つほど離れたテーブルに見覚えのある顔が目に映った。

 コウトくんだった。ウィンドウを開いてそれとにらめっこしている。

 あたしはそんな彼の姿をぼーっと眺めていた。でもどこか焦点が合っていない感じ。そして気がつくと目の前にコウトくんがいた。

 

「お前、さっきからなんなんだ気味悪い。呪いでもかけられたか?」

 

 向こうから声をかけてくるなんて信じられない。よっぽどあたしの様子がおかしかったのだろうか。

 なぜだかすごくうれしかったけど、それでもあたしの気分は沈んだまま。


「違うよ。…………ねえ、人喰いって知ってる?」

「知ってるが、それが?」

「え? ううん、別に……」


 思わず人喰いという言葉が口をついて出てしまったけど、こんな話を彼にしたところでどうしようもない。

 話を聞いてもらって慰めてもらう、とかそういう間柄でもないし。でも本当は、心のどこかでそんな期待をしていたのかもしれない。


「…………人喰いか。まあ放置しておいても特に害はないだろ」


 コウトくんが独り言のようにそうつぶやいたのをあたしは聞き逃さなかった。

 人喰いっていうワードに過剰反応しているのかも。


「放置って……そんな! いったいどれだけの人が犠牲になったと思ってるの!?」

「自業自得だろ? 夕闇の森にさえ足を踏み入れなければいいんだ、わざわざこっちから討伐しに行くなんてバカげてる。自殺行為もいいとこだ」

「そんな言い方……ないよ……。今はそうかもしれないけどずっとそうとは限らないでしょ? ゲイルさんは皆のためを思って……ゲイルさんは……」


 また胸の辺りが苦しくなって、そこで言葉がつかえてしまう。

 あたしは知ってるんだ。コウトくんなんてほとんどモンスターと戦ってないだろうし、レベルだってまだ全然。

 ここに来てからというもの変な事ばっかしてる人がそんなこと言ったって全然説得力がないし、ちゃんちゃらおかしい。

 一度飲み込んだ言葉は、これまでの鬱屈した気分を爆発させるように堰を切って流れ出した。  


「……ゲイルさんはコウトくんみたいな口先だけの人じゃない! レベルだってずっと上で武器もスキルもいっぱい持ってて、でも偉そうになんかしなくていつもやさしくてあたしを笑わせてくれて! 本当は人喰いのことなんてどうせろくに知らないんでしょ!? 知った風な口きかないで欲しいんだけど!」 

 気が付いたら大声でそうまくしたてていた。もう半泣きですごい顔してただろうし、まわりからの視線も感じるけど今のあたしはそんなもの気にならない。

 ゲイルさんのこと言うつもりはなかったけど、不意に怒りがこみ上げてきて止まらなかった。

 コウトくんはそんなあたしの態度に腹を立てた様子はなかった。ただ無言でうつむいたままのあたしを、じっと見つめているようだった。

 しばらくお互い沈黙のままそうしているとなんか自分がガキみたいに思えてきて、少し冷静になったあたしは謝罪の言葉を口にする。


「…………ごめん、言い過ぎた。いきなりそんなこと言われてもなに言ってんだって感じだよね……」

「ゲイルっての、お前の知り合いか?」

「…………うん。あたしの、憧れだった人」

「……悪かった、俺は……」

「いいんだよ、だいたいそんなのコウトくんのせいじゃないし。ただの八つ当たりだよね」

「いや、マンイーターは俺が……」


 コウトくんは何か言いかけてそれっきり口を閉ざした。何か考え込んでいる風でもある。

 マンイーター? ってなんだろう。やっぱりちょっと変な人なのかなこの人。

 あたしが反応に困っていると、

   

「用事を思い出した。じゃあな」


 と言い残し彼は去っていった。去り際に盗み見た彼の横顔は、どこか悲しげで、寂しそうだった。

 あたしに見られていたとは本人も思っていないだろう、いつもの無表情を崩していた。

 それはもう、今のあたしが心配してしまいそうなほど。


 

 人喰い討伐の報がドーンゲート中を駆け巡った日、なぜかあたしの脳裏には彼のその時の表情が浮かんでいた。


一応マンイーター討伐の裏側って感じで。



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